嘘
俺は早苗が言ったことが理解できずにただ立ち尽くしている。
・・・・今、早苗は何て言った?
早苗と俺が・・・・・付き合う?
俺は一瞬冗談かと思ったが、早苗の表情を見てそうではないのだと思った。
ってことは・・・、
早苗は俺のことが好きだということ。
いや、まてまて。何でそうなる!?
何で早苗が俺に告ってるんだ!?
「・・・・悠人」
唐突の告白に俺が困惑している中、早苗は俺の名を呼ぶ。
その時の表情は、緊張と不安が入り混じっていた。
俺はそんな早苗に何も言えず、ただ黙り込むことしかできない。
・・・・・・どうすればいい。
俺は今早苗に告白をされた。
なら、俺はそれに対する返事を言わなければならない。
だけど、俺は早苗の告白にどう返事をすればいいかわからないでいた。
もちろん、早苗のことは好きだ。
だが、それが恋愛感情かと聞かれると、それは何とも言えない。
今まで、“幼なじみ”としてずっと接してきた分、早苗をあまり女の子として意識をしないようにしてきた。
だから、正直、早苗の付き合いたいという言葉には驚いた。
そして、こうも思った。なぜ俺なのだろうと。
・・・・・やはり、俺は早苗の告白を受けるべきではない。
告白をされて、ここまで混乱してしまうということは、俺は早苗のことが好きではないのだろう。
つまり、俺は早苗の告白を断るべきなのだ。
「・・・・・早苗」
俺はそう決心し、口を開く。
すると、早苗は制服のスカートをぎゅっと握りしめる。
「早苗、お前が俺のことをそんな風に思っているなんて思わなかった。だから、正直驚いた」
俺の言葉を早苗は緊張をしながらも、静かに聞く。
「早苗は俺のことをずっと支えてくれた。あの時から。あの時、早苗が俺の“幼なじみ”になってなかったら、俺は今頃どうなっていたかわかんないよ。もしかしたら、高校も行かずに、ただ、だらだら過ごしていたかもしれない」
俺は物語を聞かせるように、ゆっくりと丁寧に言う。
だが、俺はこの時、少しの違和感があった。
・・・・・・・どうして、俺はこんな話をしているのだろう。
俺は言わなければならないはずだ。
早苗とは付き合えないと。
俺は早苗のことは好きではないと。
なのに、
「そう、全部。全部早苗のおかげなんだ。早苗がいるから、今の俺はここにいる。だから」
俺はそう言葉にした瞬間、全てを察した。
それは―――――――――
――――――――――今から二年前、
俺は早苗と一緒に下校をしていた。
どうやら、今日は早苗は部活がなかったようだ。
今歩いている道の左には住宅地、右にはよく子供がある公園があった。
もう季節は秋になっており、公園内には黄金色の落ち葉が地面を覆っていた。
「・・・・・・なあ、何で俺と関わるんだ?」
俺は進めていた足を止め、早苗に尋ねる。
すると、早苗も俺の少し前で同じように足を止め、振り向き答えた。
「何よ?またそれ?」
「そうだよ。またこれだ。俺はわからないんだよ。お前が何で俺と関わろうとするのか」
「全く。あんたは面倒くさいわね。別にいいじゃないそんなこと」
早苗は適当に答え、再び歩き始めようとする。
だが、俺が早苗に真剣な眼差しを向けると、早苗は一つため息をつき、話し始めた。
「あのね、あたしは悠人の幼なじみなの。だから、悠人と一緒に登下校するのも、お昼一緒に食べるのも当たり前でしょ」
「いや、幼なじみってのはお前が勝手に作ったことなんだが・・・・」
俺がそう言うと、早苗の頬がみるみる赤くなる。
「う、うるさいわね!そんなこと言うなら、悠人もあの時、あたしを助けなければよかったじゃない!」
「そ、それは前にも言ったろ。あれは俺が悪いんだ。別にお前のためにやったわけじゃない」
俺はそう言いながら、顔を背ける。
早苗はそれを聞いて俯いていた。
「・・・・ねぇ。そんなにあたしと関わるのが嫌?あたしのことが嫌い?」
早苗は俺に小さく弱々しい声で言った。
俺はそんな早苗の表情を見る。
すると、早苗の目には涙があった。
正直、早苗がなぜ泣いているのかはわからない。でも、俺は思った。
この子になら、話してもいいのかもしれない。
俺の過去を。
「・・・・・早苗。お前に話したいことがある」
そして、俺は早苗にすべてを話した。
ちーちゃんと俺のことについての全てを。
すると、
「・・・・・そう。そんなことがあったのね」
早苗は悲しんだ表情で俯く。
「そうだ。だから、早苗はもう俺と関わるな。俺と関わるとロクなことが・・・・」
「本当、あんたってバカね。これはあたしが傍にいるしかないかなぁ」
早苗は唐突に俺に向かって言った。
その表情は先ほどとは違い、とても可愛らしい笑顔で、俺はその笑顔に一気に心臓が高鳴る。
「・・・・・いや、お前話聞いてた?」
「えぇ、聞いてたわ。でも、あたしは悠人からは離れない。だって離れたくないもの」
「いやいや、そういうことじゃなくてだな」
「もうあんたはホントいちいち面倒ね。そんなに心配しなくても大丈夫よ。だって」
そして、早苗は平然とした表情で、当たり前のように、俺に言ったのだ。
「あたし、一生悠人の傍にいるから」
この時、俺は柚原 早苗という人物を初めて分かった気がした。
―――――――――――俺がなぜ早苗の告白をすぐに断ることができなかったのか。
それは、俺が恐れているからだ。
このまま、断れば早苗が自分から離れていってしまうのではないかと。
まるで、早苗との時間が消えたかのようになってしまうのではないかと。
そう、恐れてしまっているのだ。
だから、俺は、
「早苗、俺と付き合ってくれ」
こうして自分の気持ちにも嘘をついてしまうのだろう。




