学年一の美少女(メインヒロイン完全登場)
結局、俺は早苗のバダ・ハリのパンチに匹敵するんじゃないかと思わせる威力のローキックを食らった。
そのあと、俺の予想ではあいつは俺の前から立ち去ると思ってたが、今回はそうじゃなかったらしく、ローキックをかましたあと、そのまま俺のななめ前の席に座って俺に普通に話しかけてきた。意外と怒ってないようです。よかった。
さすがにもう一発ローキックは食らいたくないので、俺は今だけ無視するのをやめた。
しかしホントにあのキックは痛かったなぁ。マジ半泣き通り越して、チビッちゃいそうだったぜ。
ホントにあいつはレスリングとか、柔道とか、とにかくいっぺんそっちの道を真剣に考えた方がいい。
ってかそうしてください。俺の体が持ちません。おかげでやばいものに目覚めちゃいそうです。
「悠人。あんたなにボーっとしてんのよ」
早苗が不機嫌そうな顔で俺に話しかけてくる。
「ボーっとなんかしてねぇよ。考えごとだ。考えごと」
「ふーん。怪しい」
全然怪しくなんかねぇっての。
こいつは俺のどこを見てこんなことを言ってるんだ。
確かに早苗の柔道か、はたまたレスリングか、どっちの道に陥れて・・・じゃなくて進ませてやろうか。
ということを考えようとしてたが、それは決して怪しいことじゃない。
これは早苗のためだ。ってか俺のためだ。
まあこんなことは口が裂けても言えないので(最後の方なんか本音漏れてるし)、俺はこの内容を大まかに言ってやることにした。
「お前のことを考えてたんだよ」
嘘は言ってない。
正真正銘ホントのことだ。
ただ早苗をレスリングや武道の道に行かせて、俺にぶつけている暴力をそっちに移させようとか、俺に話しかけてくる回数が多すぎるので、そっちでビシバシしごいてもらって、俺に話しかけてくる回数を少しでも減らせられればな、とか考えてたことを全部ひっくるめて“お前のこと”と言ってるだけで。
まあこれくらいで早苗は欺けるだろう。
そう思い、早苗の方に目をやると、
そこにはピュアという言葉を顔にするとこんなんだろうな、というような顔をした早苗がいた。
少し説明を付け足すとすると、口元を手で覆い隠し、頬はまるで好きな子に告白されたときのように真っ赤かだった。
「え???それって、つまり・・・・・え???」
ん?何でこいつこんな動揺してんだ?漏らしたのか?
うーん、わからん。
俺はとりあえず、どうしたのか聞くことにした。
なんせホントに漏らしてたら、それはシャレにならない。まじでシャレにならない、リビングでノーパソを使ってネットしてたら、急に大音量で十八禁動画が家族がいる前で再生されたときくらいシャレにならない。
え?経験談かって?ま、まま、まままままさかぁ・・・・・・・・。
話しが少し脱線したが、俺は気を取り直して早苗に聞く。
「なあ?お前どうかし」
「待って!」
その早苗の声は結構大きかった。
軽く廊下に響いてるんじゃないだろうか。
しかし“待って”ってなんだ?なにを待てばいいんだろうか?
うーん、わからん。
俺はとりあえず、早苗がそう言うので待つことにした。
俺が待っている間、早苗はというと深呼吸したり、「そうか・・・悠人がやっと・・・・」とか小声で呟いたり、「大丈夫・・・大丈夫・・・」とか呟いたりしていた。
そして、俺はあることに気づく。
こいつ、独りごと多いなー。
そしてどうやら早苗の準備?ができたらしく、俺に少し緊張ぎみとドヤ顔が混ざったような顔で、ってそれどんな顔だよ!?
「悠人。あんたあたしに言いたいことがあるんでしょ」
「言いたいこと?別にねぇけど」
「う、嘘よ。ほら、あるでしょ。大事なこと」
大事なこと?
俺は早苗にそう言われたので、思い当たりがないか考える。
うーん、うーん。・・・・・・ないな。
「やっぱねぇよ」
「そ、そんなことないはずよ!絶対あるわよ!あたしに言いたいこと!言わないと悠人の好きなエロDVDを一位か」
「考える!考えますから!それだけは勘弁して!?」
俺がそう言うと、早苗はふんっとしてそっぽを向く。
何という恐ろしい女だ。
ないもんを出せと言われてもどうしようもないじゃないか。
でもまあ・・・・俺が忘れてるという可能性もなくはないからな。考えるしかないか。
俺は早苗の必殺『てめぇの好きなエロDVD言いふらすぞオラァ』攻撃を何としても避けるべく、頭の中の思考をフル回転させる。
俺の言いたいこと、俺の言いたいこと・・・・・・俺の言いたいこと?
もしかしてこれは、俺の言いたいこと=本音を聞きたいのではないだろうか。
それならすべての合点がいく。
なるほど!そういうことか!
じゃあ俺のすべきことはただ一つ。
「早苗!俺、わかったよ!お前の待ってる言葉が!」
「え、ホント!!」
「あぁ!ほんとさ!今から言うから、絶対聞き逃さないように聞けよ」
「は、はい。・・・・・やった」
「じゃあいくぞ。俺は・・・・」
「うん・・・・」
「お前は柔道もしくはレスリングの道に行った方がいいと思ってる。理由はお前がいっつも俺に暴力してくるぶんをそっちにぶつけて、俺への被害を少しでも減らしたいからであって、別にお前のためとか一切思ってない。ってかそういうのなしで暴力はやめてほしいと思ってる。あれめっちゃいてぇ。死ぬほどいてぇ。だからやめてくれ。ってかやめてください。あと学校では廊下以外俺と話さないでくれ。目立つから。ついでに言うと一緒に登下校も禁止な。目立つから。ちょー目立つから。そういうことで、これが俺の言いたいこと全部だ」
俺は言い終えたあと、なんとも言い難い解放感に満ちあふれていた。
なんというすがすがしいこの気持ち!
こんなことなら前から言うんだったぜ。
しかもすべて早苗の望んだことだから、決して怒らせたりはしないわけだ。
完璧じゃないか!思わず笑みがこぼれてしまうわ!アッハッハッハッハッハッハッハッ
俺は心の中で笑いながら上機嫌で早苗を見る。
「・・・・・・・・・・・・」
早苗は黙って、物凄い形相でこっちを見ていた。しかも、いつの間にか立ち上がってるし。
あれー?おかしいな?早苗は怒らないはずなのに・・・・・・・ナンデカナ?
「悠人の・・・・悠人の・・・・」
早苗の背中から闇というかドス黒いオーラが出てくる。
まずい。ヒジョーにまずい。まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい・・・・・・・・
「あほんだらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」
早苗の足が目にも止まらぬ速さ(比喩とかではなくガチ)で、俺の腰を蹴飛ばす。
ボコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!
「・・・・ぐぅ・・は」
俺はその場で倒れこんだが、そんなのお構いなしに早苗はキックを続ける。
なぜか俺の腰だけに。
ボコッ!ドカッ!バコォン!
「なんで!なんでいつも悠人はそんなんなの!もう悠人のくせに!悠人のくせに!」
「は?一体何の話だよ!?意味がわか・・・ってちょ、やめろ、やめろって」
まだ早苗のキックの嵐は続く。
やはり俺の腰だけに。
ボコッ!ドカッ!バコォン!
「何でわかんないのよ!アホ!アホ悠人!」
「アホって、まさかお前に言われるとは・・・・って痛っ、いたたた、だから痛いんだって。・・・あっ!あるぞ!まだお前に言ってない俺の言いたいこと」
「そんなの別に聞きたくない!」
「いいから聞けって。ってか聞いてください。お願い。お願いだからもう蹴るのやめて」
「えっ・・・・」
俺がこんな貧弱な声を出したのが相当驚いたのか、さっきまで鬼の形相で睨んでいた顔が少しずつ、いつもの早苗の顔に戻ってく。
「そ、そこまで言うなら、しょうがないわね」
そう言ったあと、早苗は蹴っていた足を止めた。
「で?言いたいことってなに?」
「何言っても怒らないか?」
「は?そんなわけないでしょ?」
ですよねー
「まあいいや。じゃあいうぞ」
「う、うん。ドンとかかってきなさいよ」
かかってこいって、なんだその昭和のおばちゃんっぽい感じは。
「あのな。俺とあんまり関わるな。お前はその・・・・可愛いし、コミュ力高いんだから、俺と違って友達だってちゃんと作れるだろ。だから俺と無理にかかわる必要ないんだ。俺と関わってると、昔のあの子みたいにお前を悲しませてしまうかもしれない。それに・・・・」
それにお前には大事なことを教わったから・・・
俺がそう言おうとして、逸らしていた顔をしっかり早苗の方に向けると、早苗は顔を真っ赤にして、おろおろしていた。
「えっ・・・・・。今、か、可愛いって言った?」
「え?まあ・・・・・そうだけど」
俺がそう答えると、早苗は俺に背中を向けて小声でなんか呟いていた
「や、やった!・・・・・悠人に可愛いって言ってもらっちゃった!」
何を言ってるんだろうか?ひょっとして怒らせてしまったんだろうか?
俺は不安になりながら、早苗の背中を見つめていると、早苗はクルっと振り返り一つ、コホンと咳をする。まだほんのり顔は赤かったが、どうやら怒ってはいないようだった。
「で?言いたいことはそれだけ?まあ可愛いと言われて悪い気分はしないけど」
・・・・・・ん?なんかおかしいぞ?確かに可愛いとは言ったが
「ちょ、ちょっとまて。可愛いとかそういうの以前に、もっと俺は大事なことを言っただろ。俺といるとお前を悲しませるかもしれないとか。昔のあの子だってそうやって・・・」
俺は真剣にそう言うが、早苗はキョトンッとしてから『そんなこと言ってたっけ?』みたいな顔をしている。
「なに?そんなこと?そんなのあたしには関係ないわよ」
「関係ないって、お前・・・」
「関係ないものは、関係ないの。それしきごときで、あたしがどうにかなるわけないでしょ」
「いや、でもな」
「いいの」
早苗は笑顔で言った。
さすがに顔はいいだけあって、その笑顔はものすごく可愛くて、まるで一輪の花が一瞬で咲き誇ったような、そんな感じだった。
それで、その笑顔を見ると何だか・・・・・・・・安心した。
「でも」
早苗はその笑顔のまま口を開く。
「あたしは柔道とかの道には進まないし、腹が立ったときは蹴るし、いつでも普通に話しかけるし、登下校も毎日するからね」
どうやらその花は散るのも一瞬のようだ。
「え、そ、それは・・・」
「するからね!」
顔は笑顔のままなのに、目で『断ったら殺す』と言っていた。俺がここで断ると、楽しいモブキャラライフを送る以前に俺のライフゲージがなくなりそうだ。
「・・・はい」
俺のその言葉を聞くと、早苗は腕を組んでそっぽを向きながら
「べ、別にあんたと一緒に登校したいわけじゃないんだからね!ふんっ!」
それなら、俺も別にお前と登校などしたくはないんだが。
俺はそう思ったのだが、またぶん殴られる・・・・ではなくて、ぶん蹴られそうで、口に出すのはやめておくことにした。
まあこの行動は実は早苗の気持ちとは真逆のことをしていて、ホントは俺と一緒に学校に行きたくて行きたくて、しょうがなかったりするかもしれないしな。
あははは・・・・・・・・・・そんなわけねーか。
俺はツンツンしている早苗のことを見ながら、ありえない妄想をしていた。
「なによ?」
「別に。お前が俺に対して言ってる言葉とか、している態度とかが、お前の気持ちと全部真逆だったら、早苗は俺のことめっちゃ好きってことになるなって、ありえない妄想をしていただけだよ」
俺は軽く、冗談のつもりで言った。
「そ、そんなことあるわけないでしょ!なに変なこと妄想してんのよ!変態!アホ!馬鹿!あと、えっと・・・・・変態!バーカ!バーカ!」
なにをムキになってるんだか。あとこいつはボキャブラリーを増やした方がいい。
そう思う、陰山さんなのだった。
ガヤガヤガヤガヤ
どうやら早苗と色々やっていたら結構時間が経っていたらしく、教室はクラスメイトの話し声でにぎわっていた。
俺はそのタイミングを見計らって、早苗を自分のクラスに帰るように促そうとすると
「ウワァ――――――――――――――――!!」
まるで逆転サヨナラ満塁ホームランを打ったときに起こるような歓声が、急に廊下のほうから沸き起こった。
一体何が起きたんだろうか?
「あれは、たぶん学年一の美少女が登校してきたのよ」
早苗が廊下に視線を向けて、そう言った。
「学年一の美少女?」
「そう。なんか入学初日から注目されてて、もう十人くらいに告白されたらしいわよ」
「えっ!まじ?」
だってまだ二日、というかまだ二日目も始まったばかりだから、事実上一日で十人に
告白されたというのか。
そりゃ歓声も起きるわけである。
「悠人はその・・・・どう思う?」
「どう思うって、なにが?」
早苗は指をもじもじさせながら言う。
「だから、その・・・学年一の美少女とか・・・興味ないの?」
「興味?そんなのあるに決まってんだろ」
「えっ・・・・・・」
俺の言葉が予想外だったのか、早苗は俺の顔を見て唖然としている。
俺は気にせずに、言葉の続きを話す。
「そういうめちゃモテる女子は、誰にでも気兼ねなく話すようなタイプが多いんだよ。だから、俺にそういうことが起きないように、注意していなきゃいけない。そんな人と無駄に絡んで目立ちたくないからな」
「なんか・・・・悠人はやっぱり悠人なのね」
「ほっとけ」
ガラガラガラ
教室の前の方の扉が開くと、同じ教室にいたやつが皆、扉に視線を向ける。
なんだ?
そう思い、俺も扉の方を見るとそこには大勢の生徒とともに、この教室に入ってくる女子生徒の姿があった。
その女子生徒は、顔は恐ろしいくらい整っていて、ほんのり白い。
体はモデルのように細く、目は凛としている、それでいて溢れんばかりの気品あるオーラが出ていた。
胸は・・・・・・ひとまず、置いておこう。
まあフツーの男ならば必ず一度は恋に落ちてしまうだろう。
まるでギャルゲーの清純系お嬢様ヒロインがそのまま現実にいるような、そんな感じだった。
早苗があっ、と何かに気づいたようにぽつりとつぶやく。
「あれ・・・・学年一の美少女だ」
そうか。
あれが学年一の美少女か。まあ納得だ。
あれなら一日で十人に告白されるのも何らおかしくない。
・・・・・でもなぜだろう?
俺は今日初めて彼女を見たはずなのに、俺は彼女に見覚えがある気がした。
特にあの黒髪だ。
長くて、美しい黒髪は彼女の上品さをより際立たせていた。
とりわけ前髪はきれいに整えられている。・・・・・前髪?
俺はじーっと目を細めて学年一の美少女とやらの前髪を見る。
そして、俺は気づいてしまった。
もしかして、あの子は・・・・・あの時の・・・・
彼女とふいに目が合う。
そして、彼女は
「ようやく見つけましたよ!陰山さん!」
そう、彼女は俺が入学式の日に助けたあの女子生徒だった。