気持ち
放課後、俺は授業道具を鞄にしまうと、そのまま部室へ向かった。
早苗と一緒に行こうかと思ったが、早苗は掃除で遅れそうだったので、先に一人で行くことにした。
だが、何となくだが、今日もまた俺と早苗以外は来ない気がする。
俺は部室に着くと、ゆっくりと部室の扉を開ける。
「・・・・・・・!?」
部室には人がいた。
しかし、それは咲でもちーちゃんでも木の葉でもなく。
「おぉ、待っていたぞ。陰山」
「何やっているんですか?新川先生」
そう。我らが第二生徒会顧問、新川 泉先生である。
新川先生は腕を組みながら、椅子に座っていた。
その姿はもう高校野球部の監督のごとく貫禄があった。
「何って、だから、お前を待っていたんだよ」
「俺を?どうして?」
俺が不思議そうに尋ねると、新川先生は急に不敵な笑みを浮かべ、
「陰山。お前、柚原と付き合っているらしいな?」
「なっ!?・・・何で知っているんですか?」
「ははは、私はこの学校の先生だぞ。生徒の情報は知っていて当然だ」
いやいや、ダメだろそれ。プライバシー的に。
「で、俺が早苗と付き合っていたとして、何か問題があるんですか?」
「いや、特にないさ。別にただ聞いただけだしな。・・・・・あぁ、あともう一つお前に伝えなくてはいけないことがある」
「?何ですか?」
俺が尋ねると、新川先生は先ほどと同じトーンで、平然とした表情で言った。
「本日をもって、木の葉 雫、乙川 千尋、桜空 咲が退部をした」
・・・・・・・・・・・・・え?
*********
新川先生がそれを言った後、しばらく部室の中に静寂が流れる。
・・・・・・退部?咲たちが?どうして?
俺にはさっぱりわからない。なぜこんな突然。
もしかして、この部活が嫌になったのだろうか?
それとも、また俺のせいなのか?
俺がかなり動揺をしていると、新川先生が一つ尋ねた。
「なあ、陰山。どうしてこうなったと思う?」
「・・・・・わかりません」
俺は弱々しく、そう答えるしかなかった。
だが、俺とは違って、新川先生は冷静に俺の言葉を聞く。
「・・・・・そうか」
そう呟いた新川先生は立ち上がり、部室の扉へ歩いていく。
しかし、扉の前に立った瞬間、新川先生はそこで足を止めた。
そして、俺に背を向けたまま、口を開く。
「陰山。私はいつも思うよ。お前は優しすぎる・・・・・・そして、臆病だ」
「・・・・・・え?」
俺はその言葉を聞いて、振り向くと、そこには悲しそうな表情を見せる新川先生がいた。
「おっと。少しヒントを出しすぎたかな。・・・・・でも、大バカ者のお前のために特別にもう一つヒントをやろう。それはな」
新川先生はしっかりと伝わるように俺に向かって言った。
「自分の気持ちに正直になることだよ」




