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「誓うんじゃねぇ!桜空!!」


俺は壇上にいる桜空に向かって再度、叫ぶ。


「だ、誰だ君は!今は僕と彼女の式の最中だぞ!」


桜空の隣にいるタキシード姿の男が俺に向かってそう言った。

おそらく、あれが桜空の婚約者というやつだろう。

確か名前は花類 喜栄とか新川先生が言っていたな。


「本当です!誰なのですか!!あの無礼者は!!」


客席から四十代くらいの女性が花類に続いて言う。

女性はたぶん花類の母親だろう。

桜空とは全く似ていないしな。

となると、


「申し訳ありません、奥様。彼はおそらく咲と同じ学校のクラスメイトだと思われます」


先ほどの女性とはまた別の四十、いや三十代くらいの女性がそう言って深々と頭を下げる。

髪は美しい黒髪で、スタイルは出るところは出ていて締まるところは締まっている。

顔は話し方や雰囲気とは違い、ハリがあり、とても若々しい。

桜空の母親、(おう)(そら) 有紀(ゆき)である。


「どうしたんだい有紀?そんな恐い顔をして」


そんな呑気な声を桜空 有紀に掛けたのは、桜空の父親である理事長だ。

桜空 有紀はそんな理事長を睨みつけている。


「あなた、式の警護に何か言いましたか?」

「何のことかなぁ。僕は大切な咲の結婚式にそんな物騒なものはいらないと思っただけなんだけど」


理事長はとぼけたように桜空 有紀に言った。

桜空 有紀はそんな理事長に対して、一つため息をつく。

そして、俺の方に身体を向け、


「あなた、確か陰山さんと言いましたね」


桜空 有紀は鋭く、冷たい目で俺を見て言った。


「・・・はい」


俺は桜空 有紀の言葉に少し間をあけ返事をする。


「では、陰山さん。今すぐお引き取りください。今は私の娘の結婚式の最中ですので」

「それはできません」


俺は桜空 有紀の言葉に対して即答した。

そんな俺に桜空 有紀は冷静に言う。


「陰山さん。これはあなたが思っているようなお遊びのような式ではないのですよ。私の会社の運命がかかっているのです」

「それは、桜空を自分の経営している企業のために利用するということですか?」

「そう捉えてもらって結構です」


俺は桜空 有紀の言葉に怒りを隠せない。


・・・・なんで、そんなことを堂々と自分の子供の前で言えんだよ。


「わかってもらえましたか?ではお引き取り」


「わからねぇよ!!」


俺は教会内に響くほどの大きな声で叫ぶ。


「わからねぇ。桜空はあなたの子供だろ。なのに、なんでそんなひどいことを言えるんだ。親は子供を誰よりも大事にしなきゃいけないんじゃないのかよ」

「ですから、大事にしているではありませんか」


桜空 有紀は再度、冷静に俺の言葉を返す。


俺は思う。

おそらく、この人には何を言っても無駄だ。

俺の言葉も桜空の言葉も誰の言葉も届かない。

もしかしたら、ここは諦めるのが一番いいのかもしれない。

でも、でも俺は―――――――――



―『悠くん・・・・・・・・・ごめんね』―



気づいたときには俺は走っていた。

桜空のもとに。



「桜空ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



「あ、あなたは何をしているのです!?」


突然の俺の行動に桜空 有紀は動揺していた。

桜空 有紀がそうなっている間に俺は桜空の傍にまで着く。

そして、


「桜空!手を!!」

「え?」


俺の行動に驚いているのか、桜空は俺の言葉を理解できない。


「き、君!何をやっているんだ!彼女は僕の妻となる人だぞ!!」


花類は足をがくがく震わしながら俺に向かって言った。

所詮、いいとこ育ちのボンボンということか。

力づくで自分の婚約者を取り返すという選択肢は花類の頭の中にはないようだ

俺は思う。


「こんなやつに桜空を任せられるか!!」


俺は無意識に思ったことを花類に言った。

そして、桜空の手をとり、


「桜空!行こう!!」


俺がそう言うと、桜空はいつものあの美しい笑みを浮かべ、


「はい!」


そして、俺と桜空は壇上をおり、扉に向かって走ってゆく。

しかし、


「咲!何をやっているのですか!!」

「・・・・お母様」

「あなたには私の会社を継ぎ、発展させるという重要な使命があるのですよ!!」

「お母様。ですが、私は」

「いいですか。もう一度言います。戻りなさい。咲」


桜空 有紀の言葉に桜空は何も言い返せない。


そうか。

桜空はこうやって、いつも自分の言いたいことを、自分の意思を言えずにいたのか。

そして、一人で悩んで、苦しんで。

でも、今は桜空一人じゃない。

なら、俺のやるべきことは。



「お願いします。桜空の話を聞いてあげてください」



俺は膝を地につけ、頭を地にこすりながら言う。


「な、何をやっているのですか!?あなたは」


土下座をしている俺を見て、桜空 有紀は動揺をしていた。


「お願いします。桜空の言葉を、気持ちを聞いてあげてください」

「・・・陰山さん」


どうやら桜空は俺のこんな姿を見て、悲しんでいるようだった。

でも、俺はやめるわけにはいかない。

どれだけ無様になっても、情けない姿をさらしても、

俺はもう大事なものを失いたくないんだ。


「お願いします。一度だけでいいんです。桜空の話を聞いてやってください」


俺はそう頼み込むと、桜空 有紀はまだ動揺をしつつも、どこか迷っているようだ。

すると、桜空の父親である、理事長がゆっくりと桜空 有紀に近づく。


「いいんじゃないかな。話を聞いてやるくらいは」


そんな理事長の言葉を聞くと、桜空 有紀は一つ深いため息をついて、


「わかりました。咲。言ってごらんなさい」


その言葉を聞き、俺と桜空は笑みを浮かべた。

そして、俺は桜空に視線でエールを送る。

桜空もそれに頷き、それから桜空 有紀の方へ向き、口を開いた。


「お母様。私はお母様に感謝をしています」


突然言われた、桜空の言葉に桜空 有紀は驚く。


「お母様のおかげで私は今までずっと幸せな人生を送ってゆけました。そして、これからも幸せな人生を送ってゆけたらいいと思っています」

「では、花類さんとの婚約を」

「それはできません」


桜空 有紀の言葉を桜空はきっぱりと否定する。


「なぜですか」

「それは知ってしまったからです」


桜空は今までになく、真剣に、真っ直ぐに桜空 有紀を見つめる。

どうやら桜空 有紀は桜空のその言葉を理解できないようだ。

そんな桜空 有紀に桜空はあの優しく、美しい笑みを浮かべながら言った。



「これからの人生に柚原さんが、木の葉さんが、そして陰山さんが私には必要なのだと知ってしまったからです」



桜空の言葉に理事長は笑顔になり、桜空 有紀は言葉を返せず、

そして、俺は素直に嬉しかった。

今まで色々なことがあって、大変なことや、迷惑をかけたこともあったけど、桜空が俺たちのことをそう思ってくれていることがたまらなく嬉しかった。


「ですが、咲。もしあなたが婚約をしなかったせいで、私の会社が傾いてしまったらどうするのですか?」

「それは・・・・」


しばらく間が空いた後、桜空 有紀があの冷たい声で桜空に言う。

そして、桜空は言い返すことができない。


「その時は、俺が何とかします」


俺は気づいたらそんなことを言っていた。

何やら理事長も何か言おうとしていたが、俺の言葉を聞くと、どこか安心した様子になり口を閉じていた。


「何とかって」

「だから、もしあなたの会社が傾いて、それであなたと理事長と桜空が生活ができないくらい大変な状況になったら、もしそうなったら」


俺は息を整え、そして、桜空 有紀に向かって言った。



「その時は俺が死ぬほど働いて、そしてあんたら全員養ってやります」



俺がそう言った瞬間、桜空 有紀は黙り込む。

だが、その姿は動揺とは違い、何か今までとは違う感じだった。

そして、しばらく沈黙が続いたあと、


「フフ」


突然、誰かの笑い声が聞こえる。

それもかなり可愛らしい声だ。


「フフ、フフフ、フフフフフフ、アッハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」


教会内に少女のような可愛く、そして聞きほれてしまうような笑い声が響き渡る。

そして、俺はかなり動揺していた。

なぜなら、その声の主は、


「お、お母様?」


桜空が心配そうに声を掛ける。


「お、おい桜空。お前のお母さん壊れたのか?」

「・・・・・さあ」


俺が尋ねると、桜空は困惑した様子で答える。

俺と桜空が何も言えずにいると、桜空 有紀が話し出す。


「あなたが私を、フフ、・・・私たちを養うって、フフフ、あなたはまだ学生ですよ」


桜空 有紀は笑い声を押し殺しながら、俺に言う。

もしや俺の言葉はあまり意味はなかったのか、と俺の頭にそんな不安がよぎる。

そして、桜空 有紀は完全に笑いを止め、言った。



「・・・・わかりました。咲。あなたと花類さんの婚約は破棄にしましょう」



俺と桜空はその言葉に驚きを隠せなかった。

だが、それと同時に俺と桜空は笑顔になり、そしてお互いが見合った。


「桜空さん!何を言っているのですか!!私の可愛い息子との婚約を破棄するだなんて、そんなことはさせませんよ!!」

「そうだ。彼女は僕の妻なんだぞ!!勝手になかったことにするな!!」


桜空 有紀の言葉を聞いた、花類の母親と花類は怒りをあらわにしながら叫ぶ。


「いいえ。今回のお話はなかったことにしてもらいます。当然、合併のことも」


桜空 有紀の言葉に花類親子は何も言い返せない。

それもそうだ。

なにせこの合併の話は桜空 有紀の会社が花類家の会社を吸収するというものなのだから、取り込まれる側の会社の人間がなにを言っても無駄なのだ。


「それに、もうすでに咲の新しい婚約者は見つかっていますしね」


俺は桜空 有紀の言葉に首を傾げる。

だが、理事長は何か察しているようで、桜空は何やら頬を赤らめていたように思えた。

そして、桜空 有紀のそんな不思議な言葉で桜空の婚約者騒動は幕を閉じた。



******



結婚式が中止になり、そして、その日の夜、桜空は家のリビングのソファに座っていた。

家のリビングといっても、一般家庭のリビングとは広さが十倍くらい違う。


「咲。いたのですか」


有紀がリビングの扉を開け、入るなりそう言った。


「・・・・お母様」


桜空はどこか元気がないような声で言う。


「咲。どうかしたのですか?」

「・・・いえ。その」


有紀の質問に桜空はうまく言葉を言えない。

そんな桜空の様子を見て、有紀は小さく笑う。


「責任を感じているのですか?」

「え?」


有紀の言葉に咲は動揺する。


「フフ、あなたは何も責任を感じることはありませんよ。すべては私が決めたことですから。それより、私の方こそごめんなさいね」

「なぜ、お母様が謝るのですか?」

「だって、私は知らないうちにあなたから大事なもの取り上げてしまいそうになっていたのだから。本当にごめんなさい」

「そんなお母様。私のわがままで困っているのはお母様なのですから、謝らないでください」

「・・・咲」


有紀は目に涙を溜めながら、桜空の名前を呟く。

そして、また小さく笑みを浮かべ、


「咲。私はね。私のお母様、つまりあなたのお婆様の言う通りに人生を送ってきたのよ。どんな時も。もちろん、婚約の時だって。そして、今の私の夫。宗十郎さんに出会った」


有紀はゆっくりと落ち着いたトーンで話し続ける。

そんな話を桜空もまた静かに聞く。


「宗十郎さんはとても素敵な人でした。私はすぐに恋に落ち、私と宗十郎さんは結婚をしました。そして、すぐに咲、あなたを身ごもり、その一年後にあなたを産みました。私は宗十郎さんと、咲と一緒に過ごせる日々はとても幸せでしたし、これからもその幸せは続くと思っています。それと同時に私はこうも思いました。この幸せは私のお母様がくれたものだと。そして、私の娘にもこんな幸せを贈ろうと思いました」

「・・・お母様」

「ですが、それはどうやら失敗だったようですね。私はあなたのことを何もわかっていなかったようです」


有紀は悲しげに桜空に言った。

そんな有紀の告白を聞き、桜空は驚きながらも、自分の母親がここまで自分のことを考えてくれていたことに喜びも感じていた。


「そんなことありません。お母様は私のことを考えて、私のことを思っていてくれたのですから。それだけで私はとても、とても嬉しいです」

「・・・咲。ありがとう」


有紀は涙を流しつつ、桜空に向かってそう言った。

桜空もそんな有紀を見て目に涙を溜めながら、笑みを浮かべる。


「あの・・・お母様。その・・・申し訳ないのですが、一つ尋ねたいことがあるのですが・・・」

「どうしたの、咲。言ってみなさい」


有紀にそう言われると、桜空はどこか照れたような、恥ずかしがっているような様子で尋ねる。


「その・・・特定の男性のことを考えると、何といいますか・・・・胸の鼓動が速くなって・・・苦しくなって・・・」

「それは『恋』ですよ」


有紀は桜空の言葉を最後まで聞かずに答えた。

そして、有紀は何故だかとても嬉しそうな笑顔を作っている。


「え・・・その・・・恋、ですか?」

「そうですよ。あなたはその方が好きなのです。もちろん、異性として」

「わ、私が・・・その方を異性として・・・・好き!?」


桜空は真っ赤になった頬を両手で押さえる。

有紀はそんな桜空をさらに追い詰める。


「そのお方というのは、『陰山さん』のことですね?」

「ふぇ!?」


有紀の言葉に桜空は驚きのあまり、普段は出さないような声を出してしまう。

そして、どんどん頬は茜色を濃くしてゆく。


「ち、違います。全然・・・・全然、陰山さんなんかではありません。あ、ありませんよ」

「フフ、わかりました。そういうことにしておいてあげます」


有紀は笑顔で桜空にそう言ったあと、睡眠をとるため、リビングを出て自分の寝室へと向かって行った。


リビングに一人になった静寂の中、

桜空は思う。


大変です。すごく大変です。

私はどうやら生まれて初めて恋をしてしまったようです。



陰山 悠人さんに。



******



桜空の婚約者騒動から翌日、俺はいつも通りの通学路をいつも通りに登校していた。

もちろん一人である。

一人は最高だ。

何も面倒なことに巻き込まれることもなく、何も失うこともない。

まあ、何も手に入れることもないんだけどね。テヘペロ☆


でも――――――


「陰山さん!」


背後からとても聞き覚えのある、そして、とても大切な人の声が聞こえる。

彼女の声が聞こえる。

俺は振り返ると、彼女はいつもの美しい笑顔で俺に向かって走ってくる。


「陰山さん。おはようございます」

「おう」

「陰山さん。おはようございます」

「?何で二回言ったんだ?」

「クス、なぜでしょう?」


彼女は小さく笑みを浮かべ言った。

そして、しばらく沈黙のまま、俺と彼女は歩く。

だが、その沈黙はとても心地よく、とても気持ちが良いものだ。

そして、その沈黙に紛れてしまうような、それくらいの小さな声で彼女は言った。


「あの・・・さんって呼んでいいですか?」

「?何か言ったか?」

「いえ・・・その」

「?どうした?」

「その・・・・悠人さんって」


彼女は頬を赤らめながら、再度、小さな声で言う。

だが、俺は彼女の言葉に首を傾げる。


「その・・・“悠人さん”って呼んでいいですか?」

「・・・え」


俺は突然言われた彼女の言葉に動揺を隠せなかった。

だが、彼女の表情を見て、俺は思う。


なんだか、あの時みたいだな。

彼女が俺に初めて友達なって欲しいと言ってきた、あの時みたいだ。


「いいよ」


俺がそう返事をすると、彼女は嬉しそうに笑みを浮かべる。

そして、


「では、私のことも“咲”と呼んでください」

「え、それは・・・」

「呼んでください」


彼女は俺の目の前まで顔を近づける。

俺はそんな彼女に一つため息をつく。


「わかったよ。そう呼ぶ」

「どう呼ぶのですか?悠人さん」


彼女は、今度は意地悪そうな笑みで俺に尋ねる。

どうやら俺はこの場で彼女の名を呼ばなければならないらしい。

俺は息を整え、そして、


「咲って呼ぶんだよ。これでいいか?」

「いいです。とても」


彼女は、いや、咲はそう言って、俺の数歩先を歩いていった。

俺もそれに合わせて歩き出す。



―――でも、最近、俺は、陰山 悠人はこうも思う。

一人ではなく、木の葉と、早苗と、そして咲といる時間の方がとても幸せなのだと。

そう思う。



******



陰山たちがまたいつも通りの日常を取り戻した頃、とある空港で、ある少女は座席に座りながら一枚の写真を見ていた。

そして、こう呟く。



「悠くん、みーつけた」


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