専属メイド
俺は今、大変よくわからない状況下に置かれている。
というのも、さっき校門で全く面識のないメイドに頼みがあるなどと言われて、無理矢理連れ去られ、つい先日、如月先輩と来た喫茶店でその頼みとやらを聞くことになったのだ。
言っておくが、無理矢理ということは、物理的な方法で無理矢理連れ去られたと言うことで、つまり、俺の体はもうボロボロです。
「で?俺をこんなボコボコにしてまで俺に何を頼みたいんですか?というか、あなた誰ですか?」
俺は少し苛つきながらメイドに尋ねる。
「はい。私は咲様の専属メイドで華宮 涼夏と申します」
「へぇー、専属メイドねー・・・・・・は!?」
今のは聞き間違いだろうか。この人が専属メイドで、しかも、この人が付いている人は、
「あ、あの華宮さん?」
「何でしょうか?」
「その、もしかして、華宮さんがお付きになっている人って・・・桜空?」
俺が恐る恐る質問すると、華宮さんは表情を何一つ変えずに答えた。
「はい、そうです。私は陰山 悠人さまのご友人である桜空 咲様の専属メイドです」
・・・・・何だろうか?
この時、俺は改めて桜空に対して壁を感じた。
金銭面で。
*********
「で、話を戻しますけど、その専属メイドさんが俺に何の頼みがあるんですか?」
俺は先ほど注文しておいたアイスコーヒーを一口飲んだ後、華宮さんに尋ねる。
「はい。頼みというのはですね・・・・・咲様を助けて頂きたいのです」
今まで無表情だった華宮さんはこの言葉を言う時だけは、不安そうな顔がもろに出ていた。
どうやら今の華宮さんの言葉から察するに、桜空は何かの問題に巻き込まれているらしい。
まあ桜空が何日も学校を休んでいる時点で大体予想はついていたが。
「桜空に何があったんですか?」
「実は、咲様は学校の一学期が終わり次第、この学校を退学します」
「・・・・・!?」
確かに、俺は桜空が結構な重い問題を抱えているとは思ってはいたが、さすがにこの華宮さんの言葉には背筋が凍った。
桜空が・・・・・・退学。
「・・・・どういうことですか?」
俺は震えた声で華宮さんに尋ねる。
「先日、咲様のお母様である美紀様が帰国してきました」
「桜空の母親が?」
「はい。そして、美紀様は今学期が終わり次第、退学をするように咲様に言いました」
「・・・・どうしてですか?」
「それは咲様に婚約をさせるためです」
俺は華宮さんの言っていることが理解出来なかった。
婚約?冗談だろ。
まだ俺たち高校一年生だぞ。
そもそも、なぜ桜空が婚約をしなければならない。
俺の頭が混乱をしている最中、華宮さんは話を続ける。
「美紀様は海外にある『桜空グループ』という企業の社長を務めています。そして、美紀様は咲様をその後継者にしようと考えています」
華宮さんの言葉に、俺はハッと我に返る。
「ということは・・・・つまり婚約というのも、その『桜空グループ』関係ですか?」
「はい。美紀様は同じ日本人が経営している海外の企業『Flower』と合併をしようとしています。実際は、合併というより『桜空グループ』が『Flower』を吸収する形になりますが。そして、その『Flower』と合併するための条件が、現『Flower』の社長の後継者であり、息子であるかたと咲様が婚約をすることです」
「・・・・・なんだよそれ」
それじゃあ桜空がまるで、自分の親にいいように使われているみたいじゃないか。
合併のための婚約?
桜空の母親は何を考えているんだ。
それで桜空が喜ぶとでも思っているのだろうか。
俺はそんなことを思っている内にだんだんと心の中にある、何かが湧きあがってくる。
そして、
「・・・・俺、やります。華宮さんの依頼、受けます」
すると、俺の言葉に華宮さんは座りながらも、上半身だけで申し訳なさそうにお辞儀をする。
「ありがとうございます」
「で、俺は何をすればいいんですか?」
俺が尋ねると、華宮さんはゆっくりと立ち上がって、
「では、私と一緒に来て頂きたい場所があります」




