理事長(じーじ登場)
俺と華宮さんは喫茶店を出た後、再びリムジンに乗ってから、三十分ぐらいだろうか、そのくらいの時間が経過していた。
「あの、華宮さん」
「はい何でしょう?」
「俺たちは一体どこへ向かってるんですか?何か不気味な森の中に入っているみたいなんですけど」
「大丈夫ですよ。道はあってますから」
俺の言葉に華宮さんは動揺した様子もなく答える。
本当にこれあってるんだよな。
というか、この町にこんなところがあったなんて知らなかった。
そんなことを思いながら、俺は通り過ぎてゆく木々の景色を見ていた。
それから数十分後、俺と華宮さんを乗せたリムジンが止まる。
「着きましたよ。陰山さま」
「え?着きましたって言われても・・・どこに?」
俺がリムジンの窓から見る限りでは、ただただ森があるようにしか見えないんだが。
「陰山さま。そちらではなく反対側を見てください」
「反対側?」
俺は華宮さんの言う通り、見てる方向と反対側の窓を見ると、そこにはおそらく俺の人生で一番大きく、一番高そうな家が一軒、堂々と建てられていた。
「あの・・・・華宮さん。もしかしてこれって」
「そうです。咲様のご自宅。つまり、桜空家の方々が住んでらっしゃるお家です」
俺はこの時思った。
お金って怖っ。
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俺は華宮さんに連れられて、桜空の家の玄関まで来ると、華宮さんは桜空の家のインターホンを鳴らす。
言っておくが玄関と言ってもそれはもはやただの玄関ではなく、扉は大きい扉が一つあり、その奥に家に入るための扉があるという、お嬢様の家特有の玄関になっている。
本当、出だしから身分の差がわかってしまうって、金持ちは末恐ろしい。
『どちら様ですか?』
華宮さんがインターホンを鳴らした後、聞こえてきた声は、渋くて、おそらく五十台くらいのおじさんのような声であった。
「宗十郎さま。例の男を連れてまいりました」
『そうか。わかったよ』
インターホンから聞こえるおじさんはそう言ってインターホンを切ると、目の前にある黒く、柵上の大きな扉が開かれる。
そして、俺と華宮さんは奥に進み、今度は家の扉を開け、中に入った。
*******
「やあ、よく来たね。陰山くん」
俺と華宮さんは家の中へ入ると、白髪の生えた、少しダンディなおじさんにそう言われ、出迎えられる。
「あ、いや・・・って、何で俺の名前を?」
「ああ、そうだったね。まあとりあえず僕の部屋に来てくれるかい?君に話があるんだ」
俺は笑顔で話すそのおじさんに対して、首を傾げるしかなかった。
*******
俺はおじさんに連れられ、おそらく、このおじさんの書斎であろう部屋に入った。
部屋の真ん中には高級そうなソファが二つあり、ガラスの机を挟んで、向き合うように並べられている。
ってか、華宮さんがいつの間にか消えているんだが。
「陰山くん。そこに座って」
「あ、はい」
俺は言われるがまま、部屋の真ん中にあるソファに座る。
そして、俺が座った後、おじさんはコーヒーを入れたカップを持ちながら、俺の方へ近付き、俺の目の前にコーヒーを一つ置く。
「はい、これ」
「ありがとうございます」
俺がそう礼を言うと、おじさんは「いえいえ」と言って、俺のと逆側のソファに座った。
「で、あの、俺に話というのは?」
「ああ、そうだったね。話というのは僕の娘についての話だよ」
「あなたの娘?」
「そう僕の娘、桜空 咲についての話さ」
ほうほう。この人の娘、桜空 咲の話か。
ほうほう・・・・・・は?
「あの、俺の聞き間違いだったら申し訳ないんですが、あなたの娘が桜空だとしたら、あなたは桜空のお父さんということですか?」
「うん。そうだよ。僕が咲の父親さ」
ほうほう。この人が桜空の父親ね。
ということは、つまり・・・・・
「学園の理事長ですか?」
「そうだよ」
俺の言葉に桜空の父親はそう答えた。
はは、マジかよ。
・・・・・・シャレになってないな。
******
「あの、それで桜空の話というのは?」
俺が聞くと、桜空の父親、いや、理事長は真剣な表情で俺に言った。
「華宮からは大体の事情は聞いているだろう?」
「はい、まあ」
「それで君は咲のことを助けてくれると言ったらしいね」
「・・・はい」
え、何で理事長が知っているんだ?
それ言ってから一時間しか経過していないんだが。
「それはありがたい。なら君に話しておかないといけないことがある」
理事長はそう言ってから、コーヒーを一口飲むと、再び話し始める。
「咲のお母さん。つまり僕の妻、有紀はね。自分の子供にはすごく厳しくする人なんだ」
「厳しく?」
「そう。それもこれも有紀は自分が一から作り上げた会社を血のにじむような努力で、今のような大企業にしたんだよ。だから、咲には何が何でも自分の会社を継がせたいようで、その気持ちが厳しさにつながってしまっているんだ」
「あの、厳しいとはどのくらいですか?」
「そうだね。例えば、友達を一切作らせないとかね」
「え?」
俺はその質問は何となくしたものだ。
だが、理事長の言葉を聞いた瞬間、俺は背筋が凍った。
と、同時に激しい怒りが身体の奥から湧き上がってくるのが感じた。
そうか。
俺は勘違いをしていたのか。
俺はてっきり桜空は友達が作りたくても、その高貴な雰囲気や身分の差から、近寄りがたいが故に、友達が作りたくても出来ないものだと思っていた。
だが、事実は違った。
桜空は母親に止められていたのだ。
友達を作ってはならないと。
「理事長」
「?なんだい?」
「お話はそれで終わりでしょうか?」
「いや、まだたくさんあるんだけど、今の君の目を見たら話さなくてもよさそうだ」
俺はおそらく人生で一番の怒りというものを感じでいる。
確かに、会社を一から立ち上げ、大企業にして、有名にすることはすごいことなのかもしれない。
だが、その前に桜空の母親は誰よりも桜空のことを考えていなければならないのではないだろうか。
それがもしもわからないようだったら、それは親失格なのではないだろうか。
俺がそんなことを思っていると、理事長は俺に向かって最後に一言、こう言った。。
「陰山くん。咲を助けてやってくれ」
「・・・・はい」
******
俺は桜空家を出ると、華宮さんが『送っていきます』というので、行きで乗ったリムジンに乗って、自宅に帰ろうとしていた。
「あれ?そういえば、桜空家には執事がいるはずなんですけど」
「執事?桜空家には執事はおりませんよ。メイドも私だけですし」
「?そうなんですか?でも、桜空はいるって言ってましたよ。確か、桜空は『じーじ』って呼んでるって」
「あぁ、それ私です」
「・・・・は?じゃあ、男子生徒の記憶消したのも?」
「私です」
「じゃあ、桜空が俺に見せたあのおじさんの写真は?」
「私です。変装です」
・・・・・・・えーーー。




