ごめん
朝の教室に俺と木の葉の二人きり。
ちーちゃんには俺が木の葉と二人きりで話したいと言って、教室から出てもらった。
最初は、少しごねていたが、最終的には了承してくれた。
ただし、俺に一つの言葉を残して。
―『悠くん。わかってるよね』―
その言葉は抽象的なもので、何を意味しているかは普通ならわからないだろう。
だが、俺にはそれだけで十分にちーちゃんが言いたいことは理解できた。
でも、それでも俺は木の葉の言葉を聞かなければいけない。
何故なら、彼女たちを俺の過去に勝手に巻き込んでしまったのは俺自身なのだから。
その責任を俺は取らなければならない。
「で、話っていうのは?」
俺はわざとらしく木の葉に尋ねる。
「単刀直入に、言う。悠人、戻ってきて」
木の葉は小さい声で、でも力強い声で俺に言った。
その言葉だけで、木の葉の気持ちがきちんと伝わってくる。
だが、
「それはできない」
俺は迷いなく言い放つ。
その言葉を聞いた木の葉は少し顔を俯けた。
「・・・どうして?」
「だって、俺はお前らと過ごす資格なんてなかったんだ」
「そんなこと、ない。悠人は、そんな人じゃない」
木の葉は少し涙ぐみながら俺に言う。
正直、木の葉の言葉はとても嬉しい。
だけど、だからこそ俺はお前たちと一緒にいるわけにはいかないんだよ。
「悠人。お願い。戻ってきて」
木の葉は再度、俺に言う。
弱々しく、とても不安な声で。
そんな木の葉に俺は伝える。
たった一言だけ。
「・・・・ごめん」
******
授業が終わり、迎えた放課後。
俺はいつも通りに帰宅の準備を済ませ、教室を出ようとすると、一人の女子が俺の名前を呼ぶ。
「悠くん。一緒に帰ろ」
「・・・・ちーちゃん。たまには俺を一人で帰らせろよ」
「はいはい。うるさい、うるさい」
いや、うるさいって。
俺はただ一人で帰りたいだけなのに。
「だって、私は悠くんの彼女なんだよ。毎日、登下校は一緒にしなきゃ」
「・・・・まじかよ」
「え?今なんか言った?」
ちーちゃんは笑って尋ねるが、その瞳には恐怖しか感じない。
・・・・恐ぇよ。
「いえ、何も言っておりません」
「なら、よろしい。でも、またあんなことが起きたら困るでしょ」
「あんなこと?」
「そう。この間みたいな無駄に説得させられるのは嫌でしょ?」
ちーちゃんは急に声のトーンを変えて言う。
その声はどこか不気味で、何かを抑えつけるような声だ。
俺はその言葉に何も言うことができず、黙り込むしかなかった。
「まあいいや。悠くんがどう思っていても。それよりも、明後日、ちょうど休日だし、どこか行こうよ」
ちーちゃんは何事もなかったかのように、楽しそうに話す。
「どこかって、どこだよ?」
というか、俺は休日、一日中ギャルゲーをやりたいんだが。やるしかないんだが。
俺がそう思っていると、ちーちゃんは何かを思いついたように、両手をポンと叩いた。
「そうだ。遊園地でも行こうよ」
「いや、思いっきり時期過ぎてんだけど・・・・」
「だから、行くんだよ。人混みとかなさそうだし」
確かに。この時期は遊園地が混んでいることはないだろう・
だが・・・・
「寒いだろ。もうそろ十月だぞ」
「悠くん。もう決定事項だよ。はい、駄々こねない」
え、俺の意見は?
駄々こねる以前で終わっちゃってるよ。
しょうがない。その時は仮病でも使って、
「悠くん。当日は家に上がり込んででも連れていくからね」
よし。早朝の中の早朝に起きよう。
そうじゃないとちーちゃんに失礼だしな。うん、そうしよう。
「楽しみにしててね!悠くん」
ちーちゃんは嬉しそうな声で俺に言った。
それは男の方がいうべき言葉な気がするんだが。
結局、俺はちーちゃんと遊園地に行くことになった。
だが、俺がこの時、無理をしていたのかもしれない。
彼女たちのことを忘れようと。
・・・・・・そんなこと、できるわけがないというのに。




