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彼女は

俺はいつも通っている家路を一人歩いていた。

早苗と一緒に帰ろうかと思っていたが、俺が誘ったら今日は何やら街の方に用があるらしい。

辺りはもうすでに暗く、白い電灯がいくつもついている。


今日の部活にも咲たちは来なかった。

当たり前だ。だって彼女らは、


―『本日をもって、木の葉 雫、乙川 千尋、桜空 咲が退部をした』―


・・・・・どうしてだろう。

未だに俺はその理由がわからないでいる。

やはり俺のせいなのか?

でも、もしそれが本当だとしても、情けないことに俺は自分のどこがいけなかったのかがわかっていない。

・・・・・・・・いや、一つ、思い当たることはあるにはあるが。


―『自分の気持ちに正直になることだよ』―


新川先生はああ言っていたが、これはつまり、俺に早苗と別れろと言っているのだろうか。

まあ、新川先生が俺の気持ちを見透かしていて、こういうことを言っていたならばの話だが。

しかし、もしそういう意味で、ああいうことを言っていて、俺が新川先生の言った通り、

早苗と別れたとしよう。

だが、それでどうなるというのだ。

それはただ早苗と俺の関係が切れてしまうだけではないのか。早苗が傷つくだけではないのか。

だから、俺にはそんなことはできない・・・・・・できるはずがない。


プルルルル


突然、携帯が鳴り出した。

俺はそれをポケットから取り出し開く。

すると、画面には名前が表示されていた。


『木の葉 雫』



**********



俺は今、家の近くの公園にいる。

だが、家の近くと言っても、木の葉 雫の家に近いという意味だが。

何故こんなところにいるのかというと、それは先ほどの電話で呼び出されたからだ。

大事な話があると言われて。


「悠人」


俺はベンチに座りながら待っていると、ようやく木の葉が来たようだ。

というか、さっき俺がいた場所より木の葉の家の方がこの公園と近いはずなんだが、なぜ俺の方が早い・・・・・・。


「お、おぉ」


俺はぎこちなく返事をする。

それはそうだ。木の葉も退部した人の中の一人なのだから。

正直、いつも通りに接していいのか迷う。


「・・・・悠人?」


俺がそんなことを思っていると、木の葉は不思議そうに俺を見る。


「あ、あぁ、悪い。少しぼーっとしてた。・・・・で、大事な話ってなんだ?」


俺は木の葉に尋ねる。

本当はなんで退部をしたのかと聞きたかったが、今そんなことをしても木の葉を困らせるだけなので、やめておいた。


「それは、ね」


木の葉は小さな声でゆっくりと話し出す。

外で寒いせいか、それとも緊張しているのか、少し声が震えていた。

そして、木の葉は俺に向かって言う。


「私たちが、部活を辞めたのは、悠人のせい、だよ」


・・・・・・・・・・・え?


唐突に言われた言葉にただただ動揺をしていた。

なんか今とんでもないキャノン砲が飛んできたんだが・・・・・・キノセイカナ?


「あの・・・・・今のは、どういうことでしょうか?」


俺が恐る恐る敬語で尋ねる。

すると、


「え、えっと・・・だから、私たちが、部活を辞めたのは、悠人のせい、だよ」


もう一回キャノン砲が飛んできた。そして、それは胸のど真ん中に直撃した気がした。

いや、確実に直撃してる。めっちゃ痛い。


「・・・・・・?」


だが、俺は胸の内側をかなり痛めながらも、木の葉を見ると、彼女の表情にはどこか違和感があった。

なんというか、あんな言葉を言っても、悪気が全くないというか・・・・まあ俺が悪いのだから、悪気はないに決まっているか。

だとしても、俺に対する怒りすらないのはおかしい。

普通、俺のせいで部活を辞めることになったのなら、そういう感情が芽生えてくるものだろう。

だが、木の葉はまるで感情がないかのように今の言葉を言った。

・・・・・・どういうことだ?


「・・・・・・なあ、木の葉」

「うん。何?」

「・・・・・・もしかして俺に隠していることあるのか?」

「!?・・・・な・・・・・・・・・・いよ」


あるのか。

木の葉って、こんなにわかりやすい奴だったか?

俺はそんなイメージないんだが。


「よかったら教えてくれないか?その隠していること」

「・・・・・私は、何も、隠していない」


木の葉は平然を装って言う。


「いやいや、そう言われてもな。・・・顔に出てるし」

「・・・・・・・悠人、うるさい」


あ、認めた。

俺がそう思っていると、木の葉も自分で気づいたようで、やってしまったという表情をしている。


「・・・・でも、教えない」


木の葉は恥ずかしいのか、顔を赤らめながら言う。

でも、これだけ拒むというのなら、おそらく、それは俺には本当に話せないことなのだろう。


「・・・・・わかった。なら、もう何も聞かないよ」


俺は木の葉に向かって言う。

その時、木の葉は少し寂しそうに見えたが、気のせいだろう。


「じゃあ、俺はもう行くよ。話してくれてありがとな」


俺はそう言って、木の葉に背を向け、歩き出す。

だが、


「・・・・・・・一つだけ」

「え?」


急に木の葉の声が聞こえ、俺は振り返る。

すると、木の葉は俺を真っ直ぐに見つめていた。

そして、小さな声で言う。


「一つだけ、ヒント、あげる、くらいなら」


木の葉の言葉を聞くと、俺はゆっくりと木の葉に近づく。


「聞かせてくれ」


俺がそう言うと、木の葉はこくりと頷き、口を開く。


「それはね」


木の葉は真剣な眼差しを俺に向ける。

それは、何か木の葉が覚悟を決めているように思えた。

そして、木の葉は俺にしっかりと伝わるように言い放った。


「人は自分が思っている以上に、自分のことをわかっているってことだよ」



********



俺は家に帰ると、そのまま自分の部屋に向かった。

そして、制服のままベッドに寝転ぶ。


―『人は自分が思っている以上に、自分のことをわかっているってことだよ』―


俺は木の葉の言葉を思い出す。

あれは・・・・どういうことだろう?

せっかく、木の葉がくれた言葉だというのに俺はまた何もわからずにいた。

結局、新川先生の言葉の意味もわかっていないし。


「・・・・・はぁ」


ゆっくりとため息をつく。

・・・・・情けないな。本当に。

でも、今俺がやるべきことは一つか。


俺は身体を起こし、今までのことを整理する。



新川先生は言った。

自分の気持ちに正直になれと。

木の葉 雫は言った。

人は自分が思っている以上に自分のことをわかっていると。

そして、木の葉、ちーちゃん、咲が部活を辞めた。


「・・・・・・・・・・!?」


俺はその時、気づいてしまった。

なぜ彼女たちがあんなことをしたのかを。


結論から言おう。



全て俺のせいだ。



********



翌日の昼休み。

俺は屋上で街を眺めていた。空は雲一つない青空でとても綺麗である。


ガチャ。


俺がそんなことを思っていると、屋上の扉が開く。

そして、一人の少女が現れる。


「どうしたの?悠人。急に呼び出して」


そして少女、いや、俺の彼女であり、幼なじみである、柚原 早苗は尋ねる。

俺はその声を聞くと、振り返る。


「悪ぃな。・・・・・実は、お前に話があるんだ」

「・・・・・・・そう」


俺の言葉に早苗は少し悲しそうな表情を見せる。

しかし、俺は構わず話し続ける。


「あのな、早苗・・・・・・」


ここまで言うと、俺は黙り込んでしまった。

正直、ここから先の言葉は口にしたくない。一言もだ。

でも、俺は・・・・・・・。

そして、俺は言い放った。彼女に向かって。



「俺と別れてくれ」



俺の言葉を聞いた、早苗は取り乱すわけでもなく、涙を流すわけでもなく、ただ少し寂しそうにしていた。


俺はこれから出す彼女の答えを知っている。

それはおそらく“イエス”でも“ノ―”でもないだろう。

何故なら、彼女は、



「知ってたよ、あたし。悠人があたしのこと、好きじゃないこと」


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