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大丈夫

早苗とデパートに行った日の翌日の朝、俺は夏休みらしく自分の部屋のベットでゴロゴロしていたわけだが、


―『・・・どうして、“咲”って呼んでいるの?桜空さんのこと』―


どうしてって、そりゃ咲の婚約を強引に解消させた次の日に咲にそう呼んでくれと頼まれたわけで、別にそれ以外の理由なんかないしな。

だけど、それは新川先生から口止めされているわけだから言うわけにはいかないわけで。


「あーもう!なんなんだよ!俺が何か悪いことでもしたか?全然わかんねぇ」


俺は後頭部を掻きながら、割と大きな声で言うと、下の階から我が妹、陰山 花実の声が聞こえてきた。


「お兄ちゃん。またお客さんが来たよー」


客?まさか、早苗だろうか。

いや、待て待て。花実が早苗のことを客というのはさすがにおかしい。

昨日、今日の付き合いじゃあるまいし。

ということは、


「わかった。今行く」


俺は花実にそう言って、下の階に降りた。

そして、玄関の扉を開けると、そこには可愛らしい水玉のスカート姿で銀髪ロリ少女がいた。

そして、その少女は持ち前の低身長を生かし、上目遣いでこう言う。


「悠人。あそびに、きた」


可愛すぎますね。はい。



*******



俺はとりあえず、木の葉を自分の部屋へ案内し、一旦、下の階へ戻り、二つのカップに紅茶をいれて、再び自分の部屋に戻った。


「ほい。これ」


俺はそう言って、木の葉の前にあるテーブルに紅茶入りのカップを一つ置く。

その後、俺が木の葉と向かい合わせになるように座り、同じようにテーブルに紅茶入りのカップを一つ置いた。


「で?今日はどうした?」


俺がそう尋ねると、木の葉は少し頬を膨らませる。

はは、超可愛い。


「さっき、言った、よ。遊びに、きた」

「あぁ、そうだったな。遊びに・・・・遊びに?」


俺はこの時重要な問題に直面した。

俺の部屋に俺と女子が二人きり。しかも、幼なじみ以外の。

これはもしや、まさかの、ラブコメ展開というものではないだろうか?

だとしたら、俺がモブとしてやることと言ったら、木の葉を俺の家から追い出すこと。

つまり、遊ぶのを断ることではないだろうか?

そうなのではないだろうか?そうなのでは・・・・・


「よし!遊ぶか!!」


却下である。

確かに俺は今女子と二人きり、さらには幼なじみ以外の女子を自分に部屋に入れるのも初めてという具合で、これを聞くとラブコメ全開である。

だが、目の前の女子を見よ!

俺の目の前にいるのはもう中学生、いや、下手したら小学生として見ても支障はないほどの女の子である。

つまり、これはあれだ。

近所の優しいおじさんが小さい子供と遊んであげているというやつだな。

そうそう、そうである・・・・たぶん。


「で?なにして遊ぶんだ?」


俺は気を取り直して、というか、もう余計なことは忘れて、木の葉にそう尋ねる。


「いつも、悠人がしていること」


木の葉は冷静にそう言うと、俺のことをじっと見つめだした。


「え?俺がいつもやっていること?いつもやっていること・・・・」


ギャルゲー?

いやいやいや、落ちつけ俺。

木の葉に俺がギャルゲーをやらせるだと!?

もはやそれは犯罪である

となると、俺がいつもやっていることは・・・まあ漫画か。


「木の葉、俺はいつも漫画を・・・・」


俺は木の葉に漫画を読ませようと声を掛けると、木の葉は手には何故かギャルゲー『妹でハーレムを!!』が握られていた。


「悠人。これ、いつもやっているんでしょ?」


木の葉は冷静にそう言いなが・・・いや、めちゃめちゃ怒ってました。超怒ってました。

そんな木の葉に俺は言い返すこともできず、

「・・・・はい」

「じゃあ、これやる」

「・・・・はい。え?・・・・えぇ!!」


俺の驚いた反応に木の葉は少し笑みを浮かべた。

こうして、俺は何故か木の葉とギャルゲーをする羽目になったのである。



*******



「木の葉、おまえ意外と上手いな」


俺は木の葉のプレイしている画面を見ながらそう言う。

というか、上手いどころじゃない。

このゲームは割と難しくて、途中で一つでも選択肢を間違えると、ハッピーエンドにはならない仕組みになっているのだ。

だが、


「これは・・・・これか、な」


木の葉はそう言って、また簡単に正解の選択肢を選ぶ。

これで二時間プレイし続けて、一つも間違いがない。

まじで凄ぇな。

俺はひょっとしたら、ギャルゲー界のドンに会っているのかもしれない。

木の葉さんまじパないっす!


俺がそんなことを思っていると、木の葉のプレイしている画面に幼なじみヒロインのキャラが映る。


「・・・・早苗」


俺は気が付くとそう呟いていた。

やばいと思ったのも時すでに遅し。

木の葉がさっきまで一回もギャルゲーの画面から逸らさなかったのに、今はゲーム機自体を床に置き、俺をじっと見つめていた。


「・・・どうした?木の葉」

「それは、こっちの、セリフ。なにか、あった?」

「いやいや、別に何もねぇよ」

「ウソ、今日の悠人。少し、おかしい」


木の葉はそう言って俺を真剣な目で見つめる。

同じ部活で毎日のように会っていただからだろうか

どうやら木の葉に隠し事はできないらしい。


「わかった。全部話すよ」


こうして、俺は昨日早苗とデパートに行ったこと。そして、デパートで何故か早苗が突然、悲しげな表情で帰ってしまったことを話した。


「なる、ほど」


木の葉はすべて聞き終えると、紅茶を一口飲むなりそう言った。


「なんかよくわかんないんだよな。俺が悪いことしたっていうんなら直接言ってくれればいいのに」

「それは、無理、だと思う」


俺の言葉に木の葉は小さな声で答える。


「無理?・・・どういうことだ?自分で気づけってことか?」

「そう。そういう、こと」


木の葉はまた小さな声で答える。

だが、その表情は少し寂しそうな、そんな感じだった。

そして、木の葉は続けて言う。


「私、柚原の気持ち、少し、わかるかも」

「わかるって・・・・もしかして、早苗がどうしてあんなことをしたのかわかるのか?」

「・・・たぶん」


木の葉は早苗の行動の意味を知っている?


「・・・・じゃあ」

「・・・・でも、教えられない」


木の葉は俺に教えてくれと頼まれるのを察したのか、すぐにそう言った。


「どうして?」

「これは、柚原自身の問題。悠人は、関係ない」


俺の疑問に木の葉はただ冷静に、そして、少し悲しげに答えた。


「早苗自身の問題?でも、あいつがもし困っているのなら助けるべきじゃないのか?」

「今回は、それは、できない。悠人は、ただ待つのがベスト、だよ」


待つ?何を待つっていうんだ?

全くわかんねぇ。

俺が頭を悩ませていると、木の葉はそんな俺を心配したのか、最後に木の葉は笑顔になって言った。


「大丈夫、だよ、そんな、心配しなくても。悠人は、柚原の幼なじみ、なんでしょ?だったら、信じてあげて」


木の葉は俺にそう告げると、そのまま自分の家に帰って行った。





その日の夜、俺はまた朝と同じように自分のベットでゴロゴロしていた。

そして、俺は呟く。


「・・・信じる、か」


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