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決意

俺たちは公園から近くのバス停へ行き、そこからバスを使って十分くらいで水族館に着いた。

ってか、よくよく考えたら、遊園地といい、今日の水族館といい、なんだかんだで、この町はなんでもあるんだな。


「ほう。これはすごいな」

「そうですね。会長」


如月先輩の言葉にすかさず新藤は反応する。

さすが新藤。今日のお前は一味違うぜ。

まあ遅刻したことは許さないが。


「じゃあ入るとするか」


俺はそんなことを思いつつ、水族館の入口で俺は早苗に言うと、早苗は嬉しそうな声で「うん!」返事をした。

水族館に行きたかったのだろうか。

それとも、新藤の告白がそんなに待ちきれないのだろうか。

まあ俺にとってはどっちでもいいのだが。


俺と早苗が歩き始めたのと同時に、新藤と如月先輩も歩き始めた。


俺は思う。

どうか新藤の依頼が解決できますように。

でないと、俺が殺される。うちの顧問に。



******



チケットを買い、水族館に入ると、まず最初は小さな水槽がいくつも展示していた。

どうやら、それぞれの水槽に別々の魚がいるようだ。

なんというか、水族館なんて幼稚園以来だからな。

ワクワクするな!


「ちょっと悠人!」


俺が目をぱっちりと開かせて、色んな水槽を眺めていると、早苗に強めに呼ばれた。


「何だよ」

「何だよ、じゃないわよ。あんたわかってるの?今日は新藤の告白のサポートをしなくちゃいけないのよ。そんな楽しんでいる場合?」


早苗は鋭い目で俺を睨む。

チッ、新藤のせいで水族館を堪能できないじゃないか。

これはもうあれだな。

依頼の成功報酬で新藤に水族館代を要求しよう。

そして、俺はもう一回一人で来るしかないな。


「で?その新藤はどこにいるんだよ?」

「今、如月先輩といるわ。かなりいい感じよ」


早苗の言葉を聞くと、俺は早苗が向けている視線の方へ顔を向ける。

すると、そこにはカクレクマノミの水槽のコーナーに新藤と如月先輩が並んでいた。

俺がその様子を見て思ったことは、正直かなりいい感じである。

傍から見てカップルといっても過言ではない。

これ、まじでいけるんじゃないだろうか。


「なあ、早苗。二人でこの場を抜けようか」

「えっ!・・・・もしかして、それって」


俺の言葉を聞いた直後、早苗は何故か頬を紅くする。

まあ、こいつも俺の思惑を察したのだろう。


「そうだ。この場を抜けて、二人の雰囲気をさらに良くするんだ。今の如月先輩と新藤には俺たちは邪魔ものだろ?」


俺は自信満々に早苗に言った。

だが、早苗からの返事が返ってこない。

どうしたのだろうか?もしかして、帰ってくれたのだろうか?

それなら万々歳なんだが。


バチコーン!


俺がそんなことを思っていると、何故か後頭部に衝撃が加わった。

どうやら早苗は帰っていなかたようです。


「って!いきなり何すんだよ!?」

「別にただ悠人の頭をはたきたくなっただけよ」


早苗はそう言って、そっぽを向く。

いや、それは違うぜ早苗さん。

はたくじゃなくて、殴るの間違いだろ?

・・・・・まじで痛ぇ。


「まあとにかく、この場を離れて、新藤たちとはあとで合流・・・」


「おい。陰山!お前たちもこっちへきたらどうだ?」


俺が早苗に話している最中に、如月先輩が俺たちに向かって言った。


「あ、はい。今行きます」


如月先輩の言葉に俺は苦笑しながら答える。

そして、早苗の方に向いて俺は言った。


「お前のせいで、二人きりにできなかったじゃねぇか!」

「な、何よ!全部が全部あたしのせいじゃないでしょ!」


早苗は頬を膨らませて俺に言った。

いや、今回に関しては全面的にお前が悪いと思うんだが。

俺はそう言おうかとも思ったが、これ以上早苗と言い争いはしたくないのでやめておいた。

また殴られたくないし。


俺は小さく一つため息をつく。


「まあいい。とりあえず、如月先輩たちのところに行くか。そろそろ、あのイベントも始まる頃だしな」

「あのイベント・・・?」


俺の言葉に早苗は首を傾げる。

そう。水族館に来たらこれを見ずには帰れない定番のあれである。

つまり、それは・・・・・





「イルカショーだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


俺は心の中で叫んだ。

そうである。水族館に来たら、これを見ずに何を見るのだろうか?

正直、水族館にはこれさえあれば、他は何もなくてもいいとも思ったりする。


「やけにテンションが高いな」

「お前、意外と子供なのな」


俺の様子を見て、如月先輩と新藤が言った。

一応クールにしていたつもりだったが、どうやら、俺のイルカショーへの熱い思いは心の中だけに抑えることはできなかったようだ。


「うるせ。それよりもな」


俺は新藤に近づいて、耳元で言った。


「お前結構いい感じじゃないか?かなり脈ありだし」

「そ、そうか?まあ俺は新藤 臨弥だからな。当たり前だ」


俺の言葉に新藤は照れながらも、いつもの調子で返す。

まあここまで来たら成功してほしいからな。

頑張れ、新藤。


「男同士で何やってんのよ。悠人、気持ち悪いわよ」


俺が新藤にエールを送っていると、背後から早苗の声が聞こえる。

ってか、何で俺だけなんだよ。差別だぞ。


「ほっとけ。それよりも、もうそろイルカショーが始まるぞ。席に着かないと」

「そうだな」


俺がそう言うと、如月先輩は笑顔で反応してくれた。

如月先輩は本当に楽しそうだ。おそらく、新藤といるからだろう。

今日の新藤の告白。必ずうまくいくはず。

俺はそう思いながら、イルカショーを見るため空いている席へ座った。

早苗たちも同じように座る。

席順は前二席に新藤と如月先輩。

後ろ二席に俺と早苗という感じだ。


そして少し時間が経つと、素敵な音楽とともに前のステージに、パフォーマーの女性が一人出てくる。

ちなみに当たり前だが、ステージの周りは大きい水槽になっており、イルカが泳げるようになっている。


「皆さん。こんにちはー!」


ステージ上の女性は音楽が止まると同時にピンマイクを使いあいさつをする。

その声に観客の子供たちが大きな声で返事をした。


まあさすがに高校生になってこれをやるわけにはいかないよな。


「こんにちはー!」


俺の幼なじみは別として。

というか、恥ずかしいからやめてください。


「いい返事ですね!では、皆さんご存知の通り、これからイルカのショーを始めたいと思います!なので、まずはイルカさんを呼んでみましょー!私がルルちゃーん、ララくーんと言いますから、皆さんも一緒に呼んでみてください。では、行きますよ。ルルちゃーん、ララくーん!」


女性がそう言うと、また観客の子供たちだけ一緒にいるかの名前を呼ぶ。


「ルルちゃーん、ララくーん!」


早苗。

もう勘弁してください。


俺が恥をかいていると、突然、水中から前の水槽にイルカが現れる。

正直、超かわいい。


「では、まず最初にジャンプをしてみましょう。いくよー、ルルちゃん、ララくん。はい!」


女性は合図とともに、片手を挙げると、二匹のイルカは同時に水面から飛び上がる。

それはとても迫力があり、綺麗だった。

着水すると、観客から拍手が送られる。


「これはすごいな」

「すごいですね」


どうやら如月先輩も喜んでいるようだ。

新藤とも相変わらずいい感じである。

よし。


「では、次はリフティングというのをやりたいと思います」


リフティング。

それは水面に置いてあるボールをイルカがジャンプすると同時に上に飛ばす技だ。

ステージ上の女性もそれと同じ説明をし終えた後、水面にボールを二つ置く。


「では、行きますよ。・・・はい!」


女性が再び片手を上げると、イルカが水中からジャンプして、水面にあるボールを飛ばした。しかもボールがかなり高く上がった。

これは紛れもなく成功だろう。


再び、それを見た観客から拍手が送られる。


「ありがとうございます。では、今度はお客様にも体験していただきましょう。じゃあ・・・・・そこのお二人さん。少し手伝ってもらってもいいですか?」


ステージ上の女性はそう言いながら、俺たちのほうを見ているようだ。

ほう。新藤と如月先輩か。

これはチャンスだぞ!新藤!


「あ、もしかして俺ですか?」


新藤はそう言いながら、自分を指さす。


「あ、いえ・・・そっちではなくてもう一つ上の・・・」


ステージ上の女性がそう言いながら、俺の方をしっかりと見る。

ということは、


「・・・俺?」


俺が自分で自分を指さすと、ステージ上の女性は頷いた。

そして、俺の隣の方も見る。

つまり、俺と早苗を呼んでいるらしい。


「えっ!もしかしてあたしと悠人!・・・・やった!」


早苗は喜んでいるようだ。

だが、俺は何となく嫌だった。

特に早苗と一緒というのが。

でもまあ、行かざる負えないんだが。


「悠人。早くいこ!」

「わかったよ」


俺と早苗は水槽の周りにある階段を使ってステージへと向かう。

そして、ステージの上に立つと、先ほどの女性が話し出す。


「では、今から、このカップルのお二人にイルカショーを体験していただきたいと思います!」


ちょっと待て。

この人は今重大な誤解をしている。

俺たちは断じてカップルではない。


「えへへ・・・・カップルかぁ」


早苗は頬を染めながら、何故か変な笑顔を浮かべていた。


「この二人に体験していただくのは、エンジェルリングをやっていただきたいと思います!」


エンジェルリング。

それは水面に浮かべられたフープを水中からのジャンプでくぐるというものだ。


ステージ上の女性もそれと同じ説明をする。

というか、俺もしかしてイルカショーのインストラクターになれるんじゃないだろうか。

女性は水面にフープを置いた後、俺たちに近づいてくる。


「じゃあお二人さん。私が小声で合図をするから、そのタイミングで手を上から振り下ろしてね。じゃあいくよ」


女性はピンマイクを外し、俺たちに言うと、再びピンマイクをつけ、観客に話しかける。


「では、お二人のイルカショーをご覧ください。いきますよ・・・・はい」


女性が小声で俺たちに合図をすると、俺と早苗は同時に手をあげ、振り下ろした。

すると、二匹のイルカが見事に垂直に飛んで、フープをくぐった。

近くで見ると迫力が倍増するな。


「見事成功です!ではこのお二人に大きな拍手をお願いします!」


女性がそう言うと、観客の拍手が俺たちに贈られる。


「では、本日のイルカショーはこれで終了となります。またのご来場の際はぜひイルカショーに来て頂ければと思います。ありがとうございました!」


女性のその言葉に再び、大勢の観客の拍手が送られ、イルカショーは無事終わった。

俺は不意に新藤と如月先輩の方を見ると、やはりいい感じ・・・・・?


この時、俺は何か違和感を感じた。

さっきと何かが違うような・・・・・。


でも、まあ俺の勘違いだろう。そうに違いない。



******



イルカショーが終わったあと、色んな魚を見た。

深海魚や、電気ナマズ。あと、イタチザメなんかも見たな。

正直、かなり楽しかった。

だが、本番はここからである。


俺と早苗は用事があると言って、先に帰ったふりをした。

そして、俺たちは今、水族館の近くの噴水にいる。

正確には、噴水から少し離れた場所にいるんだが。

なぜなら、


「何だ?話とは?」


如月先輩は不思議そうに尋ねる。


「え、えっと・・・それは・・・」


新藤はよほど緊張しているのか少し俯いて、如月先輩を直視できない。


「ちょっと、こっちまで緊張してきたんだけど」

「お前が緊張してどうすんだよ」


俺は早苗にそうツッコみつつも、実際少し緊張している。

とりあえず、俺が言えることはこれだけだ。

頑張れ、新藤。

すると、まるで俺がエールを送ったのが聞こえたかのように、新藤が話し始めた。


「あ、あの・・俺は会長に伝えたいことがあります」

「・・・・・それはなんだ?」

「そ、それは・・・・・」


しばらく沈黙が流れる。

冷たい風の音が聞こえ、夕日が二人を照らす。

その光景はとても美しかった。

そして、彼は言った。自分の気持ちを。



「俺は会長のことが好きです!付き合ってください!」



その声はとても大きく、周りにいる人も気づくくらいだ。

でも、それでいいと思う。

それが新藤の気持ちの全てなのだろう。


だから、頼む。

上手くいって・・・



「すまない。それは受けることはできない」



如月先輩は、はっきりとそう答えた。


「・・・・そうですか」


新藤は絞り出すような声で言う。


「・・・・・すまん」

「・・・・はは、俺の方こそすいません。・・・・俺、ちょっとコンビニ寄るんで、先帰っててもらっていいですか。・・・・すいません」

「・・・・わかった」


如月先輩はそう返事をすると、その場から立ち去った。

それと同時に早苗が新藤の元へ行こうとする。

だが、俺は早苗の腕を掴んでそれを止めた。


「ちょ、何すんのよ!」

「行くな。一人にしてやれよ」


俺は少し強めに早苗に言った。


「・・・何でよ」

「今行って慰められても虚しくなるだけだ」


そう。

虚しく惨めに思うだけである。


正直、新藤はベストを尽くしていた。

今日もいい雰囲気を作れていたし。

でも、それでもダメだった。


「もう少しあとに告白をしたら成功したかもしれないね」


早苗がふと呟く。


「そういうもんでもないだろ。少なくとも、新藤の告白のタイミングは間違ってなかったと思う。そして、自分の気持ちを100%伝えたんだ。それでもダメだった。ただそれだけの話だろ」

「・・・・何か、今日の悠人冷たい」


早苗は悲しそうな表情で俺を見る。


「いいか。新藤は今日、前へ進もうとしたんだ。このままじゃいけないと。でも、それで失敗した。それを後からああしたらよかったとか俺らが言うもんじゃねぇよ。新藤は胸を張るべきなんだ。現状維持を選ばずに、しっかりと一歩踏み出そうとしたんだから」


俺の言葉に早苗は驚いた表情をしている。

自分で言ってて、何だが俺今めっちゃ恥ずかしいことを言ったな。


「と、とりあえず、今日はもう帰るぞ。ほら」


俺はそう言って歩き出すと、早苗も俺の後ろを歩き始める。


こうして、新藤の依頼は失敗に終わってしまった。

とりあえず、俺は新川先生の爆裂の拳を食らうことは間違いないだろう。

・・・・・・学校行きたくない。



*******



水族館から自分の家へ帰ったあと、柚原はそのまま自分の部屋のベットに寝転がる。

そして、ある言葉を思い出す。


―『現状維持を選ばずに、しっかりと一歩踏み出そうとしたんだから』―


「よし!」


そして、柚原 早苗は決意する。


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