君は
翌日の朝。
俺は学校へ着くと、靴箱の前に立っている咲を見つける。
「おい、咲」
俺がそう名前を呼ぶと、咲は俺に気づいたようで振り返る
だが、その時の咲はどこか気まずそうな表情をしていた。
どうしたのだろう?
もしかして、昨日自分が部活を休んだことを気にしているのか?
まあ咲のことだから考えられなくもないが。
「おはようございます。・・・悠人さん」
咲はお辞儀をしながら挨拶をする。
だが、その声には元気がなく、弱々しいとさえ思える。
「おぉ。・・・・咲、大丈夫か?」
「何がでしょうか?」
「いや、何か調子が悪そうに見えたからな。少し心配になったというか」
「そうですか。・・・・・大丈夫ですよ。私はどこもわるくありませんから。ご心配していただかなくても」
「・・・・そうか。ならいいんだが。・・・・今日は部活来るのか?」
俺が尋ねると、咲は少し戸惑った表情を見せる。
おそらく、この様子から察するに今日もまた来れないのだろう。
「何かあるのか?今日」
「いえ、その・・・・・大した用ではないのですが、部活には行けなさそうなので」
「わかった。今日は咲は休みだって新川先生と皆に言っておくよ」
「ありがとうございます。そうしていただけると助かります。・・・・・そういえば、今日は柚原さんはご一緒ではないのですか?」
「あ、あぁ。一応家へ行ってみたんだが、何か寝坊したらしい」
俺がそう言うと、咲は少し俯きながら「そうですか」と一言だけ言った。
本当に咲は大丈夫なのだろうか?
俺はそう思いながらも、咲に対して何も言わなかった。
あまり気にし過ぎるというのもおせっかいというものだ。
俺の勘違いという可能性もある。
「では、私は職員室に用があるので、失礼します」
「お、おぉ。わかった。またな」
咲は俺の言葉にお辞儀を一つしてから、この場を立ち去った。
俺も靴を上靴に履き替えると、そのまま教室へ向かった。
だが、俺はこの時、考えるべきだった。そして、気づかなければいけなかった。
咲が今何を思って、これからどうしようとしているのか。
・・・・・・・・・・気づかなければいけなかったんだ。
*******
昼休み。
突然、俺はちーちゃんに呼び出された。
場所は学校の中庭。なるべく早く来てとのことだ。
正直、ちーちゃんには少し人とは違った怖さがあるように思える。
例えていうならば、力では何もしないが、言葉一つで背筋が凍らせると言った感じだ。
まあつまり・・・・・遅れるなんてできません。
「よお、どうしたんだ?」
俺は授業が終わり、急いで中庭に向かうと、そこにはすでにちーちゃんがベンチに座っていた。
「来たんだね。悠くん」
ちーちゃんは俺を見つけるなり、ゆっくりとベンチから立ち上がる。
「呼び出したのはちーちゃんじゃないか」
「まあ確かに。・・・・そうだね」
ちーちゃんは少し顔を俯けながら答える。
この時、俺は少し違和感を感じた。
どこかいつものちーちゃんと様子が違うような・・・・。
でも、ちーちゃんはそんな俺に構わず、話し続ける。
「ねえ」
「・・・・・何だ?」
俺が聞き返すと。ちーちゃんは少し深呼吸をする。
そして、静かに尋ねた。
「柚原さんと付き合っているって、本当のことなんだよね?」
その時のちーちゃんの表情はとても切なく、寂しそうだった。
だが、俺は表情に戸惑いながらも問いに答える。
「それは・・・・部室でも話したじゃねぇか。本当のことだ」
「・・・・そっか」
ちーちゃんは小さく呟く。
俺はこの時、何となくだが、何かひどいことを言われるきがした。
でも、ちーちゃんはただ冷静に、たった一言だけ俺に向かってこう言った。
「またそうやって君は嘘をつくんだね」
ちーちゃんのその言葉に、俺はただその場を立ち尽くすことしかできなかった。




