助けます
俺は休日を使って、ちーちゃんと一緒に遊園地に来ていた。
といっても、そんな凄い遊園地というわけじゃないんだが。
「なあ、何から乗るんだ?」
俺は園内を適当に歩きながら尋ねる。
すると、ちーちゃんは少し考えてから答えた。
「じゃあ、あれ乗ろうよ」
ちーちゃんは指をさして言う。
その先には、まあ特になんてことないジェットコースターがあった。
だが、
「よし、メリーゴーランドだな。わかった」
「いやいや、悠くん。今見てたよね?完璧に見てたよね?」
「さあ、なんのことやら」
俺は目を背けながら、ちーちゃんに言う。
ちーちゃんはクスクスと笑った。
「もしかして、悠くん。まだ絶叫系無理なの?」
「おいおい。俺を甘く見るなよ。無理なんてものじゃない。乗ったらちびって失神して死ぬぞ」
「はは・・・・それはやばいね」
俺の堂々とした言葉にちーちゃんは若干引いていた。
いやいや、俺はどれだけ自分がビビりかを正確に言っただけで、そんなに引くこともないと思うんだが。
俺がそう思っていると、ちーちゃんからとんでもない発言をしてきた。
しかも、素晴らしい笑顔で。
「でも、だからこそ乗るっていうのもあるよね!」
・・・・・・・・・は?
*******
・・・・・なぜこうなった。
俺は心の中で呟く。
何故なら俺は今、一生乗るはずではなかったであろう絶叫系マシンの座席に座っていた。
しかも、先頭である。
「ねぇ、ちーちゃん」
「?何悠くん?」
「何で俺は今、こんなところにいるんだと思う?」
「え?それは悠くんが乗りたいって言ったからでしょ」
「いやいや、全然違うよね。明らかにちーちゃんが無理やり連れてきたんだよね」
「もう、別にいいじゃん。あ、ほら。もうすぐ発信だよ。悠くん」
ちーちゃんは笑顔で俺に言った。
マジで始めるの?これ実はドッキリでしたとかならないの?
俺マジでやばいんだけど。本当に死んじゃうよ。
ショック死しちゃうよ。ホントに
プルルルルル
発信の合図がなった。
どうやら始まってしまうようだ。
地獄のショータイムである。
ガチャ
何かのレバーが外れるような音がして、ゆっくりとジェットコースターが動き出す。
何だろうこの感じ。
死ぬ直前はゆっくりと景色が流れるというが、これがそうなのだろうか。
・・・・・やばい。マジで死ぬ。
俺がそんなことを思っていると、突然、ちーちゃんが話しかけてきた。
「悠くん、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。死ぬわけじゃないんだし」
「いや、死ぬだろ。絶対死ぬだろ、もしそうじゃないとしても似たようなもんだろ」
俺は恐怖に支配されながら答えると、ちーちゃんは俺に笑顔を向ける
「大丈夫だよ、悠くん。私がいるんだから」
その時のちーちゃんの笑顔はとても嬉しそうで、でも、頬はほんのり赤く、照れているようにも見えた。
俺はその時、迂闊にもドキッとしてしまった。
まだ俺にはドキドキすることがあるというのに。
天には見とれてしまうほど美しい青空。
人々はまるで小さな小人のように見え、遠くの方には綺麗な山も見える。
そして、俺は、
落ちた。
*******
「うぅ・・・頭が痛い」
俺はベンチに横たわりながら呟く。
本当いくら絶叫系が苦手だとはいえ、これは情けないな。
というか、ちーちゃんに申し訳ない。
「大丈夫?悠くん」
ちーちゃんは両手にオレンジの缶ジュースを持ちながら尋ねる。
「あぁ。・・・・・大丈夫だ」
「全然大丈夫そうじゃないけど。はい、これ」
ちーちゃんは持っている缶ジュースを一本俺に渡す。
「ありがとう」
俺はゆっくりと起き上がり、ちーちゃんからそれをもらう。
ちーちゃんは俺の隣に座った。
「ごめんな」
俺は小さな声で言う。
すると、ちーちゃんは首を傾げた。
「?何が?」
「いや、俺のせいで時間無駄にしたなと思って」
俺は顔を俯かせながら言った。
ちーちゃんはその言葉を聞くと、可愛らしく笑う。
「そんなこと気にしなくていいのに。悪いのは無理やり乗せた私なんだから」
「でも・・・・」
「私は悠くんといられれば、それでいいんだよ」
ちーちゃんはきっぱりと言った。
「・・・・そんなことないだろ」
「あるよ。・・・・そんなこと、ある」
ちーちゃんは俺の目を真っ直ぐに見て言った。
ちーちゃんの瞳はすごく大きくて綺麗で・・・・って、
「ちーちゃん・・・・近い」
俺は顔を背けて言う。
でも、ちーちゃんは離れようとしない。
「ちーちゃん聞いてる?近いんだけど」
「そんなことないよ。もっと近づいてもいいくらい」
いやいや、良くないだろ。
全然良くない。
だが、俺の気持ちとは反対に、ちーちゃんはゆっくりと近づいてくる。
少しずつ、少しずつ。
「・・・・悠くん」
ちーちゃんの声は可愛らしくも、少し艶っぽく、俺の心臓の鼓動がだんだん早くなるのがわかった。
そして、ちーちゃんの唇と俺の唇が触れそうになった瞬間、ある光景が頭の中に浮かんだ。
それは、
黒髪の少女があの時、屋上で見せた美しい笑顔だった。
俺は瞬時に立ち上がる。
すると、ちーちゃんは不思議そうというか、少し不安そうな表情をしていた。
「・・・・悠くん?」
「いや、えっと・・・・次、何乗る?」
俺はぎこちなく尋ねると、ちーちゃんはまるでさっきまでのことはなかったかのように言った。
「じゃあ、次はメリーゴーランドにしようか」
*******
それから俺とちーちゃんは一日中、遊園地のアトラクションを楽しんだ。
久しぶりだった。ちーちゃんとこんなに笑い合えたのは。
これからも、こんな日が続きさえすればいい。
こんな日さえ。
・・・・・・・でも、なぜだか俺の心には、何かがぽっかりと空いていた。
「悠くん、どうしたの?」
ちーちゃんは俺に心配そうに尋ねる。
今、俺とちーちゃんは最後に観覧車に乗っていた。
「別に、何でもないよ」
俺はちーちゃんに答えたあと、ふと外の景色を眺めた。
日はもう暮れて、綺麗な夕日が見える。
「綺麗だね」
ちーちゃんも夕日を見ながら俺に言った。
でも、その時の彼女の目はどこか悲しそうで、弱々しく見える。
そして、
「悠くん。今度は私から離れないでね」
ちーちゃんのその言葉は彼女の不安が混じったような、寂しさが込められたような、そんな言葉だった。
だから、俺はただこう答えるしかない。
「・・・・・・あぁ」
******
翌日、俺はいつも通り学校に登校した。
そして、朝のホームルームが終わると、俺らのクラスの担任の先生、鈴木 美月先生から今日は朝から学年集会という最悪の報告があったので、俺は今、グラウンドに座って、つまらない校長の話を聞いていた。
本当に校長の話を真面目に来ている人はいるのだろうか?と、疑問になるくらいつまらない。
・・・・・マジで一人もいないんじゃないだろうか。
「えー、先週から学校が始まりましたが、生徒の皆さんは・・・・ピーピ―――ピピ―
―」
校長が話していると、急に変なノイズが入る。
なんだ?マイクの故障か?
俺がそう思っていると、突然、上の方から声が聞こえた。
その声はとても可愛らしく、綺麗だ。
俺はその声のする方へ向く。
すると、そこには一人の少女がいた。
そして、彼女は言う。
「悠人さん!私があなたを助けます!」




