恋愛経験
新藤の衝撃的な依頼の内容に部員全員が黙り込む。
そして、俺たちはまるで今の発言がなかった、いや、新藤がこの部室に来たこと自体がなかったかのようにそれぞれ別々の行動をしだす。
咲は本を読みだし、早苗と木の葉はオセロをしだし、ちーちゃんはそれを見て、俺はとりあえず机に顔をうずめ寝た。
「おい、お前ら。何、依頼人無視してんだよ」
新藤がこっちを睨みながら言う。
ってかお前、素が出てんぞ。素が。
「はて?俺たち今何か依頼されたか?」
「されてないわね」
「されてないよ」
「されてないですね」
俺が尋ねると、早苗、ちーちゃん、咲が答えた。
「いやいや、思いっきりしただろ!お前らの頭ん中どうなってんだよ!いいか、じゃあ、もっかい言うぞ」
「あぁ、いい、いい。言わなくていい。内容はわかってるから」
「じゃあ無視すんじゃねぇよ」
新藤がそう言いながら俺を睨みつける。
「わかったよ。しない、しない。でもな、おそらく、俺たちはその依頼を受けることができないと思うぞ」
「・・・・何でだ?」
俺の言葉に新藤が首を傾げる。
おいおい、男でそんなことするんじゃない。
新川先生並に似会ってねぇよ。
俺はそう思いつつ、勢いよく新藤に言った。
「いいか。それを受けるために、俺たちには重大な欠点が一つある。それはな、」
俺はしばらく間を空け、そして言った。
「俺たち第二生徒会の部員全員が、恋愛経験ないことだ!」
俺が廊下にも響くような声で言うと、新藤は唖然としていた。
一方、第二生徒会の部員全員、どこか気まずそうな、申し訳なさそうな表情をしている。
「・・・・・・わかったか?恋愛経験0の俺たちがどうあがいてもお前の告白を成功なんかさせられないんだよ。だって、まず俺たち全員、誰とも一回も付き合ったことがないんだから」
「・・・・・・嘘だろ」
嘘じゃない。と言いたいところだが、それ以上新藤を追い込むとかわいそうすぎるのでやめておいた。
ドンマイ、新藤。
俺がそんなことを思っていると、突然、ちーちゃんが言った。
「違うよ。悠くんと私は付き合ったことあるもんね。ね?悠くん」
ジロリ
ちーちゃんの言葉に部員+新藤が俺の方に振り向く。
ちーちゃん、お願いだから、ここでふざけるのはやめて。
「誤解だよ。ちーちゃんも冗談言うの上手いなぁ。ははは」
俺はちーちゃんにお願い視線を送りながら言うと、ちーちゃんはわかってくれたようで、
「そうだね。これは冗談だね。ホント私、冗談言うの上手いなぁ」
ちーちゃんは笑みを浮かべながら言う。
そんなちーちゃんを見ながら、恐いと思うのは俺だけだろうか。
「ほら、これが真実だよ。俺たちはお前の手伝いはできない。わかったら、さっさと出て行け。ほらほら」
俺はまるで新藤を邪魔者扱いするように手で払いながら言う。
「・・・・・マジかよ」
新藤は頭を抱える。
こいつどんだけ落ち込んでるんだ。
告りたければ、勝手に告ればいいのに。
「いや、我々、第二生徒会はこの依頼を受けよう」
俺が呑気にそんなことを思っていると、今まで口を開かなかった新川先生が急にそう言った。
「いやいや、何言っているんですか。新川先生。俺たちができるわけないでしょ?」
「陰山。この依頼を断るとはどういうことかわかるか?確実に一人犠牲者が出るぞ」
それ確実に俺じゃねぇか。
しかも、犠牲者ってなんだよ。恐ぇよ。
「いや、でも・・・・」
「お前はいちいち面倒くさいな。よし、わかった。女子どもちょっとこっち来い」
新川先生がそう言うと、咲たちが不思議そうな表情をしながら、新川先生の元へ集まる。
どうやら、何か新川先生に言われているようだ。
だが、声が小さすぎて内容は聞き取れない。
そして、咲たちが新川先生の話を聞き終えると、咲が俺と新藤のいる方に寄ってきて、
「悠人さん!ぜひ、この依頼受けましょう。いえ、受けさせていただきましょう!」
咲は素晴らしい笑顔で言った。
俺の見間違いか、咲の頬は少し赤くなっているようにも見えた。
いや、咲だけじゃない。
咲以外の女子も頬が赤くなっているように見える。
「は?いきなりどうしたんだよ」
「別にいいじゃないか、陰山。この依頼を受けても。いや、受けろ」
新川先生は爽やかな笑顔とともに殺気に満ちた声で俺に言った。
「・・・・・はぁ、わかったよ。この依頼俺たち第二生徒会に任せろ」
俺は新藤に言うと、新藤は少しほっとしたようだ。
ったく、何で他人の恋の手伝いなんかしなければならん。
ギャルゲーの手伝いだったら、いくらでもしてやるというのに。
でも、まあ受けたからには最後までしっかりやるしかないか。
俺はそう思いつつ、咲たちに言った。
「じゃあ、これから第二生徒会の活動を始める」
だが、俺はこの時、まだ知らなかった。
新川先生があの時、咲たちにどんな恐ろしいことを話していたのかを。




