今できること
あれから、一週間が経った。
結局、あの日以来、一度も部活には出ていない。
俺はいつも通り朝起きると、制服に着替え、朝食を食べたあと、学校に登校するために家を出た。
すると、家の前には少女が立っていた。
「おはよう。悠くん」
笑みを浮かべ、そう言ったのはちーちゃんだ。
ここのところ毎朝ちーちゃんが俺の家に来る。
「また来たのか。ちーちゃん」
「いやだなぁ。彼女が彼氏と一緒に登校するのは当たり前だよ」
彼女。
そうか、ちーちゃんは俺の彼女なのか。
まあ、それはただの称号みたいなものに等しいが。
まさか、俺の初彼女がこんな形で出来るとは思わなかった。
しかも、ちーちゃんは超美人の分類に入る方である。
一般男子なら心の中で万々歳しているところだろう。
「じゃあ、行こう!悠くん」
「・・・・・あぁ」
だが、俺はそんな気持ちなど一ミリもない。
何故なら、俺は大切なものを捨ててしまったのだから。
*******
「ねぇ、悠くん」
通学路を五分くらい歩くと、突然、ちーちゃんが話しかけてきた。
「何だ?」
「今度、デートしようよ」
ちーちゃんは俺の方を向いて、また笑顔で言う。
「・・・・デート?」
俺は自分には一生縁がないような言葉を言われ、戸惑いを隠せない。
ちーちゃんはそんな俺を見て、クスクスと笑っている。
「そうだよ。今度の休日にどっか出かけようよ」
「いや、それは・・・・・」
俺が言葉を濁していると、ちーちゃんは俺の耳元で囁いた。
「私の言うこと聞いてくれるよね?」
ちーちゃんはわかって言っているのだ。
俺は彼女を断れないと。俺は彼女を否定できないと。
「・・・・・あぁ。わかった」
だから、俺はいつものように彼女を肯定する。
*******
俺たちは学校に着くと、そのまま教室へ向かった。
そして、教室の扉を開けると、そこには小さな少女がいた。
少女は、白銀の髪を美しく輝かせていて、じっと窓の外を見ている。
その時の少女の表情はどこか寂しそうな表情をしていた。
「・・・・木の葉」
俺は少女の名前を呟く。
すると、少女は俺たちが教室に入ってきたことに気が付いたのか、くるりと振り返って、俺たちの方へ身体を向けた。
「悠人。おはよう」
「お、おぉ。おはよう」
木の葉の言葉に俺はぎこちなく答えた。
何故なら、あの日以来、俺は木の葉と一度も話していない。
木の葉だけではない。
早苗とも、咲とも話していなかった。
だから、突然、木の葉が話しかけてきたのには正直かなり動揺をしている。
「どうした?木の葉。こんな早い時間に学校に来るなんて珍しいじゃないか」
「そう?私は、別に普通、だけど。それよりも、悠人の方が、普通、じゃない」
木の葉は俺に真っ直ぐと視線を向け言い放った。
その言葉は矢のように、俺の胸にぐさりと刺さる。
「ちょっと君。私の彼氏に余計なことを吹き込まないでくれるかな?」
そう言って、木の葉の前に立ったのはちーちゃんだ。
ちーちゃんは少し苛ついた表情で木の葉を見ていた。
「私は、君じゃ、ない。木の葉 雫って、名前がちゃんと、ある」
「そう。じゃあ木の葉さん。今後、悠くんに近づかないでくれるかなぁ。悠くんは君たちと一緒にいたくないんだよ」
「そんなこと、ない。悠人はそんなこと、思ったりしない」
木の葉は迷いなく言うと、ちーちゃんはその言葉に驚いたあと、少し黙り込んだ。
その隙に、木の葉は俺に向かって言う。
「悠人、話がある」
木の葉は意を決したように言った。
俺はその時の木の葉の表情を見ただけで、彼女が言っている話の内容がどんなものかがわかった。
木の葉は俺と向き合おうとしてくれている。
こんな俺と。
なら、今俺が彼女にできる最低限のことは。
俺はそう思い、木の葉の言葉に答えようとすると、
「だめだよ、悠くん」
ちーちゃんは俺に向かって言う。
しかし、それはいつものふざけたような感じとは違って、真剣に俺の顔をしっかりと見て言った。
ちーちゃんのその言葉は俺を迷わせるには十分だった。
だが、
「悠人!」
木の葉が廊下に響き渡るような声で俺の名前を叫ぶ。
そして、木の葉は言った。
「お願い」
俺は思う。
木の葉は俺のかけがえのない人の一人だ。
なら、俺は彼女に対して今できることをする義務がある。
だから、
「わかった。話をしよう、木の葉」
俺は木の葉に向かって、静かにそう言った。




