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部活対抗マラソンが開始した直後、俺は如月先輩がいる一位集団にいた。

その集団には俺と如月先輩と他に柔道部の奴が一人と、陸上部の奴が一人いる。

集団は如月先輩がペースメーカー的な立ち位置で先頭を率いていた。

ちなみに俺は集団の一番後ろだ。

この部活対抗マラソンのコースはマラソンと言っても、町内にある商店街の方から河川敷まで行き、そこから近くの小学校を通って学校までUターンしてくるという約10㎞ほどのコースである。

俺はちらっと後ろを向くと、早苗は第二生徒会と生徒会の中での三位の順位に、木の葉もちゃんと五位の位置にいた。

桜空は・・・・もう見えないな。たぶんダントツの最下位だろう。・・・・ごめんな、桜空。


「・・・・暑いな」


俺は目の前にいる陸上部の奴にぴったりくっついて走りながら呟く。

今日は確か天気予報で真夏日になるって言ってたな。

ったく、こんな日に限って厄介な天気だ。

やはりこの暑さのせいとまだ序盤ということもあってか、先頭の如月先輩のペースがなかなか上がらない。

まあいきなり俺がついていけなかったらシャレにならねぇから別にいいんだけど。

でもおそらく、中盤から後半に差し掛かるあたりで如月先輩はペースを上げるだろう。

そして、俺は何としてもその時に如月先輩についていき、二人きりになったとき説得をする。

つまり勝負は後半だ。



*****



悠人と如月先輩が一位集団で走っている頃、あたしは桃野先輩の少し前を走っていた。


「まさか早苗ちゃんと二人だけで走ることになるなんてね」


桃野先輩が後ろからあたしに話しかけてくる。

・・・・・あれ?あたしこの人と話したことあったっけ?

でも、なかったらこんなふうに話してこないし・・・・・よし一応乗っておこう。


「そうですね。あたしも前みたいに集団になるのかと思ってました。というか、桃野

先輩も運動できるんですね」


あたしは前を向いて走ったまま言った。


「まあね。これでも私副会長ですから」


いや、そこは関係ないと思います。


「じゃあ、如月先輩があんなに速いのも生徒会長だからとかですか?」


あたしが後ろを向いて冗談っぽく言うと、桃野先輩は不思議そうな表情であたしを見てくる。


「知らないの?早苗ちゃん」

「?何がですか?」

「れいちゃんは中学の時陸上部で、県大会出てるんだよ」

「・・・・・え?」


桃野先輩の言葉を聞くとあたしはかなり動揺していた。

ちょ、ちょっと待って。ってことは・・・・・・・悠人ホントにあんた大丈夫なんでしょうね。

あたしはあんたがいなくなるなんて・・・・いなくなるなんて・・・・。


「そういえば早苗ちゃん」


あたしの頭の中が混乱している最中、桃野先輩があたしの名前を呼び、そして言った。


「早苗ちゃんって意外と馴れ馴れしんだね」

「先輩に言われたくありません!」


あたしは頭の中にあるモヤモヤを全部吹っ飛ばすように桃野先輩に言った。

すると、桃野先輩はいきなり笑い出し、


「ハハハ、そうだね。私も悪いね。でも私言われたんだ陰山くんに」

「・・・悠人に?」

「そう。陰山くんにれいちゃんの暴走を止めるためにわざと負けることはするなって。絶対全力で走れって。だからね」


桃野先輩はさっきとは別人のように、真剣な表情であたしに言った。


「負けないよ。絶対に」


そうか。あたしがそれだけ悠人を心配してもどうしようもない。

だからあたしのやるべきことは決まってる。

早苗は何かを決心したように桃野先輩に向かって言う。


「あたしも、絶対に負けません!」





******



私は今非常に困っている。

なぜなら、


「ちょっとー待ってくれー」


新藤とかいう人がすごく遅い。

あと、待ってくれはおかしいと思う。

と思いつつも私は新藤の姿を見ながら第二生徒会と生徒会のメンバーの中で順位を五位になるように調節しないといけないので、少しスピードを緩める。

すると、よろめきながらもやっと私に追いついてきた。


「き、きみ速くない?ホントに女子?」


何故だろう?今すごく腹が立つようなことを言われた気がする。

男のくせになぜこんなに体力がないのか。

私たちよりも後方にいる桜空とあのメガネツインテールは、どう見ても運動ができそうではないので仕方がないと思うが。

でも、桜空の運動音痴はもはや魅力の一つではあるのではないかと思う。

・・・・・・悠人もそういう人がいいのかなぁ。

私がそんなことを考えていると、新藤がまた遅れているようだ。

私は再度、ペースを落とすと新藤はまた私に追いつく。

すると、新藤は体力が限界ながらもとんでもないことを言い始めた。


「あのさ、君俺が遅れるたびにペース落としてるよね。もしかして・・・・・俺のこと好きなの?」


バコォォォォォン!


なぜかとてつもない音が聞こえた後、新藤は腹を押さえながら壁にもたれかかっていた。

おそらく私が新藤とコミュニケーションをとったのは、これが最初で最後だろう。





*******



俺たち一位集団は河川敷を走っていた。

そして、マラソンが中盤に差し掛かった瞬間、ついに如月先輩が仕掛ける。

如月先輩はバテバテの柔道部員と陸上部員を置いていくように、一気にペースを上げた。

俺は何とかそれについていき、如月先輩の横に並ぶ。


「ほう、これについてくるか」


如月先輩は余裕そうな表情で俺に言ってくる。

まじか。確かに、中学の陸上部でいいところまでいったのは桃野先輩から聞いてたけど、男子と女子だぜ。

俺が考えるに体力は五分五分だと思っていたんだが、そうでもなかったようだ。


「どうした?もうギブアップか?」


俺の様子を見て、如月先輩は挑発をしてくる。


「・・・いやいや・・・まだまだですよ」


俺は軽く笑みを浮かべながら答える。


「そうか、ならもう少しペースを上げよう」


如月先輩はそう言った後、更にペースを上げる。

俺も体力が尽きかけながらも、そのペースに何とかついていく。


「なっ!?」


如月先輩も俺がついてくるとは思わなかったようで、驚いた表情を俺に向けた。


「どう・・・ですか。すごいでしょ」


俺はバテバテながらそう言った後、畳みかけるように如月先輩に話しかける。


「・・・・如月・・・先輩」

「なんだ?」

「先輩は・・・・もしかして、一人で・・・・何でもできると・・・・思ってるんですか?」


俺は息を切らせながら尋ねる。


「お前は何を言っている?できる、できないではない。私はやらなければならないのだ」

「お父さんの会社を守るためにですか?」

「そうだ」

「・・・・へぇー」


俺は何か含んだような言い方で如月先輩に言う。


「なんだ?何か言いたそうだな」

「・・・いや・・・まあ」


俺が曖昧な返事をすると、如月先輩は眉間にしわを寄せながら、


「なんだ。言え」

「・・・じゃあ」


俺はそう応えたあと、これだけは如月先輩に聞こえるように言った。


「如月先輩、それじゃあ何も守れないですよ」


俺がそう言うと、如月先輩は動揺した様子で俺を見る。

そしてそんな如月先輩を見た後、俺は続けて話す。


「如月先輩のお父さんも、そのお父さんの会社も、如月先輩自身も守れないです。・・・・・しかも如月先輩は守るどころか、大切なものを壊そうとしています」

「何だと!?私が守れない?大切なものを壊すだと?何をお前は訳の分からないことを言っている?」


如月先輩は俺の言葉が効いたのか、憤怒しながらも段々ペースが遅くなっていく。


「何もわけわからないことじゃありませんよ。まあ俺が言いたいことはつまり、先輩はこのままだとすべて失ってしまうということです」

「失う?なんだそれは、お前は一体」


「まだわかんねーのかよ!!」


俺は走っていた足を止め、大声で叫ぶ。

すると、如月先輩も俺の数歩先で足を止めた。


「あんたは言った。一人で何事もやらなければならないと。まあ確かに、そういうことも時には大事かもしれない。だけどな、それと引き換えに大切なもん捨ててどうすんだよ!」


俺はなにかがこみ上げてくるような、そんな気持ちになりながら如月先輩に言った。


「だから、その大切なものっていうのは」


「あんたの仲間の・・・・・生徒会の奴らに決まってんだろ!」


「・・・・!?」


如月先輩は俺の言葉を聞くと、何かに気づいた表情をしたあと、苦しそうな表情に変わる。


「如月先輩、あなたはわかっていますか?桃野先輩がどれだけ心配していたか。本当にわかっていますか?桃野先輩がどれだけあなたを大切に思っているのか」


俺の言葉に如月先輩は顔を俯け、唇をかみしめる。


「桃野先輩だけじゃない。他の人達だって、如月先輩のことを心配してるんですよ。なのにどうしてそれがわからないんですか。どうして自分から大切なものを壊そうとするんですか?」


俺が真剣な表情で如月先輩を真っ直ぐ見ると、如月先輩はまだ顔を俯かせ黙り込む。

そしてしばらくの沈黙が流れると、俺が口を開く。


「如月先輩、これだけは言っておきます」


俺がそう言って、如月先輩が顔を上げたのを見たあと、俺は言った。


「如月先輩、もっと人を、仲間を、親友を頼ってください。だってあなたは、一人で生きられるほど器用な人ではないんですから」


そう。この人は一人で生きられない。

だってもう誰かから大切にされていて、大事に思われているのだから。

そんな人が一人で生きられるほど、この世の中は甘くないのだ。

だからこの人に残っている選択肢は一つ。

それは、仲間と親友とともに過ごしていくこと。

たぶんそれが如月先輩に残された選択肢であり、一番幸せになる選択肢なんだと俺は思う。


俺の言葉を聞いた瞬間、如月先輩は優しい表情で涙を流しながら、


「・・・・そうか。・・・・・私は」


バタンッ!


如月先輩は何かを言おうとした時、突然倒れこんだ。


「如月先輩!?」


俺は如月先輩に急いで近づくと、なぜか如月先輩の頬が異常に赤いので、俺は先輩のおでこに手を当てる。


「・・・うわ。すごい熱だ」


でもどうする?救急車を呼ぼうにも俺は今携帯持ってないし。周りに人気もない。あー、クソッ!

どうして俺はこんな時に役立たずなんだ。クソッ!クソッ!


「・・・・陰山」

「如月先輩!大丈夫ですか?」

「あ、あぁ・・・・大丈夫だ。・・・だからお前は先に行け」

「何言ってるんですか。そんなことできませんよ」

「いいんだ、お前は先に行って。・・・・なぜならな、私は携帯を持っている。・・・・それで救急車を呼ぶ。だから・・・行っていい」


如月先輩は弱々しい声で俺に言う。


「・・・・でも」

「お前は私に言っただろ。仲間を大切にしろと。それならお前はこの勝負に勝たなくちゃいけないんだ。だから・・・行っていい」


如月先輩は苦しそうな声で、それでも俺に聞こえるように言ってくれた。


「・・・・・わかりました」


如月先輩の言葉を聞くと、俺は立ち上がる。


「如月先輩・・・・・すいません」


俺はそう言って、如月先輩の元を去って行った。


「・・・・・謝らなければいけないのは、こっちのほうなのにな・・・・・陰山、実は携帯など持っていないんだ。・・・・全部嘘なんだ・・・・・まずいな・・・・・・意識がそろそろ・・・・・・・」







*******



・・・・れいちゃん。


・・・・れいちゃん。



「れいちゃん!」

「・・・・・はっ!」


私は目が覚めるとなぜか病室にいた。・・・・・そういえば誰かに呼ばれていたような。


「れいちゃん!」


私はやはり誰かに名前を呼ばれていたようで、その声のほうに振り向くと、そこにはなぜか目に涙を溜めているリュミがいた。


「どうした?そんなに涙を流して」

「だって、れいちゃんが病院に運ばれたって聞いたから心配で・・・」


リュミはグスングスンと涙を流しながら言う。


「そうか。・・・・ありがとうリュミ」


私は笑顔で言うと、リュミは恥ずかしかったのか頬を赤らめる。


「そういえば、誰が救急車を呼んでくれたんだ?」


私が尋ねると、リュミは首を傾けながら、


「そういえば、誰がれいちゃんを助けてくれたんだろう?」

「なんだ?リュミも知らないのか」


リュミは私の言葉にこくりと頷く。


「・・・そうか。・・・・そうだ、マラソンの方はどうなった?」


まあ結果は決まっているがな。一応聞いておこう。


「あ、あぁそれね。それはもちろん私たちが勝ったよ」

「そうか私たちが勝ったか・・・・・え?」


今リュミは何と言っただろうか?私たちが、生徒会が勝った?


「それは・・・本当か?」

「・・・・うん、本当だよ」


私はリュミの言葉を聞いて動揺を隠せない。

どうしてだ?あの時確かに陰山は・・・・


「陰山は、陰山はどうしたんだ?あいつは一位だったか?」


リュミは私の質問に冷静に答える。


「陰山くんは途中でけがをして走れなくなったの。そして私が一位になって、新藤も利美も頑張って勝ったんだよ」

「・・・・けが」


私は力のない声で呟く。


「そ、そういえば、もう少しで新藤たちから差し入れが届くから」


ガラガラガラ


病室の扉が急に開き、入ってきたのは新藤と園田だ。


「かいちょー!目が覚めたんですね!ホント心配したんですよー!もうあの会長が倒れるなんてびっくりですよー」


新藤はいつもの調子で話しかけてくるが、どうやら心配をしてくれていたようだ。


「これ、どうぞ」


園田が差し入れの果物を私に渡してくる。


「おぉ。ありがとう」

「いえ、別にこれくらい」


園田はそう言って、恥ずかしかったのか顔を背ける。

私がこんなことを思うのは失礼かもしれないが、果物は切って欲しかったな。


ガラガラガラ


「如月さん。点滴の時間ですよ」


再び病室の扉が開くと、入ってきたのは看護師のようだ。


「あ、じゃあ私たちはこれで。れいちゃんまた明日ね」

「かいちょー、失礼します」

「失礼します」


リュミたちは私にそう言うと、病室を出て行った。

そして、看護師が点滴の準備を始める。


「そういえば、あれって彼氏さん?」


看護師が笑みを浮かべながら、私に尋ねる。

・・・彼氏?それは新藤のことだろうか?


「いや、死んでも違います」

「へーそうなの?でもかっこよかったよ。全身ボロボロで、あなたを担いで運んできたときは何事かと思ったけど」


何を言ってるんだこの看護師は・・・・全身ボロボロで、私を運ぶ?・・・・・!?


「看護師さん。私を運んできた人の名前って」

「名前?そうねぇ、たしか・・・・」


私は看護師の言葉を聞いた瞬間、私の何かが変わった気がした。



******



もうとっくに部活対抗マラソンは終わり、夕日が綺麗に輝いている。

俺は如月先輩が入院している病院に入って病室に向かっていた。


ったく、なんで早苗のやつマラソンほっぽり出して病院来ちゃうかな。

どんだけ如月先輩のこと心配だったんだよ。

俺が怒っても、


―『あんたを、ホントはあんたを・・・・って変なこと言わせないでよ!』―


なんだあの反応。意味が分からん。

木の葉も木の葉で桜空と一緒に病院来ちゃうし、最終的に部活対抗マラソンに第二生徒会が誰も走ってないって。ほんとなにこれ。


ガラガラガラ


俺は如月先輩がいる病室に入ると、ベットの上に身体を起こしていた。


「どうですか調子は?」


俺はいきなり如月先輩に尋ねる。


「・・・・・お前か」

「?何がです?」


俺は何となく如月先輩が言おうとしていることをわかりつつも、白々しく聞き返す。


「お前か。私を病院まで運んだのは」


俺はその言葉を聞くと、一つ「はぁ」とため息をつく。


「・・・誰が言ったんですか?」

「はは、別に誰も言ってないさ。私の担当の看護師が、ボロボロになって私を運んでくれた男子学生の話をしてくれただけで」


その話を聞くと、俺はまた一つ「はぁ」とため息をつく。


「なんか勝手なことしちゃいましたよね。・・・ほんと・・・なんか・・・すいません」


俺はぎこちない様子で謝ると、如月先輩は不思議そうな表情になる。


「なぜ謝る?」

「いや・・・だって、如月先輩の言うこと守らなかったわけですし」

「バカだな。私は別に怒っていない。敷いて君に言うことがあるのなら、それは」


如月先輩は今まで決して見せなかったとても美しく綺麗な笑顔で、


「ありがとう」


俺はそんな如月先輩に思わず見とれてしまう。


「そ、そんなじっくり見るな。恥ずかしいではないか」


如月先輩は頬を紅く染めつつ言う。


「え、いや・・・・すみません」


あれ?なんだこれは。如月先輩ってこんなに可愛かったっけ?

おかしい。なにかおかしいぞ。

俺は色々と静めるため、差し入れのクッキーをバックから出す。


「熱のときにクッキーは食べづらいですかね?」

「いや、もう十分下がってるから気にしなくて大丈夫だ。・・・別に熱があっても食べたけどな」

「そ、そうですか」


おい。どうした俺。なにドキドキしてんだ。

相手は先輩だぞ。生徒会長だぞ。静まれ、静まれぇー。


「じゃ、じゃあ俺はこれで帰りますね」


俺は色々と静まりそうにないので、そう言って帰ろうとすると、


「え・・・そうか。・・・・そうだ」


俺は如月先輩の声に反応して振り返る。


「勝負はお前らの負けだったな」

「・・・・まあ、はい」


俺は沈んで答えると、如月先輩はどこか緊張した様子で、


「そ、それでは、生徒会の出す条件を変更する」

「はい・・・・・・はい?」


え?なになに。今、条件の変更って言ったか?それって・・・


「それは、陰山。お前は生徒会を月に一回、必ず手伝いに来ることだ」

「え・・・・あ、はい」


俺は訳が分からず返事すると、如月先輩は「やった」と小さくガッツポーズしている。

あれ?今何が起こった?

なんか俺はとんでもないことを了承してしまったような・・・・まあいいか。


「じゃあ俺は帰りますから。如月先輩、顔が赤いですよ。まだ熱があるんじゃないんですか?熱が上がったら大変ですからしっかり休んでくださいね。それじゃあ」


俺はそう言って、病室をあとにした。


「・・・陰山」



「・・・・これは、熱ではないよ」




*****



結局、生徒会長の如月先輩の件は無事終わることができた。

ちなみに、如月先輩がお父さんのことや、そのお父さんの会社のことを誤解していた件は、部活対抗マラソンを終えた後日、第二生徒会が如月家にお邪魔して如月先輩のお父さんとともに事情を説明した。

まあその時の如月先輩がどういう反応を見せたかは言うまでもないだろう。


そして、無事今日も俺は平和な学生生活を、


「あーもう一回!」

「何度やっても同じ」


送れなかった。

早苗と木の葉がまたいつかのようにオセロ勝負をやっている。

ってか、そろそろ早苗はオセロで人に勝つことを諦めた方がいいと思うのは俺だけだろうか。


「早苗。お前はもうちょっと静かにできねぇのかよ」

「うるさいわね。悠人はいちいち気にし過ぎなのよ」

「いやいや、お前が、がさつ過ぎるだけだろ」


バッコン!


早苗は俺にいつも通り腹パンを入れてくる。


「いてーよ。いきなりなにすんだ?」

「うるさいわね。デリカシーがないからよ」


なんだそれは。お前が一番似合わない言葉じゃねーか。

俺はそんなことを思いつつ何かに気づく。

あれ?・・・・・・・そういえば


「桜空はどうした?」


俺が尋ねると、木の葉が答える。


「桜空、いない」

「そういえば、そうね。でも掃除とかやっていたら、あとから来るんじゃない?」

「まあ・・・・それはそうだが」


俺は何か引っかかったような感覚になりながらも、自分の席に座り読書をする。




結局、その日は桜空が来ないまま解散になった。

そして、



その週に、桜空が部活に出ることはなかった。


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