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物語

――――今から二年前。

あたし、柚原 早苗がまだ中学二年生だった頃。

それは唐突に言われた。





「えっ!何であたしがそんなことしなくちゃいけないんですか?」


あたしは教室の中から廊下に聞こえるような声で言った。


「そうは言われてもなぁ。これは誰かがやらなくちゃいけないことだからなぁ」


あたしのクラスの担任の先生は、困った表情で頭を掻く。

あたしと先生が何でもめているのかというと、それはうちのクラスの生徒で欠席をかなりしている生徒がいるらしく、あまりにも欠席が多いので、その生徒に渡す資料が多量に溜まっているらしいのだ。

なので、あたしにその資料をその欠席の多い生徒に家まで行って渡して欲しいというお願いをされたのだが。


「嫌ですよ。今、体育祭やら、部活の大会やらで忙しんですよ。わかってるんですか?」

「一日くらい、いいじゃないか」

「いいわけないじゃないですか!その一日もあたしにとっては大事なんです!」


先生の軽はずみな発言に、あたしはさらに大きな声で言い返した。

あたしは今本当にとても忙しい。

クラス委員なのに、体育祭の企画なんかも何故かやらなければいけないし、陸上部の大会ももうすぐだから練習もしなければいけない。

なので、そんな欠席の多い、サボり生徒にあたしの時間を使っている暇はないのだ。


「本当にダメか?」

「無理です。というか、あたし以外の他の生徒に頼めばいいじゃないですか」

「いや、それがな、何人かに頼んでみたんだが、すべて断られてしまって、そこで、ここはうちのクラス委員の柚原に頼んでみたわけだ」


先生は何故か自信満々で言う。

というか、先生。どんだけ人望ないんですか。


「でも、あたしは無理ですよ」


あたしは先生を睨みつけながら言う。

すると、先生はわかってくれたのか、


「・・・・はぁ。了解だ。諦めるよ」


先生は残念そうな表情をしていた。

だが、そんな表情されても無理なものは無理なのだ。

あたしにも事情というものがある。


「では、あたしはこれから部活があるので失礼します」

「おう、じゃあな」


あたしは先生にそう告げると、教室を後にした。



*******



教室を出た後、陸上用のジャージに着替えるため、女子更衣室に行くと、あたしはスクールバックからあるものを見つけた。

そして、それには付箋が貼ってあり、こう書いていた。


『欠席者・資料*柚原、頼んだぞ』


・・・・・・・やられた。



********



あたしは部活が終わると、いつもと同じように同じクラスで部活仲間の(なみ)(むら) 由里(ゆり)と一緒に帰り道を歩いていた。

空は夕焼けが綺麗になっており、茜色の光があたしと由里を照らしていた。


「えぇー!ってことは、結局そのサボりくんにプリントを届けに行かなくちゃいけなくなったってこと?」

「そう。・・・・はぁ、何であたしがこんな目に」


由里の言葉にあたしはため息交じりで答える。


「それって結構ひどくない?・・・・あぁ、でも」

「でも?」


あたしは由里が何かにきがついたような声を出したので、聞き返す。


「いやさぁ、そのサボりくん。確か、早苗と一緒の小学校じゃなかったっけ?だからじゃないかなぁと思って」

「あぁ。まあ一応そうなんだけど、正直、あんまり覚えてないのよね。クラス一度も同じになったことないし」


そう。今、由里が言った通り、あたしとその欠席が多い生徒は同じ小学校出身らしい。

あとついでに言うと、小学校の頃に入っていた道場も一緒だったのだ。

でも、小学校と同じく道場の方も同じ曜日に習っているわけじゃなかったので、あたしかその人が道場を振り替えたときに、たまにあったくらいである。

なので、あたしとその人は友達でもなければ、知り合いでもない。

中学二年になって、その人と同じクラスになったので、辛うじて顔は覚えているが。


「へぇ。そうなんだ・・・・で、結局どうするの?」

「え?どうするって?」

「だから、そのサボりくんにプリント届けに行くの?今から」


由里の質問にあたしは少し考える。

その人の家の住所は先ほど勝手に入れられていた資料に書いてあったのでわかることにはわかる。

しかも、あたしと同じ小学校だっただけあってあたしの家とかなり近い。

だけど、


「いや、明日にする。もう暗いしね」

「えぇ。そうやって言うけど、面倒くさいだけじゃないの?」

「そ、そんなことないわよ。明日の方がいいと思っただけ。だから由里。明日少し、部活遅れるから、部長に言っといてね」

「はいはい。早苗はうちの陸上部の大黒柱だからね。ちゃんと言っておくよ」

「やめてよ、そういうの。別にそんなんじゃないし」

「はいはい」


由里は笑いながら言った。

あと二週間で陸上部の大会だ。

一応、あたしも短距離でその大会で出ることになっている。

その大会のあとには体育祭もあるし、大忙しだ。

なので、由里の言葉で言う、そのサボりくんにさっさと資料を渡してしまおう。

もちろん明日に。

ほ、本当、面倒くさいとかじゃないんだからね。ふんっ。



******



翌日の放課後、あたしはそのサボり生徒の住所を見ながら、街を歩いていた。

周りにはスーパーとかゲームセンターとかがあって、そこを過ぎると、住宅地が見えてくる。

というか、本当にあたしの家と近いんだなぁ。まあ同じ小学校だから当たり前か。


あたしはそんなことを思いながら、歩いていると、突然、後ろから声を掛けられる。


「ねぇ、君。高校生?」


その声に振りかえると、そこには制服を着た二人組の男性がいた。

おそらく、雰囲気からして高校生だろうか。

片方は、茶髪で、もう片方は金髪に髪を染めていた。

おそらく、彼らはあたしに対してナンパをしているのだろう。

でも、違ったらかなり恥ずかしい。


「いえ、中学生ですけど、何ですか?」

「いやぁ、もしよかったら俺たちと遊ばないかなぁとか思って」


茶髪の男が慣れたような感じで話す。

よかった。どうやら本当にあたしをナンパしているようだ。

危うくあたしがただのナルシスト系女子になるところだった。

ホント危なかった。


「いや、いいです。あたし用があるので」


あたしはそう言って、その場を立ち去ろうとすると、急に腕を掴まれる。


「いいじゃ~ん。遊ぼうぜ。なぁ?」


今度は金髪の男が言ってくる。

何この人達。どんだけ必死なのよ。気持ち悪い。


「やめてください。あんたたちみたいなカスみたいな連中に付き合ってる暇なんてないんです」


あたしは鋭い声で言った。

これで引いてくれればいいと思っていたが、男たちはあたしの言葉に怒ってしまったようで、


「おい。お前調子乗ってんじゃねぇぞ。せっかく俺らが遊んでやるって言ってんのによ。こうなったら遊ぶ代わりにボコってやるしかねぇな」

「いいわよ。かかってきなさいよ」


あたしは茶髪の男に挑発をする。

全く。女子相手に暴力をしようとするなんてホントこの人らクズだわ。


「舐めやがって。おらぁ!」


茶髪の男があたしに殴りかかってくる。

でも、あたしはそれをかわすこともせず、受け止め、さらに空いた手で相手の顔面を殴り返してやった。


「なに!?」


茶髪の男は地面に倒れ、それを見た金髪の男が驚いた表情をしている。

でも、あたしにとっては当たり前のことで、小学校の時に通っていた道場は護身術を教えてくれることもあったのだ。

だから、こうやって襲われても基本は大丈夫である。

最後に殴ったのは護身術でも何でもないが。


「くそっ。この小娘が」


いや、あたしとあなた別に年そんな変わんないんですが。

あたしがそんんことを思っていると、金髪の男も殴りかかってきた。

でも、あたしは、今度はそれをかわし、男の腹を殴る。

すると、金髪の男も先ほどの茶髪の男と同じように倒れ込んだ。


「ふんっ。女だからって舐めないことね。二度とあたしに声を掛けないで。じゃあ」


あたしはそう言い残して、その場を去ろうとする。

しかし、



「おうらぁ!」



急に背後から先ほどまで倒れていた茶髪の男が殴りかかってきた。

どうやら、復活してしまっていたようだ。

しかも、殴りかかってくる腕はもうすでに回避できないところまで来ていた。


「しまっ!?」



あたしは何もすることができず、ただ目をつむるしかできなかった。

そして、


ボコッ!


鈍い音がなる。

でも、不思議とあたしの身体にはどこにも痛みがなかった。

ゆっくりと目を開けると、そこにはさっきまであたしを殴ろうとしていた茶髪の男はいなく、代わりに黒髪のあたしと同じ制服を着た男が立っていた。

茶髪の男はというと、再び、地面に倒れ込んでいる。

どうやら、この男があたしを助けてくれたようだ。


ふと、あたしは鞄から出て地面に散らばっている教科書やノートが目に入った。

おそらく、あたしを助けるときに鞄を投げ捨て、その時に散乱したのだろう。

あたしはそのノートに書かれてある、名前を見た。



『陰山 悠人』



あたしはその名前を見て驚いた。

なぜなら、その名前はあたしが探していたサボり生徒だったのだから。


「おい、大丈夫か?」


男は振り向いてあたしに尋ねる。


「え、あ・・・・・うん」


男に対して、あたしは動揺しながらも答えた。


このとき、あたしは初めて幼なじみと言葉を交わした。

そして、



あたしと幼なじみの物語が動き出した瞬間だった。


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