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幾度となく

その日の放課後、俺は授業道具を自分の鞄にしまっていると、早苗が近づいてきた。


「ね・・・ねぇ。もしよかったら、一緒に部室行かない?」


早苗はどこかぎこちない声で尋ねる。

頬は赤く染まり、少し緊張しているのがわかった。


「一緒に?別にいいけど・・・・いきなりどうしたんだ?」


俺は首を傾げて聞き返す。

すると、早苗はどこか恥ずかしがるように、下の方で手をもじもじとさせた。


「だってあたしたち・・・・その・・・・彼氏、彼女なんだし」


俺はその言葉を聞いて、少し顔が熱くなった。

そうである。俺は早苗の彼氏なのだ。

もっと自覚をしなければならない。もっと・・・・、


「そ、そうだな。じゃあ、一緒に行くか」


俺が少し緊張気味の声で言うと、早苗は可愛らしい笑みを浮かべる。


「うん!」


この時、俺は胸のあたりがチクとリ痛んだのは気のせいではないだろう。



******



俺と早苗は部室に着くと、扉の手前で立ち止まった。


「ねぇ、あたしと悠人のこと、部員のみんなに話していい?」


早苗は唐突に言う。

その時の表情は真剣なもので、何か覚悟があるようなそんな感じだった。

だが、俺は自分の嘘の気持ちでできているものを、他の人へ伝えていいものかと悩むことはあっても、早苗がなぜそんな表情をしているのかを考えることはなかった。

単に自分に彼氏ができたことを人に伝えるのが、緊張するのだろうとそう思っていた。

だが、俺のその安易な考えが、大切なものを壊してしまうことに俺はまだ気づいていなかったのだ。


「わかった。いいよ言っても」


俺が答えると、早苗はまた笑みを浮かべる。

だが、その笑みは嬉しさと同時にどこか少し寂しさもあるようなものであった。


「じゃあ、入るか」


俺はそう言って、部室の扉を開けると、そこにはいつもの景色があった。

咲は本を静かに読み、木の葉とちーちゃんはオセロをやっている。

ってか、よく飽きませんね。そのオセロ。


「あら、悠人さん。今日は柚原さんと一緒に来たんですね」

「あ、あぁ。まあな」


咲は俺たちに気づくと、笑顔を見せる。


「悠人、柚原、遅い」

「そうだよ。何やってたのさ」


木の葉とちーちゃんも俺に話しかけてきた。

って、そんな中でもオセロはやめないんですね。はい。


「あ・・・・あの」


俺が木の葉とちーちゃんに呆れていると、俺の横にいる早苗が突然、話し出す。


「?何ですか?柚原さん」


咲は早苗の様子に気づいて、尋ねる。

木の葉とちーちゃんも早苗を見ていた。


「あ、あのね。今日はみんなに報告があるの」


早苗の声は少し震えていて、俺以外の部員から見れば、明らかにおかしいことはわかった。

でも、咲たちはそれに対しては何も言わない。


「報告・・ですか?」


咲が尋ねると、早苗はこくりと頷く。


「うん。でね、その・・・・・報告っていうのは」


早苗は少しそこで黙り込む。

その瞬間、部室内には静寂が流れ、聞こえるのは、運動部の掛け声と、風の音だけである。

俺はこの時、自分が何をしたのか、してしまったのかしっかりと理解するべきだった。

そうするべきだったのだ。

だが、俺はそれをしなかった、いや、できなかった。

だから、俺は、


「あたしと悠人は付き合っているの」


幾度となく大事なものを失ってしまうのだ。



*******



翌日の放課後、俺は掃除当番だったので、少し遅れて部室に行くと、そこには早苗がいた。

だが、それ以外の部員は誰もいなかった。


「あれ?早苗だけか?」

「うん」

「へぇ。・・・他の人は?」


俺は部室に置いてある椅子に座ると、早苗に尋ねる。

窓からは夕日の光が差し込み、まるで青春ドラマの一ページみたいである。

・・・・・って、俺何考えてんだ?


「わかんないけど、多分、掃除か何かで遅れてるんじゃない?」


珍しく読書をしながら早苗は答える。

だが、その本には『デートを上手くいかせる100の方法』とかわけのわからないタイトルであったのは残念であるが。


「そうだな。まあ気長に待つか」


ってか最近、依頼こないなぁ。

俺はそんな呑気なことを思いながらも、鞄から本を取り出し、読み進める。


しかし、



この日、どれだけ待っても、俺と早苗以外の部員が来ることはなかった。




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