夏休み
桜空の婚約騒動も無事解決に至り、そして、あれから二週間がたった。
今日から八月。
つまり、
「夏休みだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺は朝ベットから起きるなり、叫んでいた。
そう、今日は全国の学生たちが待ちに待った夏休みである。
ちなみに、俺もその学生の中の一人だ。
夏休み。
なんていい響きだろう。
暴力的な幼なじみに無理やり一緒に登校させられることなく、暴力的な幼なじみに暴力を振るわれるかもと怯えながら部活をすることもなく、暴力的な幼なじみに脅迫的に一緒に下校させられることもない。
ははっ!なんて最高なんだろう夏休み!!
「おにーちゃん。ご飯出来たよー」
俺がそんなことを思っていると、下の階から俺の妹こと、陰山 花実の声が聞こえてきた。
ちなみに妹も今日から夏休みであり、家事全般はすべて妹がやってくれるらしい。
お兄ちゃんとしては、そこは気が引けるが、妹がやりたいと言うのだからまあいいのだろう。
来年になったら妹は高校受験が控えているので、こうもいかなくなるのだが。
「わかったよ。今行く」
俺はそう言いながら、服を着替え始めた。
とにもかくにも、陰山 悠人の高校最初の夏休みの始まりである。
******
俺はリビングで花実が作ってくれた朝ごはんを食べ終えると、そのままソファに寝転んでいた。
「お兄ちゃん、食べてすぐに寝ると豚さんになっちゃうよ」
そんな俺の様子を見て、花実がまるで母親のように言う。
「別に夏休みに豚になっても構わないよ」
どうせ夏休みは豚さんとほぼ変わらないくらいの生活をするんだから。
俺はそんなことを思いつつ、近くのテーブルにある漫画を手に取る。
「もう、お兄ちゃんたら。そしたら、豚さんみたく夜にお兄ちゃんの部屋に夜這いしにいっちゃうからね」
それだけはやめて欲しい。
そして、そんな豚さんはこの世に存在しない。
ピンポーン。
俺が花実の言葉に恐怖を感じていると、突然、玄関のインターホンの音がした。
「はーい」
花実が返事をしながら、玄関へと向かう。
さて、そろそろ二階の自分の部屋へ向かうとするか。
インターホンを鳴らしたやつがうちへ入る前に。
俺はそう思いながら、まず漫画をテーブルに置き、ソファから立ちあがり、そして、
走った。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ガシッ
俺が階段の中断にまで着いた頃、俺の肩に妙な感触があった。
まるで、幼なじみに掴まれているような。
「どこに行くのかなぁ。悠人ぉぉぉぉぉ」
まるで、ではありませんでした。
ガッツリ掴まれていました。
はは、ははははは、・・・・はぁ。
*******
「で?これはどういうことだよ」
幼なじみに無理やり連れ去られた俺はどこにいるのかというと、なぜか町のデパートの入口にいた。
「どういうことも何もこういうことよ」
早苗は俺になぜか自身ありげに言った。
いや、だからどういうことだよ。
「つまり、あれか。お前の買い物に付き合えと」
「そ、そういうことよ。わかった?悠人はあたしの買い物に付き合うのよ」
早苗は俺に指をさして言う。
俺は知っている。
こういう時の早苗は誰が何を言おうと無駄なのだ。
「はいはい、わかったよ。・・・・何で俺がこんな目に」
「何か文句ある?」
「いえいえ、何もございませんよ・・・・はぁ」
俺が早苗に気づかれないようにため息をつくと、早苗がどこか恥ずかしげに声を掛けてきた。
「その・・・・これどう思う?」
「・・・は?」
「その・・・・だから、服装よ!服装」
早苗はそう言いながら、俺に自分の服を見てくる。
早苗の着ている服はこないだテレビで流行っていると言っていた、ボーダーのワンピ―スで、色は青と白になっている。
まあ、大方俺には、テレビでやっている服装が考えなくて済むからちょうどいいとか思っているのだろう。
まあそれでも。
「いいんじゃないか。似合ってると思うぜ」
俺がそう言うと、早苗の頬が少し赤くなっているように思えた。
日差しのせいだろうか。
「そ、そう。・・・・じゃあ、行くわよ」
「あぁ、そうだな。・・・・・ほれ」
俺はそう言いながら手を差し出す。
「?何よ」
「いや、デパートに入ってはぐれたら困るだろ」
「え?・・・・・ってことは」
俺の言葉を聞くと、早苗の頬がみるみる赤くなっていく。
何か変なことでも言ったか?
「い、いいわよ別に。あたしがはぐれるわけないでしょ」
「甘いな。お前はわかっていない。お前がはぐれる天才だということに」
「そんなカミングアウトいらないわよ!」
「・・・・はぁ。じゃあわかったよ。はぐれたら携帯で連絡すれよ」
「まさかのはぐれる前提!?って、何で勝手に手つながないことになってるのよ!」
「どっちだよ!」
「繋ぐわよ。繋いで見せるわよ」
別に嫌々やってもらう必要はないんだが。
俺はそう思いながら、再度、早苗の前に手を指しだす。
そして、早苗は俺の手をぎゅっと握った。
「って、おい。このつなぎ方は違うだろ」
俺は早苗に握られている自分の手をそう見ていった。
なぜなら、俺と早苗は今、貝殻つなぎ、つまり恋人つなぎで互いの手を握っていた。
「べ、別にいいでしょ。握り方なんて何でも一緒よ」
早苗はそう言って、握った俺の手を離そうとはしない。
だが、早苗の耳も頬もこれ以上になく真っ赤であった。
「おい、やっぱり恥ずかしいんだろ。やめておけよ」
「い、いいのよ。・・・・これがいいの」
俺の言葉に、早苗は恥じらいながらそう答えた。
だが、その時に一瞬、早苗が笑みを浮かべたのは俺の気のせいだろうか。
とにもかくにも、俺の高校初めての夏休みは最悪のスタートになりそうである。
・・・・・・・・はぁ。




