告白
「なあ、咲」
「はい。何でしょうか?」
「・・・・・これで全員か?」
「そうですよ。悠人さん。これで全員です」
「・・・・・・・・」
今、俺は咲と一緒に遊園地の入り口付近にいるんだが・・・・・・。
なぜ、二人だけしかいない!?
俺は心の中で叫ぶ。
というか、咲はこのことを知っていたっぽいが、俺は全く知らされていないんだが。
「どうかしましたか?」
俺がそんなことを思っていると、咲が心配そうに尋ねる。
「いや、何でもないよ。それより、行くか」
「あ、そうですね・・・行きましょう」
咲の言葉を聞くと、俺と咲は遊園地へと入っていった。
**********
「うわっ、めちゃ込んでるな」
「そうですね。やはり、休日だからでしょうか」
白いワンピース姿の咲は俺に向かって言う。
正直、今の咲の格好は浮いていた。かなりいい意味で。
というか、遊園地にこんなお嬢さまオーラはいらない気がする。
「あのさ、悪かったな」
「・・・はい?」
咲は首を傾げる。
どうやら俺の言葉の意味が分からなかったようだ。
「いや・・・その・・・色々迷惑かけちゃってよ」
俺がそこまで言うと、ようやく咲は気づいたようで、
「あっ。・・・いえ、別に私は何もしていませんから」
咲はそう言うと、少し顔を俯かせた。
その表情は今、咲自身が言ったことから来るものか、それとも、早苗のことを思っての言葉か、俺にはわからない。
今回、俺は本当に情けなかった。
幼なじみを傷つけないようにと、勝手に自分の気持ちに嘘をついて、結局、それがに早苗を傷つけることになってしまって。
本当に・・・・・・俺はバカだった。
「悠人さん!」
唐突に咲が俺の名を呼ぶ。
俺は思わず驚いて、顔を上げると咲は少しふくれっ面になっていた。
「悠人さん!今日は楽しい楽しい遊園地なんですよ。そんな顔をしてはいけません!」
咲はまるで保育園児にいうような言葉を俺に言ってきた。
いや、さっき咲も同じような表情をしていた気がするんだが。
でも、おそらくこれは咲なりの優しさなのだろう。
なら、それは素直に受け取っておくべきであって、
「そうだな。まあ、じゃあ早速何か乗るとしますか」
「はい!」
咲は笑顔で返事をしてくれた。
そういえば、この笑顔を見るのも久しぶりな気がする。
「じゃあ何から乗る?」
俺が尋ねると、咲はうーんと頭を悩ませる。
そして、しばらくすると何か思いついたようで、
「では、あれなんかどうでしょう?」
「え・・・・あれか」
咲の指さす方向を見ると、俺は苦笑した。
何故かはすぐにわかるだろう。
***********
俺は今、強烈に高いところにいる。
ってか、これ人類史上一番高いところにいるんじゃねーの。
そして、めちゃ恐い。超恐い。
「これどのくらいまで上がるんでしょう?」
隣にいる咲はワクワクしながら、そんなことを聞いてくる。
いやいや、そんなこと答える余裕ないから。だって、
ジェットコースター乗ってるんだぞ!?
こんな俺を見て、ジェットコースターでそんなにビビるとは情けないと思う人もいるだろう。
だが、これは違うのだ。
ここの遊園地は前にちーちゃんと来たところとは違い、かなりすごい遊園地なのだ。
まあ少し頭の悪い言い方をしてしまったが、具体的にどうすごいのかというと、
「すごいです!悠人さん!すごく高いですよ!」
そう。
ジェットコースターで言うと、とにかく高い、そして、速い。
下を見たら、もう人が米粒みたいになっている。
ってか、もう勘弁してくれ。
と、そんな風に俺がビビっていると、ついにあの時が来てしまったようで。
「悠人さん!もう落ちますよ!」
咲、それは言わないで欲しい。
まじで、失神しそうだから。
そして、その三秒後、
俺は勢いよく落ちていった。
********
「楽しかったですね!悠人さん!」
「・・・・・・お、おぉ」
ハイテンションな咲に対して、俺は弱々しく答える。
咲はどうやら絶叫系が得意らしい。かなり。
俺はあれのどこがいいのかさっぱりなんだが。
「大丈夫ですか?悠人さん?」
咲は不安そうに尋ねる。
俺のことを心配してくれているらしい。
「だ、大丈夫。大丈夫」
頑張ってそう言ってみるが、声が全然出ていなかった。
すると、咲は申し訳なさそうに言った。
「すみません。私があれを乗りたいと言ったばかりに」
咲はそう言うと、頭を下げる。
ったく、俺はなにをやっているのだろう。
せっかくさっきまで咲が楽しそうにしていたのに、これじゃ、俺のせいで台無しである。
ここは気合を入れて、
「大丈夫だ咲。謝る必要は全くない。で、次はどこ行く?咲の行きたいところ言っていいぞ」
「え、でもそれは・・・・・」
遠慮しているのか、咲は言葉を濁している。
「別に気づかいなんて、全くいらないぞ。ほら、好きなのを言っていいぞ」
俺が胸を張りながら、そう言うと、咲はその気になったようで、
「では、今度はあれを・・・・」
俺は咲の指さした方向を見る。
そして、その方向あったのは、
「・・・・・フリーフォール」
*********
それから、俺と咲は絶叫系を始め、色んなアトラクションに乗りまくった。
正直、遊園地の全部のアトラクションを乗ったんじゃないかと思ったくらいだ。
そして、今、俺と咲は観覧車に乗っている。
もう日は落ち、すっかり暗くなっていた。
そのおかげか、観覧車から見る町の景色はとても綺麗だった。
色々な色の町の光が無数に見え、感動的である。
「今日は楽しかったですね!」
咲は笑みを浮かべそう言った。
確かに今日は楽しかった。すごく。
でも、俺は一つ引っかかることがあった。
昨日、早苗の言っていた、百点になるというのは、結局、どういうことだったのだろう?
これで百点になっているのだろうか?
「悠人さん?」
俺がそんなことを考えていると、咲が俺の顔を覗き込む。
・・・・・ってか、近いんだが。
「あ、あぁ。そうだな今日は楽しかったな」
俺は誤魔化すように先ほどの、咲の言葉に答えた。
すると、咲は急に、
「私、悠人さんに出会えてよかったです」
咲は微笑みながら俺に言う。
その時の咲の頬はほんのり赤く、とても可愛らしかった。
「なんだよ。・・・いきなり」
「いきなりではありません。ずっと思っていたことです」
いや、そんなことを言われると、正直、恥ずかしいんだが。
俺がそう思っているとは知らずに、咲はそのまま話し続ける。
「私が困っている時、悠人さんはいつも私のことを助けてくれました。私が婚約を無理やりされそうになった時も、私が友達がいないときも」
咲はゆっくりと俺にしっかり伝わるように大事に言う。
「いや、それは違うだろ。婚約のときは俺の意思で行動しただけだし、それに、友達は咲からなりたいって言ったんじゃないか。別に俺は何もしていない」
「いえ、それでも、私は悠人さんではなかったら、このような一緒に遊園地で遊べるような関係にはなれなかったと思います。だから・・・・・私はとても感謝しています。悠人さんに」
咲は俺に向かって言う。
正直、咲の言葉は間違っていると思う。
咲は俺だからこんな関係になれたと言ってくれたが、俺はそうは思わない。
咲なら誰とでも同じような関係になれただろう。
それが、たまたま俺だっただけで。
でも、そんなたまたまが俺だったのが、俺はすごく良かったと思う。
そのおかげで俺と咲はこんなすごくいい友達に・・・・・・・・。
その瞬間、俺の胸がギュっと締め付けられる気がした。
・・・・・・なんだ?今のは。
「あの・・・悠人さん。私は悠人さんに伝えたいことがあります」
俺が胸の違和感を不思議に思っていると、突然、咲が俺に言った。
「・・・・・・伝えたいこと?」
「はい。そうです。・・・・・それは、ですね」
その時、咲はまるで天使のような美しい微笑みを俺に向ける。
そして、咲は俺に向かって言った。
「本当にありがとうございます。悠人さん」
咲の言葉は俺の胸に響き渡った。
そして、俺の頭の中に咲との思い出が一瞬で流れ込む。
『わ、私と友達になってください!』
『私はあなたを助けに来ました』
『私は悠人さん。あなたを助けるためにあなたの過去を背負いたいんです』
咲は自分をいつも助けてくれたと俺に言ってくれたが、やはり、それは違うのだ。
何故なら、
―――――――――咲がいつも俺のことを助けてくれていたのだから。
屋上で咲が俺に友達になって欲しいと言ってくれなければ、俺は今でもどうしようもないやつだったかもしれない。
咲が俺の過去を振り払ってくれなければ、俺は一歩も踏み出せないまま過ごしていたかもしれない。
感謝するのは俺の方だ。本当に・・・・・・。
その瞬間、また俺の胸がぎゅっと締め付けられ、今度は少し痛い。
だが、俺はその痛みが何かようやくわかった気がした。
――――――――――――――そっか、俺は。
**********
俺と咲は観覧車を乗り終えると、帰り道を歩いていた。
だが、園内は意外と広いので、まだ遊園地の外には出れていない。
人はもうほとんどいなく、今アトラクションを乗ったら、貸し切り状態みたいにできるだろう。
まあ閉園まであと十分だが。
「今日は本当に楽しかったです」
「あぁ。そうだな」
咲の言葉に俺はそう答える、
そして、園内の噴水近くまで歩くと、俺は進めていた足を止めた。
「・・・・・悠人さん」
咲は俺から数歩進んだ先で、俺が止まっていることに気づいたようで、振り返り尋ねる。
だが、俺はその言葉が耳に入って来ない。
「なあ、咲」
「はい?」
咲は不思議そうに俺を見ていた。
おそらく、何も気づいていないのだろう。
「俺さ、咲に言いたいことがあるんだ」
「・・・・・何でしょうか?」
俺がそう言うと、咲は少し不安そうな表情で、身体をこっちに向ける。
そして、俺は咲を真っ直ぐと見つめ、話し出す。
「俺はさ、咲に感謝してるんだ。すごく、すごく。咲がいなければ、部活に入って早苗たちとあんなふうに過ごせなかったし、咲がいなければ、今俺はここにいないと思う」
咲は俺の言葉を聞くと、驚いていた。
そして、ゆっくりと首を横に振って俺に言った
「いいえ、そんなことありません。・・・・悠人さんは私がいなかったとしても、今みたく、誰にでも優しく、人のためなら何でもできてしまう悠人さんだったと思います。元々、悠人さんはそういう人ですから」
咲は笑顔で俺に言った。
「でも、それでも、俺は咲に感謝をしているんだ。だから・・・・・・・・・咲、俺が今から言うこと聞いてくれるか?」
「え?・・・・・・・・はい」
咲は俺の言葉に戸惑った表情で答える。
だが、俺は一つ深呼吸をし、咲に向かって言った。
「俺は咲が好きだ!」
その言葉を言った瞬間、隣の噴水が勢いよく天に向かって水しぶきを上げた。
咲は俺の告白を聞くと、両手で口を押え、かなり驚いていた。
「俺はいつでも微笑みかけてくれたり、他人に弱いところを見せないように頑張ったり、人を助けるために無茶をしたりする咲が好きで好きでしょうがない。これは俺の本心だ。本当の気持ちだ。だから・・・・・」
俺は一つ息を整える。
そして、しっかりと俺の気持ちが彼女に届くように俺は言い放った。
「俺と付き合ってくれ!!」
俺の声はだいぶ響いた。
もしかしたら、園内に全部に響き渡ったかもしれない。
俺は咲をゆっくりと見る。
すると、彼女は泣いていた。
一瞬、俺はまた間違ってしまったのだろうか、言ってはいけないことを言ってしまったのだろうかと思った。
だが、彼女は、咲は口元にあった手を離す。
そして、俺に向けて笑顔を向けた。
それは俺が今まで見てきた中で、間違いなく一番の笑顔で、それで、一番可愛い咲がいた。
そして、咲はたった一言だけ答えた。
「はい」
*********
休み明け初日の学校。
俺は昼休みになると、屋上へ向かった。
そして、屋上の扉を開けると、
「やっぱり、ここにいたか」
俺は屋上で街をぼんやりと街を眺めている少女に言った。
すると、
「だって、ここは悠人さんとの始まりの場所ですから」
少女はくるりと振り返って笑顔で言った。
それはとても美しく、いつまでも見ていられそうだ。
「・・・・そうだな」
俺はそう呟く。
少女はそんな俺を見て、今度は少し意地悪そうな笑みを浮かべて尋ねた。
「でも、あの時とは違うことがあるんですよ?わかりますか?」
「・・・・・そうか?別に何も変わっていないような気がするけどな」
少女の言いたいことはわかっていた。
でも、それを答えるのは少し恥ずかしいので、俺ははぐらかしてしまう。
「もう・・・悠人さんは・・・・。でしたら、私が言っちゃいますね」
少女は少し頬を膨らましたあと、俺にそう言った。
そして、少女はそのまま俺に話し続ける。
「それはですね・・・・・私が悠人さんの彼女になったことです」
少女は俺を真っ直ぐに見て、笑顔で言った。
そう。
少女は、桜空 咲は陰山 悠人の彼女だ。
・・・・まあ、それもつい一昨日のことだが。
「そうだな。咲は俺の彼女だ。それで・・・・一番大切な人だ」
俺が恥ずかしいので、小さめの声で言う。
すると、咲は頬を赤くしながら、俺から目を背けた。
「・・・・・悠人さん」
突然、咲は俺の名前を呼ぶ。
俺は咲の方に視線を向けると、咲は目をつむっていた。
・・・・・・・・・・え?
俺は少し戸惑う。
これって、つまり・・・・・・・・・。
俺は今自分がするべきことを察する。
だが、本当にいいのだろうか?
まだ付き合って二日しかたっていないというのに。
でも、咲が勇気を出してくれたのだ。
ならば、俺もここは男を見せるべきなのだろう。
俺はそう思い、ゆっくりと咲に近づく。
そのあと、咲の唇にそっと自分の唇を近づけ、
そして、
「はやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!!」
怒鳴り声が聞こえた。
というか、これ本当に人間の声?耳が潰れそうなんだが。
声の主は超スピードで、俺と咲を両手で引き離す。
すると、扉の方から、ロリ銀髪少女こと、木の葉 雫と、可愛い系金髪美少女こと、乙川 千尋も屋上に入ってきた。
「悠人、まだ、早い」
「そうだよ。悠くん。私は君をそんなだらしない男に育てた覚えはないよ」
「いや、お前に育てられた覚えはないんだが」
俺は呆れながらちーちゃんに答える。
「そうよ悠人。まだ早いわ。まだまだよ」
俺の幼なじみこと、柚原 早苗は胸を張りながら言う。
その、まだまだは俺の恋愛経験の浅さを示しているように感じるんだが。気のせいだろうか。
「皆さん!どうしてここに・・・・」
咲は早苗たちに相当驚いているようだ。
まあそれには俺も同感である。
「え・・・・べ、別にたまたま通りかかっただけよ」
「・・・・・そう」
早苗と木の葉はぎこちなく答える。
というか、嘘だっていうのバレバレなんだが。
ちーちゃんなんて苦笑いしてるし。
「なるほど!そうだったんですね!」
信じちゃうんだ!咲さん、信じちゃうんだ!
「悠人!」
早苗は大きな声で俺を呼ぶ。
正直、俺は早苗とどう接そうかと思っていたが、早苗がいつも通りに接してくれるのなら、俺もそうするべきなのだろう。
「?何だ?」
俺が尋ねると、早苗は真剣な表情で言った。
「桜空さんのこと、泣かせたりしちゃダメよ」
「おう!わかってるよ!」
俺がそう言うと、早苗は笑みを浮かべた。
すると、突然、昼休みが終わる鐘が鳴り出す。
「あっ、いけないわ!このままだと授業が遅れちゃう!」
「これは、やばい」
早苗と木の葉はそう言って、屋上から走って出て行く。
相変わらず、慌ただしいやつらだな。
「じゃあ、私もいこっと」
そう言って、ちーちゃんは少し俺の方に視線をやってから屋上から出て行った。
・・・・さっきの笑みはなんだったんだろうか。
「悠人さん、私たちも行きましょうか」
隣にいる咲が俺に向かって言った。
不思議なものだ。
俺は、入学当時はモブキャラのような学園生活をしたい、目立たないように過ごしていきたいと思っていた。
そして、きっとそうなると思っていた。
しかし、それは入学二日目で早々に壊れてしまった。
桜空 咲のおかげで。
それからは、俺は咲の作った部活で、新しい人と出会えたり、過去に躓いたり、離れ離れになってしまった人と再会ができたり、人助けをしたり、過去を克服したり、幼なじみの本当の気持ちが聞くことができたりと色々なことがあった。
そして、俺は今となっては学年一の美少女と言われている人が彼女になっている。
入学当時の俺からは考えられないことだ。
おそらく、その時の俺にこれを伝えたら腰を抜かすのではないのだろうか。
でも、俺は今の俺であって本当に良かったと思う。
何故なら、俺はちゃんと一歩踏み出せた気がしたから。
沢山のことから。
それもこれも全て咲のおかげである。
彼女が共に踏み出してくれなかったら、今みたいに俺はなれなかった気がする。
だから、俺は思うのだ。
――――――――これからも彼女と一緒に歩んでいきたいと。
「そうだな。行こうか」
俺は咲の言葉にそう答える。
そして、
―――――――――――俺と咲はまた一歩踏み出した。




