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強引

陰山が学園の理事長である桜空の父と話しをしていたその頃、桜空はとある旅館の一室である男と会っていた。


「ねえ、僕は君の許嫁なんだよ。ということは将来僕たちは夫婦になるわけだ。なのにその態度はないんじゃないかな」


そう言う男は、桜空と和室の中央にある机を挟んで、向き合う形で胡坐をかいていた。


「私はまだあなたとの婚約など認めていません」


桜空はその男を睨みつけながら言う。


「またそんなこと言って。でも、これは決定事項なんだよ。『桜空グループ』は僕たち『Flower』と合併をする。というより、僕たちが吸収されちゃうんだけどね。でも、その代わりに、『Flower』の次期社長である、いや、であった僕、花類(かるい) ()(えい)は君と婚約をして仕事でも、プライベートでも共に過ごしてゆくんだよ」

「花類さん。私はあなたたちと合併をしようと、しまいとどちらでも構いません。ですが、あなたと婚約もしませんし、あと」

「あと、僕と一緒に海外にも来ないと」


桜空が言おうとしていたことを、先に花類が冷静に言う。

そしてその後、花類は一つため息をつく。


「いいかい。君が何と言おうと、僕たちの親はそんなこと認めないし、この話し合いの場だって僕と君の親睦を深めるためであって、婚約を解消するためのものでもないんだよ」

「それは・・・・わかっています。ですが」

「ですがも、なにもないの。もうこんなくだらない話はやめて、もっと楽しい話をしないかい?例えば・・・そうだな、会社の経営についての話とか」


花類は桜空の話に聞く耳も持たず、そう言った後、自分の会社経営の考えについて話し出した。

桜空は思った。

花類 喜栄にはもうなにを話しても無駄だと。

そして、本当に自分はこのままこんな人と人生を歩まなければいけなくなるのだろうか。


「・・・・陰山さん」


桜空は俯き、涙を流しながら誰にも聞こえない声で、その名前を呟いた。



******



学園の理事長であり、桜空の父と話した翌日の放課後、俺は新川先生に呼び出され職員室にいた。


「陰山。おまえ昨日理事長と話しをしたそうじゃないか」

「げっ!?なんでそれを」

「私はお前たちの入っている部活の顧問だからな。お前たちのことなら何でも知っているさ」


いやいや、その説明全然納得できないんだけど。

俺はそう思いながら、苦笑する。


「で?先生はそれを確認したかっただけですか?」

「いや、今日はお前に一つの報告をしようと思ってな」

「報告?」

「あぁ、そうだ。桜空の件でな」

「桜空!?」


俺は新川先生の桜空と言う言葉に反応する。


「いいか、よく聞け。桜空は五日後に婚約をするため、この学校を退学するそうだ」


新川先生からその言葉を聞いた後、俺は頭の中が真っ白になる。


「・・・なんで。おかしいだろ。桜空は今学期が終わるまではこの学校にいるはずだろ。なのに、なんで五日後に退学になるんだよ。まだ今学期が終わるまでは二週間以上あるはずだ」

「最初はそのつもりだったらしいが、予定が変更したらしい。五日後に婚約、そして式も挙げるらしいからな。それが予定変更の理由だろう」

「くっ!」


なんだよそれ。

残り五日間でどうやって桜空を助ければ。

俺が苦渋の表情をしていると、新川先生が少し笑みを浮かべながら俺に話してきた。


「おい、陰山。お前に一ついいアドバイスをしてやろう」

「アドバイス?」

「そうだ。まず、お前は頭がいい。それも特にこういう人が苦しんでいる状況のときにな」

「はぁ。そりゃどうも」

「そして、お前は他人の心を動かす言葉を言える。これもお前の褒めるべき点だ」


俺は新川先生の言っている言葉の意図が掴めず、首を傾げる。


「だがな、今回はそんなものは必要ない。桜空を助けたいのなら力ずくでやってみろ」


新川先生はその言葉を先ほどから変わらない笑みで言った。


「力ずくって、俺、暴力とかしませんよ」


というか、そんなことしたら桜空を助けるとか以前の問題だ。


「違う違う。そういう意味じゃない。力づくというのは暴力とかではなくてな、強引にということだ」


新川先生の言葉を何回聞いても俺はその意図をくみ取れず、再度、首を傾げる。

そんな俺に新川先生は「はぁ」と一つため息をついた。


「つまりだな。陰山 悠人。お前は五日後の結婚式に乗り込んで、桜空 咲という花嫁をかっさらってこい」

「・・・・・・は?」


俺は新川先生の言った言葉が三度理解できず、聞き直す。

すると、新川先生は笑顔で右手の親指を立て、それを俺に向けてきた。


「大丈夫だ。お前ならできる」


・・・・・・・・・・・・は?


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