救ってみせる
第二生徒会が生徒会に部活対抗マラソン対決を申し込んでから一週後、ついに体育祭の日を迎えた。
その日の天候は清々しいほどの快晴で、まさに体育祭日和と言った感じだ。
そんな中体育祭は順調に種目を消化していき、最終種目である部活対抗マラソンを迎える。
あ、ちなみになんでこんなに体育祭の説明が雑かというと、俺がクラスで目立たな過ぎて、なんの種目にも入れられなかったわけじゃないんだからね。
ちょっと、モブキャラを意識し過ぎただけだからね。勘違いしないでよね!・・・・・・・よし、マラソン頑張ろう。
「っし!」
真っ白な体操服の俺は気合を入れるために靴紐を結び直す。
「何が、っし!よ」
俺は後ろからバカにしたような声が聞こえたので顔を上げると、そこには声とは裏腹に心配そうにしている早苗がいた。
「ホントに勝てるわよね?」
「なんだよ。そんなに俺が信じられないか?」
俺は早苗を安心させるためにかっこつけた余裕の笑顔を見せる。
「いや、そんなことは・・・・ないけど」
早苗はそう言いつつも、目を背ける。
「・・・・ったく」
俺はもう片方の靴ひもを結び直し終えると、立ち上がった。
「大丈夫だよ。言っただろ。俺は友達を置いてっちゃうようなことはしないって。それより、この前言ったことちゃんと覚えてるか?」
俺は早苗の耳元で小さい声で尋ねる。
すると、早苗はなぜかびっくりしたように俺から距離を取った。
・・・ってか、なんで顔赤くなってんだ?それじゃあまるで俺が変態みたいじゃないか。
「ちょ・・・・な、なにすんのよ。この変態!」
どうやらそうらしいです。
「あーはいはい。わかった、わかった。それよりちゃんと覚えてんのかって?」
「え?あ、あぁ。この前の作戦とか言ってた話?それこそ大丈夫よ。ちゃんとわかってるわよ」
早苗は頬をぷくっと膨らませながら俺に言ってきた。
またこの表情が意外と可愛い。と一瞬思ってしまった俺は負けだろうか。
まあこんなことを思っているとは早苗には死んでもばれたくないのでさっきの早苗と同様、早苗から顔を背ける。
「そ、そうか。ならいいんだ」
俺はそう言いつつ、生徒会に部活対抗マラソン対決を申し込んだ後に行った、作戦会議のことを思いだす。―――――――――――――――――――――――――
俺たち第二生徒会は生徒会に部活対抗マラソンに勝つために作戦を立てようとしていたんだが・・・・・・。
「はっきり言おう。正直言って俺たちはほぼ確実に生徒会に勝てる」
俺は自信ありげに高々と言ってのけた。
一方、他の第二生徒会のメンバーたちは俺の発言に?マークを一人三つずつ乗っけてしまっている状態である。
「悠人。それってどういうこと?」
木の葉が顎に手を当て、首を傾げながら俺に聞いてきた。ってか、それ可愛いな。それはわざとですか?天然ですか?
もし、前者なら陰山兄さんはそんな木の葉に育てた覚えはありませんよ。
「何であたしたちが絶対勝てるのよ?」
俺が木の葉にお兄ちゃん心を働かせていると、俺の前に座っている早苗が俺に尋ねる。
「へへ、それはな、部活対抗マラソンのルールと、この第二生徒会のメンバーに秘密があるんだよ」
俺は胸を張って答える。が、まだ早苗たちは?マークを浮かべている。
「あの・・・陰山さん」
「?どうした桜空?」
「その部活対抗マラソンのルールと第二生徒会のメンバーの秘密というものを何なのでしょうか?」
桜空が俺に尋ねてくると、俺は「しょうがねぇなぁ」と「どうしてもと言うなら教えてやろう」的に言う。
すると、早苗は呆れた表情をし、あの木の葉さえも苦笑をしていた。
な、なんだよ。ちょっとくらい調子乗ったっていいじゃないか。
俺だってたまにはこういうことをしたくなるんだよ。と反論したくも、陰山さんは早苗の拳が恐いので言えません。
「まず、部活対抗マラソンのルールの方だが」
まずこのマラソンは生徒会、第二生徒会のメンバー四人ずつで行うチーム戦。
そして、一位を8点として、そこから二位は7点、三位は6点と言った感じで点数をつける。
最終的に自分たちのメンバー全員の合計点数が高かった方が勝ちという、それが部活対抗マラソンのルールである。
同点の場合は生徒会の勝ちになってしまうが、それを言うと反乱が起きそうなのでやめておこう。
ちなみにこのルールは生徒会の方にも桃野先輩を通じて了解を得ている。
というか、桃野先輩しか了解をもらってないんだがな。
「というわけだ。わかったか?」
「確かに、部活対抗マラソンのルールはわかったけど、だから、それがどうしてあたしたちが絶対勝てることになるのよ?」
「それは二つ目の第二生徒会のメンバーの秘密の方にある」
「第二生徒会メンバ―の秘密ですか?」
桜空が俺に尋ねると、俺はこくりと頷く。
「まあ、絶対勝てるのかというと、俺たち第二生徒会はな」
俺はここでわざと間を開ける。
まあなぜかというと、今後の展開を考えたらちょっとした気合を入れなければならないからだ。
そして、少しの沈黙のあと、俺は再度口を開く。
「身体能力がバカ高い奴が多いからだ!」
俺がはっきりとそう言うと、早苗たちは俺の言葉の意味が分からないのか一斉に首を傾ける。
って、なんでだよ。ピンと来るやつが二人いないとおかしいんだが。
俺は一つ「はぁ」とため息をしてから言った。
「あのな、ここに身体能力が動物並のやつ一人と、すごく可愛いけど身体能力もすごく高い奴が一人いるだろ?」
「?それって誰のことよ?」
「お前だよ。お前!」
俺は驚きの声でそう言うと、早苗が急に黙り込む。
「悠人。じゃあ、あと一人は?」
木の葉がツンツンと俺を指でつつき尋ねる。
「あぁ。あと一人は木の葉だけど、木の葉はすごく可愛い方だから全然大丈夫だぞ!」
俺がそう言って、木の葉の頭を撫でると、木の葉はほんのり顔を赤らめている。
「・・・・悠人」
俺がそんな木の葉を見て和んでいると、早苗が殺気立ちながら俺を睨んでいた。
「木の葉さんが可愛い方ってことは、あたしが身体能力動物並の方ってことよね?」
やばい。やばいやばいやばいやばい。
「い、いやー。どうしたんだよ早苗。ちょっとした褒め言葉じゃないか。はは、ははは・・・」
俺がひきつった笑みを浮かべると、早苗が拳を力いっぱいのグーにして、
「そんなわけないでしょうがーーー!」
バコォォォォォン!
俺は思いっきり腹にパンチを食らった後、床に倒れ込む。
陰山さんはこの時思いました。
幼なじみを舐めてはいけないと。
*******
俺は早苗に殴られたあと、しばらく床を転げまわってから復活すると、気を取り直して話を再開する。
「そういうわけで俺たちは絶対勝ってしまうんだが、お前たちにはやってもらいたいことがあるんだ」
「?やってもらいたいことですか?」
「そうだ。まあやってもらいたいことがあるのは早苗と木の葉だけなんだけどな」
俺の言葉を聞いて、早苗は「えー」と嫌そうな反応をし、木の葉は「頑張る」と小さく呟く。
なぜこんなやる気の差があるんだ?おい早苗、少しは木の葉を見習え。
というのは言わずに、
「今からその内容を説明する。それはな、木の葉は五位、早苗には三位に入って欲しいんだ」
早苗たちは俺の言葉に首を傾げる。
「?それってどういうことよ?」
「そのままの意味だよ。早苗は三位、木の葉が五位に入ってくれればいいんだ」
「・・・悠人。それで本当に勝てるの?」
木の葉が何かを察したのか俺に心配そうに尋ねる。
「それは・・・まあ・・・俺次第だな」
俺は平然とした表情で言った。
「陰山さん。それはどういうことですか?」
桜空が俺を真っ直ぐ見つめながら聞く。
「まあつまり、俺が生徒会長と一位争いをしながら説得をするってことだ」
確かにこの部活対抗マラソンで俺と木の葉と早苗で一位から四位の内、三つを取ったら確実に勝てるだろう。
おそらく、生徒会で対抗できるのは如月先輩ぐらいだしな。
だが、そんな方法で勝って、俺たちが第二生徒会を残すことができたとして如月先輩は、生徒会は救われないだろう。
だから、俺は決めた。
如月先輩一人では勝てないこのマラソンを行っている最中に、如月先輩をどうにか説得してみせると。
そして、俺が勝てば、第二生徒会も生徒会も如月先輩も全部救える。
これが俺の考えた唯一の方法だった。
桜空はまたあの時のように心配した表情で俺を見ている。
「だから、心配すんなって。言ったろ?負けねーって。」
俺がそう言うと、桜空は笑顔で、
「そうですね。・・・陰山さん。頑張ってください!」
俺はまたしてもいつかの時のように心臓の鼓動が跳ね上がる。
またか。またなのか。また俺はラブコメを体験して
バコン!(殴る音×2)
「だから、なにいい雰囲気になってんのよ」
「悠人、私以外といい雰囲気、ダメ」
やっぱりこうなるんですね。
あと、これ何気に桜空が最下位になるのが前提で話進めてしまっているんですよね。
桜空・・・・・すいません。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そろそろ部活対抗マラソンの準備が整ったようで、体育教師が片手にスターターピストルを持ち、それを空に向ける。
俺は絶対に第二生徒会を、生徒会を、如月先輩を救ってみせる。
如月先輩が生徒会とちゃんと繋がれるように、俺が桜空たちとずっと一緒にいるために。
パンッ!
絶対に救ってみせる。




