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第二生徒会

俺は桜空の執事である、じーじという人のおかげで学年中の男子生徒からくる嫉妬の視線から回避することができたらしい。

桜空曰く、男子生徒の記憶をなくさせるために、ひたすら男子生徒の後頭部を殴り続けたらしいが、実際のところは桜空家に代々伝わる秘宝“絶対に怪我をさせない棒”というもので殴るというより叩いていたらしく、身体的には問題ないという訂正を付け加えてきた。

俺は色々ツッコミたいことが山ほどあったが、その秘宝の餌食になるのは嫌なのでやめておくことにした。

ということで本題に入ろう。


「結局、部活の話って何なんだよ」


俺は文芸部の部室とやらの真ん中にあるパイプ椅子に座って、長方形の机に両腕を置きながら、目の前に座っている桜空に尋ねる。


「ああ、そうでした」


この人は毎回こんな感じである。もうそれならいっそパターン化してほしい。

ス○ライクザブラ○ドの「これは俺の喧嘩だ」「いいえ先輩、私たちの喧嘩です」的な感じで、「桜空、話ってなんだよ」「ああ、そうでした」みたいな。・・・・・・・・・・カッコ悪、これ。


「お話というのはですね」


桜空が話の内容を言いかけた次の瞬間、


バンッ!


この教室のドアが開く音がした。

音のなった方へ視線を向けると、そこにはおそらくアラサーくらいで黒髪ロングの黒のスーツを着ている、割と美人な女の人がいた。しかも、まあまあ巨乳。


「よぉー悠人。久しぶりだな。元気にしてたか?」


その女性はまるで俺に会ったことがあるかのように俺のことを名前で呼んで、話しかけてくる。


「なんだ?その顔は?まさか・・・・・・・忘れたわけじゃないよなぁ?」


その女性はそう言うなり、殺気というオーラを出しながら、指をポキポキ鳴らす真似を

ポキッ!ポキッ!ボキッ!

真似ではありませんでした。ガチもんでした。ってか最後のボキッてなんだよ。恐ぇよ。

ぶっちゃけ関わりたくなかったので、忘れていたふりをしたが、どうやらここまでのようだ。

高校生活、一週間経たずに死にたくはねぇし。


「忘れてませんよ。だからそんな物騒なオーラを出さないでもらえますか。ほら、桜空も相当怯えてるんで」


俺はこの教室の隅っこにいる、恐怖でまるでネズミぐらいにちっちゃくなっているように見えた、桜空を指さして、女性にそう言った。


「あははは。すまんな、桜空。これは男子のごく一部にしかやらないから、お前は安心して大丈夫だぞ」


もう絶対それ俺だけじゃん。


「あっ、そうなんですか。それなら・・・・はい、わかりました」


そう女性に説明されると、桜空はどうやら普段通りに戻ったようで、


「ですが先生。陰山さんとはもうお知り合いだったのですか?」

「あぁ。まあな。腐れ縁ってやつだ」

「いや、ちげぇだろ!確実に必然だろ!」


ここで遅くなったが、この女性の名前は新川(しんかわ) (いずみ)

俺の母さんの妹。つまり俺の親戚で伯母である。

ついでにこの学校の教員で担当科目は数学だ。

こんな体育会系丸出しの人がなぜ数学教員なのかはいまだに謎なんだが。それで、なぜ俺とこのアラサーババ


ボキッ!(指を鳴らしている音)


美人なお姉さんが知り合いなのかというと、親戚ということはもちろんあるが、この人はもともと道場を開いていて、その道場に俺が小学生の時に入っていたというわけである。

まあ、とある出来事があって、それまでやっていた習い事を全部やめようとした際に、道場もやめるつもりだったのだが、この人に無理やり止められて、結局道場だけは小学校を卒業するまで続けることになってしまったのだ。

ということを、俺はとある出来事の部分だけ抜いて話した。


「なるほど。そういうことだったんですか。ですが、最初に言った腐れ縁じゃなくて必然っていうのはどういう意味ですか?」

「あぁ。それか。それはな、俺の母親が超過保護で、それで俺のことが心配だからって、母親の妹である、新川先生が俺の監視役としてここに派遣されたわけ。しかも先生は中学の教員免許も持っているから、中学の時も一年の時から三年で卒業するまで、きっちりいたんだぜ。だから、この状況は必然ってわけなんだよ」


俺がそう説明すると、桜空が「そうなんですか?」というような目で新川先生を見る。

そんな桜空に対して、少々戸惑ったのか、新川先生は苦笑いをした。


「でも、よくそんな上手く合わせられますね。陰山さんが中学を入学してから、卒業するまで学校に教員としてちゃんといて、そのあとすぐに陰山さんと同じ高校で教員をやるなんて」


桜空が驚いていると、新川先生が自慢げに言った。


「私は対おじさんにはめっぽう強いからな」


いやいや、全然自慢できるところじゃねぇよ。

しかもちょっとパワ○ロの特殊能力的な感じに言わないでもらえますか。

仮にも親族の前で。

俺が少し辱めを受けている一方で、桜空が「おぉー」と感心している。・・・・・・この人は本当に意味を分かっているのだろうか。


「で?なんで新川先生がここにいるんですか?」

「なんだ?お前はまだ聞いてなかったのか」

「は?」

「先生、ここは私が」


桜空はまるでプレゼンに苦戦している社長をフォローする秘書のようなことを言い、先生のすぐ横に立って、手のひらを返して、その手を先生の方に向けながら


「新川先生には、私たちの部活の顧問をやってもらうことにしました」


俺はそれを聞いても、そんなに驚かなかった。

第一、部活の件でここに呼ばれて、そこに先生が入ってきたのだ。

普通に考えたら部活の顧問というのが妥当だろう。

まあ俺は心優しいので、たとえわかっていたとしてもわざと驚いたふりをしてやるのさ。あぁ、俺って超優しい。

そういうことで、俺がわざと超驚いた顔をしてから、


「・・・・・・え?まじ?」

「はい」

「どうした陰山?そんなに私が顧問じゃ不満かぁ?」


せっかく驚いたふりをしてあげたのに、この返し。

正直不満しかないのだが、そんなことを言ったら、俺の存在がこの世界から抹消されそうなのでやめておこう。


「い、いいえ。別に」


俺が目を逸らしつつ、小さな声でそう答えると、桜空がとんでもないことを言いだした。


「あと、先生には私たちがやる部活の内容を決めてきてもらいました」


・・・・・・・え?まじ?(ガチのやつ)


「ハッハッハ。まあ私が独断と偏見によって、お前らに合った部活になるよう思考に思考を重ねて考えてきてやったからとくと聞くがいい」

「待て、待て。桜空、もしかして本当にこんな怪物に部活の内容を決めさせるのか?」

「はい。そうですが」

「二人とも私が怪物ということは訂正してくれないんだな。さすがの私でも傷つくぞ

「桜空。考え直してくれ。こんな怪物クソババアなんかに俺たちの部活を託したら何しでかすかわからない・・・いて、いででででで!?」


俺が桜空を説得しているときに急に頭に激痛が走ったので、顔だけ半分後方に振り向くと、そこには新川先生がものすごい形相で、俺の頭を掴んで身体ごと持ち上げていた。


「おい、陰山。私はさっき傷つくと言ったんだがな。そうか。聞こえなかったか。なら仕方がない。その悪い耳をこの頭ごと消滅させてやろう」

「いやー。僕、超先生が好きなんですよ。こんな若くて美しい方、なかなかいませんし。だからこの部活の顧問になってくれるなんて大歓迎。もう僕このためにだけに生きてきたんじゃないかな。うん」

「見え見えのお世辞だが、今日はこのくらいで勘弁しておいてやろう」


新川先生はそう言うと、俺の頭を掴んでいた手を離した。

俺は急に離されたもんだから、床に思い切りしりもちをついてしまう。

しかも、これが結構痛い。

俺がしりもちの意外な痛さの現実に直面していると、新川先生がさっきと顔色を変え、真剣な表情で言った。


「まあ、陰山。心配するんじゃない。私は一応教師だ。危ない部活なんか毛頭作る気なんかないさ」

「それが普通なんだよ!何を当たり前のことをめっちゃ真剣に言ってんだ」

「じゃあ今から部活の内容並びに部活名を発表したいと思いまーす」

おい、無視すんな!

「ではまず部活名から」


新川先生がそう言うと、この教室になんだが妙な緊張が走る。といっても新年度のクラス替えの貼り紙を見るくらいのだけどね。

そんな緊張感のなか新川先生が少し時間をおいてから口を開いた


「部活名は、第二生徒会だ!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?????????????

おそらく俺の今の脳内を表すとこんな感じだろう。

生徒会?しかも・・・・・第二?

俺が部活の名前で頭の中がひっちゃかめっちゃかになっていると、桜空が冷静に新川先生に疑問を投げつける。


「新川先生。その第二生徒会というのは部活なのでしょうか?」

「まあそう焦るな。今から内容もきっちし説明してやるから」


新川先生はそう言ったあと、コホンと一つ咳をしてから


「えー、では今度は部活の活動内容の説明に入る。この第二生徒会という部活は依頼された生徒の問題や、学校関係者の問題をなるべく穏便に解決すること。これがこの部活の活動内容だ」

「あの、先生?」

「なんだ、桜空」

「その問題というのはどの程度の大きさの問題なのでしょうか?」


俺はその桜空の質問に一人で感心していた。

確かに、問題と言っても、いじめなどの社会問題レベルのやつまであれば、ゴミ拾いなどの軽くボランティア感覚でできる問題だってある。

もし、俺らがいじめなどの類の問題を桜空と二人で解決することになんてなったらその時は即刻退部しよ。


「安心しろ。そこだへんは心配ご無用だ。なんせ私が独断と偏見による判断によって、私が直々にこの部室に依頼を持ってくるからな」


つまりこういうことか。新川先生が問題がありそうな人や、なんらかで困っている人を探し、見つけたらその人に第二生徒会への依頼を提案し、それが了承されたら、俺と桜空でその問題の解決に取り組むということか。

ただし、その依頼の大きさを新川先生が独断と偏見で判断し直々にこの部室に持ってくるだけであって・・・・・・って


「それがダメなんだろぉ!?」


俺は思わず突っ込んでしまった。

いや、ダメダメダメよ。

こんなやつに依頼を持ち込ませたら、世界滅亡とかそんなレベルの依頼を持ち込んできそうである。

しかもこの人どんだけ独断と偏見好きなんだよ。

同じシーンで二回もその言葉を言う人初めて見たよ。

ついでに、なんか今の流れの感じでここが部室ってことわかっちゃたし。

なにこれ。部室の紹介ってこんな雑でいいの?


「何がダメだというんだ陰山」

「いや、絶対ダメでしょ。あんたにそんなことまかせたら確実に俺か桜空のどちらかが死ぬぞ」

「そ、そんなことあるか。私はこう見えてもきっちりかっちりしているんだぞ!」

「そんなやつは独断と偏見なんて言葉使わねぇよ!」

「ちっ、面倒くさいやつだなぁ。じゃあ私が依頼集めするのがダメな理由を三十字で述べよ」

「は?え?三十字、え、えっと・・・・・・・・・ってできるかぁー!」


ったくなぜここで数学教師が国語の問題みたいなの出してきてんだよ。

いや、でも桜空ならこういうのはできそうな感じがある。これはこれで偏見なんだが。

そう思いつつ、桜空の方を見ると、桜空はなんと



めっちゃ白けていた・・・・・・・・・。



まあどういうことかと説明すると俺と新川先生をすごく白けた目で見ていたわけなんだが、その白けが尋常じゃなさ過ぎて桜空の身体全体が真っ白になっているように見えるのだ。

そう、まるで故意ではなく、存在感の問題で仲間外れにされた人間のように。


「・・・・・桜空?」


俺がそんな様子の桜空に恐る恐る彼女の名前を呼ぶと、桜空は聞こえるか聞こえないかというくらい弱々しい声で


「もう、それでいいんじゃないですかぁ―――?・・・・・・別に私さっきから質問しかしてませんでしたしぃ―――。なんか存在を忘れられていた気がしましたしぃ――――」


めっちゃグレてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!?


「はははは。そうだな。もうこれでいいな」


俺はそう言って苦笑しつつ、新川先生の方を向く。


「じゃ、じゃあこれで決定ということで。はは、ははは」


新川先生も苦笑しつつそう言った。

それから、俺と新川先生はきれいに桜空の前に整列した。

そして


「「すいませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」


誠心誠意二人で土下座しました。


最後はこんな感じになってしまったが、第二生徒会、ここに創設である。



********



結局、今日は部活の名前とその活動内容だけ説明しただけで第二生徒会は解散ということになった。

桜空は何やら急ぎの用事があるとかでさっさと帰っていき、新川先生は仕事がまだ山積みだとかほざいて部室のカギを俺に預けて飛び出していった。

そういうことで俺は今一人である。といっても別段することはないので、帰る支度を着々と済ませているところだった。

そして最後の教科書を鞄に入れ終え、俺は部室を出て、ドアの鍵を閉め、そのまま鍵を事務室に戻すために歩き始めようとすると


「私がいつ、お前の母親に頼まれて、お前の監視役になったのかな?」


背後から女性の声が聞こえた。


「あれ?違いましたっけ?まあどうでもいいですけど」


俺がわざとらしくそう言いながら、後ろを方向に振り向くと、そこにはこの学校の数学教諭であり、第二生徒会顧問でもある、新川 泉先生がいた。

どうやら俺が出てくるまで待ち伏せされていたようだ。


「ってか仕事山積みなんじゃないんですか?」

「私は言っただろう。こう見えてもきっちりかっちりしているんだと」

少し自慢げに新川先生はそう言う。

「あれ嘘じゃなかったんですね。先生にも人間らしいとこあって少し安心しましたよ」

「おい、賛辞と同時に冒涜(ぼうとく)をするな」


今のはどう聞いても冒涜百パーセントだった気がするが。

そんなことを思いながら軽くため息をついて、俺は口を開いた。


「で?何かようですか?」


俺がそう尋ねると、新川先生は急に真剣な表情なって言った。


「陰山。お前はまだ昔のことを引きずっているのか?」


俺はその質問に対していつもより冷静に答える。


「いや、別に。引きずってるんじゃなくて、あれを教訓にしているだけですよ。ほら、ゲームとかだって戦えば経験値もらってレベルアップするでしょ。あんな感じで俺もただ人としてレベルアップしただけです」


そう。ただそれだけの話。

たぶん、この言葉を発していた俺の目はおそらく死人同然の目をしていただろう。

誰にも、何も期待していない。すべてを諦めている。そんな目だ。

俺の返答に困惑したのか、少し間が空いたあとに新川先生は少し寂しそうに呟いた。


「悠人、お前の見ている世界はあの時から変わっていないんだな」


俺は新川先生のその言葉に返す言葉がなく、無言のまま先生に背を向け、廊下を歩いていった。


そして俺は思う。

俺は何も変わっていない。あの時から何一つ。

そう。俺はあの時からずっと――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――—空っぽのままだ。


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