秘密
俺は今非常にまずい状況に陥っている。
それというのも、俺が入学式の日につい助けてしまった女子生徒が、なんと入学当日に十人から告白されたと噂されている学年一の美少女だったのだ。
確かに不良の魔の手から女子生徒を救ったあのとき、俺はもしかしたら助けた女子生徒が何かしらのお礼をしに来るかもとは思ってはいた。
だからそのときは完璧に白を切ろうと心に決めていた。
そう、決めていたのだ。なのに・・・・・・なのに・・・・・・
どうしてこうなったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
教室の外の廊下には大勢のギャラリーが詰めかけており、ついでに教室の中にいた生徒までなぜだか知らんが廊下に出て行ってしまった。
そして今、教室内にいるのは二人だけ。
俺、陰山 悠人と俺の目の前にいる学年一の美少女だけである。
いやーなに。
神様は一体何を考えているのでしょうかね。
せっかく俺が目立たないように速やかに、このイベントを終わらせようと思ったのに。
なに?学年一の美少女?これで白を切り通せると思いますか?
いや、ムリでしょ!
ホント、これがもし神様の仕業だったらひとこと言わせてください・・・・・・・・・・バッカじゃねーの!?
「あの、陰山さん?」
俺が妄想全開でこれを神様のせいにしているのをおかしいと思ったのか、学年一の美少女さんは不安げに俺に声をかけてきた。
「あぁ。ごめん、ごめん。ちょっと考え事してただけだから。で・・・・・えっと、なんだっけ?」
「私、あの時のことはホント感謝しています。もしあなたが助けてくださらなかったら、私は今頃どうなっていたことか」
いや、たぶんどうにもなってないと思うぞ。
あの不良のヘタレチキンレベルはおそらく、彼女と二十年付き合っていて、それでも彼女にプロポーズできないくらいのヘタレベルだからな。
まあこんなに気品があるお嬢様のような美少女に、こんなしょうもないオヤジギャグを混ぜた話をしても通じなさそうなので言うのはやめておこう。
「いや、別に感謝されることはしてねーって、あの時も言っただろ。偶々、通りかかって偶々、助けただけだよ」
「いえ、もしそうだったとしても、私はあなたに助けて頂いたのは事実ですし、私はあなたにお礼をしたいと思っています」
出た。
こんなにちゃんとした人なら必然的にこうなるわな。
ここは断るのは面倒だし、さっさと受け取って、このお嬢さんには悪いが、さっさと帰ってもらおう。
「じゃあ、有難くそのお礼を頂戴させてもらうよ」
「ありがとうございます。では放課後、屋上で」
学年一の美少女は俺にそう告げると、一つお辞儀をして、この教室から出ようとくるりと俺に背中を向ける。
・・・・・・・え?今なんて言った?放課後?屋上?
「ちょ、ちょっと待て!」
俺が少し強めの口調でそう言うと、美少女は運ぶ足を止め、半分だけ体をこちら側に向ける。
「はい?なんでしょうか?」
「えっとさ、お礼してもらう立場でこんなこと言うのもなんだけど、今渡してもらうことって出来ないかな?」
俺にとっては少しでも早く、この人と関わるイベントを終わらせたいのだが。
「それはできません」
即答!?
「そ、それは・・・・何でかな?」
「いえません」
また即答!?
「そ、そっかぁー。言えないのかぁー」
なんだよ言えないって。
・・・・・もうしょうがない。放課後は行かないでおこう。
何となくだが、これ以上この美少女と関わるのはまずい気がする。
「あっ!ちなみに行かないでおこうとかは考えない方がいいですよ」
「・・・・・!?」
俺は不意に放たれた彼女の言葉に動揺を隠しきれない。
「その様子だとやはり考えていたんですね。ダメですよ。ちゃんと来て頂かないと。さもなければ」
彼女は半分だけこちらに向けていた体をすべてこちらに向けて、不適な笑顔を浮かべながら、
「あなたの秘密、全てばらしますよ」
俺は彼女のその言葉を聞いて背筋が凍った。
秘密?どういうことだ?もしかして昔のことだろうか?
まさか。あれは限られた人しか知らないはずだ。
ならこいつは一体何を・・・・・・
俺が必死に考えていると、気が付いたら美少女はもう教室を出ていて、廊下である教室の扉の前に立っていた。
「お、おい!まだ話は終わってねーぞ!」
美少女は俺の言葉を無視するようにお辞儀をする。
そして再度あの不敵な笑顔を浮かべながら、
「今日の放課後、屋上にてお待ちしております」
その言葉とともに、美少女は俺の前から消えていった。
あの美少女が俺の秘密を知っている?
そんなことはありえない。
だって、あれはもう・・・・・・・。
でも、もしあの時の出来事を、俺の過去の過ちを知っているのだとしたら、彼女は一体・・・・・・・・・・。
*******
結局、俺が入学式の日に不良から助けた女子生徒と同一人物であった、学年一の美少女が教室から去った後すぐにホームルームが始まってしまったので、彼女が本当に俺の秘密を知っているかどうか聞けずじまいである。
ホームルームが終わった後や、授業の合間の休憩時間に彼女の教室まで行って聞きに行くことも考えたが、なんとなく朝のあの感じだと行ったところで相手にされなさそうなので、どうせ放課後にまた会うのだからやめておくことにした。
そんなこんなで今は昼休みだ。
誰にも邪魔をされずに一人で窓から外の景色を見ながら
静かにゆっくりご飯を食べる。なんという素晴らしい時間だろうか。
俺は今朝、自分で作った弁当をバックから取り出し、自分の席の机に置いた。
弁当の中身はというと、真ん中にご飯とおかずを分ける仕切りがあって、右側にご飯があり、左側にはから揚げ、きんぴら、ブロッコリー、ミニトマト、卵焼きと錚々(そうそう)たるおかずたちがin the 弁当している。
俺はそのおかずたちを窓の外に見えるきれいな青空を見ながら、一つ一つ口に運んでゆく。
パク、パク、パク。
じっ―――――――――――――――――。
パク、パク、パク。
じっ―――――――――――――――――。
パク、パク、パク。
じっ―――――――――――――――――。
パク・・・・・
俺は二つ目のから揚げを口に入れた瞬間、あることに気づく。
・・・・・・・・・・・・・・・視線が、痛い。
俺は横の窓に向けていた顔をくるっと、反対側に向けると、そこには嫉妬に満ちた大勢の男子+幼なじみが俺に殺意の目を向けていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・俺、死なないよな?
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ようやく六限目の授業が終わり、迎えた放課後。
今朝、学年一の美少女が“放課後”に“屋上”で待ってると言ったので、俺はその言葉通りに屋上へ向かった。
普段の俺なら目立たないように、なるべく人気の少ないルートを選んで行くところなのだが、今朝の一件のせいでどうやらそんなことをしても意味がないようだ。
なぜなら、
「あっ。あの人よ。あの人が学年一の美少女をたぶらかした人よ」
「学年一の美少女を暴力で従わせるなんて、なんてひどい奴だ」
「学年一の美少女はみんなのものだぞ。学年一の美少女を返せ」
まあこのザマである。
廊下で生徒とすれ違うたびにこのようなことを言われるので、たぶん学校中に今朝の俺と学年一の美少女とのやり取りの話は伝わっていることだろう。
しかし噂というものは恐ろしいもんだ。
あることないこと、どんどん広まってゆく。
何がたぶらかしただ。
何が暴力で従わせるだ。
何がみんなのものだ。
そんなことを言うお前らに一つだけ言いたいことがある。
それはな・・・・・・・
学年一の美少女の名前くらい知っとけよ!?
俺はそう心でツッコミながら急いで屋上へ向かった。




