ついてない
「大丈夫そうだな」
あたしが茶髪男に襲われかけてたところを助けてくれた男、陰山 悠人はそう言って、散らばった自分のノートや教科書を拾い出す。
「あ、ありがとう」
そんな陰山に対して、あたしは礼を言った。
一応助けてもらった立場だ。
それが人としての礼儀というものだろう。
「いや、別にいいよ。じゃあ」
陰山は落ちていたものを全て拾うなり、すぐにこの場を立ち去ろうとする。
「ちょ、ちょっと待って!」
あたしはかなり大きな声で叫んだ。
すると、陰山はゆっくりと振り返る。
だが、表情は非常に嫌そうな顔をしていた。
「・・・・何?」
「あのね、あんた学校まともに来てないでしょ。だから、あんたに渡すプリントが溜まってんのよ。ほら」
あたしはそう言いながら、先生に無理やり渡されたプリントを陰山に渡す。
そして、陰山はそのプリントを受け取るとあたしに言った。
「ありがとな」
あたしはその言葉を聞いて、意外だと思った。
こういう休みが多い生徒は少し、普通じゃないというか、コミュにケーションが取れない人のようなイメージがあったからだ。
でも、さっきあたしを助けてくれたり、正直言っていい人だと思った。
なら、なぜこの人は学校をこんなに休んでいるのか。
いや、それよりも・・・・
「ねぇ、あんた何で学校来てないくせに、鞄に教科書とか入ってんのよ」
そうだ。
何でこの人は学校に必要なものなど入れているのだろう?
もしや、実は学校に行きたいとか?
「あぁ、これか?これはな、妹が学校行け行けうるさいから。毎朝、学校行くふりするために使ってんだよ」
全然違った。
あたしの想像していたことよりずっと下衆な目的だった。
というか、妹騙すとか、やっぱりこの人いい人じゃないな。
あたしが勝手に失望していると、今度は陰山が尋ねる。
「ってか、お前誰だよ?」
あたしはその言葉にさらにこの人に失望した。
まさか、一応クラス委員をやっていて、クラスで色々と頑張っているあたしの名前を覚えてない人がいるなんて。
確かに、陰山はよく欠席をしていて、面識もかなり少ないけど、でも、それでもひどすぎる気がする。
というか、あたしが陰山の名前を知っているのに、こいつがあたしのことを知らないなんて不公平だ。
ということで、
「あたしはね・・・・」
あたしは右手の拳を握りしめ、そして、勢いよく左足を踏み込んだ。
「柚原 早苗っていうのよ!」
バコーン!!
この時、あたしは初めて幼なじみを殴った。
******
翌日の朝、あたしはいつもどおり朝一番に学校に登校していた。
今は六月の中旬、まだかなり早い時間だというのに、蝉の鳴く音が聞こえる。
今日はなぜかかなり蒸し暑く過ごしづらそうな一日になりそうだ。
あたしはそんなことを考えながら、教室の扉を開けると、いつもは誰もいないはずの教室に一人ポツンと座っていた。
ふとそいつと目が合うと、あたしは嫌味っぽく言ってやった。
「あれ、今日は来たのね?」
「何だよ。来ちゃ悪いのか?」
「いいえ。別に」
教室にいたのは陰山だった。
陰山はあたしが昨日殴ったのが原因なのか、非常にいやそうな表情をしていた。
あたしもこんなサボり生徒と朝から一緒になるなんて最悪の気分である。
あたしは自分の席に座ると、体育祭の資料を出す。
不幸中の幸いというか、陰山とは席が遠いので話しかけられることはない。
まあ話しかけられても、あたしはうんともスンとも言ってやんないが。
「うーん」
あたしは体育祭の資料を見て、頭を抱える。
ここの学校の体育祭は少し特殊で、それというのも、体育祭の種目は中学二、三年の計八組が一つずつ別々の案を出すというものだ。
もし、案が被った場合は二年生より、三年生が優先され、同じ学年の場合は事前に行った体育委員のくじによって決まった優先順位に従う。
そして、あたしたちの優先度は、
「一番最後」
あたしはため息をつく。
なんて運が悪いんだろう。
しかも、リレーとか騎馬戦とか定番な種目はもう出ちゃってるし。
・・・・・・・はぁ。
*******
その日のホームルームそれはまた突然、言われた。
「おい、陰山。お前、柚原の手伝いをしろ」
先生は久々に登校してきた窓際の端っこの席に座っている陰山に言った。
「・・・・は?何でですか?」
先生の言葉に陰山は怒った様子で先生を見る。
「お前が学校に全く来ないからじゃないか。だから、お前に学校に来る理由を与えてやる」
「そんなのいらないですよ。というか、そんなこと頼まれてもどっちみち学校来ませんし」
「ほう。お前が学校に来ないというのなら、現社の単位は無しにしとくからな。これでお前は留年決定だ」
「ちょ!?それは」
先生の言葉に陰山は焦った表情を見せる。
「どうもお前はすべての教科の単位をギリギリ取れるように学校に来ているらしいが、そうはうまくはいかんぞ」
「ぐっ・・・・」
どうやら図星のようだ。
陰山はそんなことを考えて学校に登校していたのか。
それは果たして頭がいいのか悪いのか。
あたしにはよくわかんなかったし、正直どうでもよかった。
それよりも、
「先生。何で陰山があたしの手伝いなんですか?あたしは一人でも十分ですし、正直、役に立たない人がいても困るんですけど」
あたしは陰山を睨みつけながら言った。
陰山はそんなあたしから目を逸らす。
「いやいや、柚原もだいぶ無理をしているだろう。あと、部活の大会も近いと聞いたし、体育祭のことは陰山に手伝ってもらう方が効率がいいと思ったのだが」
「いいえ、全然効率よくありません」
あたしは先生にはっきりと言う。
すると、それに陰山が乗ってきた。
「ほら、この人もこう言ってることですし、別に俺が手伝う必要が皆無だと思うんですが」
あたしと陰山の言葉に先生は黙り込む。
そして、しばらくしてから、再度話し始めた。
「お前らはいちいち面倒くさいな。もうわかった。ここはお前らの担任として、お前らに命令する。陰山。お前は体育祭について柚原の手伝いをしろ。そして、柚原はそれを許可しろ。でないと、陰山には現社の単位が無くなり、柚原には全教科の宿題を倍増してもらうぞ。わかったか。じゃあこれでホームルムは終わりだ。終了だ」
「ちょ・・・」
「おい、待て・・・」
結局、先生は言いたいことだけ言うと、出て行ってしまった。
ということは、どうやらあたしは陰山と一緒に体育祭の準備をしなければいけないらしい。
「・・・・・はぁ」
あたしはまた一つため息をついた。
ホント今日はついてない。




