負けねーよ
昼休み、桃野先輩に生徒会室に呼び出された俺は、今ついに思いついてしまった。
暴走している如月先輩を助けられるかもしれない方法を。
「え、それって本当なの?陰山くん」
桃野先輩は驚いた様子で俺に尋ねる。
「はい、本当です。如月先輩の助ける方法を思いつきました。まあ、絶対という保証はないですけど・・・」
「それでもいいよ。もしよかったらそれ聞かせてくれる?」
「それはもちろんですが、一つ確認があります」
「なに?」
「もし如月先輩の暴走を止められたら、俺たちの部の廃部はなくなるんですよね」
「もちろん。生徒会にはそれだけの権力があるからね」
桃野先輩は自信満々に言ってみせる。
それならいい。
正直、俺の今思いついた方法が成功するかは如月先輩次第だ。
絶対と言う保証はないと桃野先輩には言ってしまったが、それどころかもはやこれは賭けに近い。
でも、廃部がなくなるというならこの方法をやる価値がある。
「あ、あと」
俺の声に桃野先輩が反応する。
「この方法を使うんだったら、桃野先輩の協力も必要ですし」
俺が笑みを浮かべながら言うと、桃野先輩は首をかしげて頭の上で?マークを作っていた。
******
桃野先輩に『如月先輩の暴走止めちゃうぞ♡作戦』を伝えたその日の放課後、俺たち第二生徒会は生徒会と話し合うために、桃野先輩に頼んで生徒会を部室に呼んでもらった。
「おい、陰山。こんな忙しい時に私たちを呼び出すなんていい度胸してるじゃないか」
如月先輩は相当イラついているようで、俺を睨みながら言った。
「それは謝ります。すいません」
俺は如月先輩に頭を下げる。
「そうだぞ。お前みたいな野獣野郎は家に帰って大人のDVDでも見てろ!」
新藤は俺に指を指しながら言った。
こいつは空気を読むということができないのだろうか。
ホント、こいつのせいで真面目な雰囲気が台無しである。
ってか、大人のDVDってなんだよ。例え方が子供すぎんだよ。
「謝るのはもういい。で用件はなんだ?くだらない用だったら今すぐにでも私たちは生徒会室に戻るぞ。仕事も山積みだからな。あと、新藤。次余計なこと言ったら、お前を会計から外すからな」
如月先輩の最後の言葉が効いたようで、さっきまでギャーギャうるさかった新藤が、急に黙り込んだ。
ってか、なに。こいつ生徒会から嫌われてんの?
「はい。生徒会の皆さんを呼び出した理由はただ一つ。それは第二生徒会の廃部をなくしてもらうことです」
如月先輩は俺の言葉を聞くと、フッとバカにしたように笑った。
「何を言ってるんだ。お前らの廃部は決まったことだ。それを今更変えるなど」
「・・・体育祭」
俺が如月先輩の言葉を遮るように言った。そして、俺は再度口を開く
「来週に体育祭がありますよね?」
「あ、あぁ。だが、それがどうした?」
「その体育祭の部活対抗マラソンで、俺たちが生徒会に勝ったら廃部を取り消してください」
俺は真剣な表情で、如月先輩の目を真っ直ぐ見ながら言った。
だが、如月先輩は冷静に俺に言い返す。
「意味が分からないな。まず廃部が決定している部の部員であるお前らが、そんなもの出られるわけがないだろう」
「それは許可を取りました。ついでに、生徒会が部活対抗マラソンに出る許可も」
俺がそう言うと、如月先輩は驚いた表情を見せたあと、ゆっくりと生徒会メンバーがいる後ろを振り返る。
「・・・リュミ、お前か」
如月先輩は桃野先輩を睨みつけると、桃野先輩は笑顔で答える。
「そうだよ」
「・・・はぁ、まあいい。だが、私たちがもしその部活対抗マラソンでお前らと勝負したとして、生徒会のメリットがどこにある?私たちにメリットがない以上、受ける必要はない」
「メリットならありますよ」
「?どこにあるというんだ」
「如月先輩」
俺は唐突に如月先輩の名前を言う。
「あなたは正直、俺のこと嫌いですよね」
俺が不敵な笑みを浮かべながら言うと、如月先輩も同じような笑みを浮かべ答える。
「よくわかってるじゃないか。だが、正確に言うと、こんな部活の部長であるお前が嫌いだ。こんなヒーローごっこの延長線上でしかない部活のな」
如月先輩はそう言って俺を睨む。
「そうですか・・・。先ほどの話ですが、もし生徒会がこの勝負に勝ったら、その時は・・・・」
俺は胸に手を当て、そして言った。
「俺がこの学校をやめるってのはどうですか?」
「・・・・な!?」
如月先輩は俺の言葉に動揺したのか、一瞬言葉を失う。
だが、すぐにいつもの調子に戻り、
「フッ、くだらない。そんなのメリットでも何でもないではないか。お前が嫌いなのは本当だが、お前がこの学校にいようといまいと私には興味のないことだ」
如月先輩はそう言ってから振り返り、「戻るぞ」と生徒会のメンバーに呼びかける。
「こんな勝負に乗れないのは、やっぱり赤字続きのダメ経営者の娘だからか」
俺はそんな如月先輩に生きてきた中で一番最低であろう言葉を言った。
「なん・・・だと」
如月先輩は俺の方を向き、物凄い形相で睨む。
「だってそうでしょ。こんな些細な勝負事にも乗れないなんて、やっぱり負け癖のついてる父親の娘だからじゃないんですか」
俺は如月先輩に聞こえるように、はっきりと言う。
「・・・・いいだろう」
如月先輩は呟く。
「そこまで言うならお前の勝負受けてやる。だが、私たちが勝ったときは陰山。わかってるよな」
如月先輩は怒りに満ちた声で俺に向かって言った。
「退学ですね。わかってますよ。・・・あ、あと」
「なんだ?」
「追加で、俺たちが勝負に勝ったら如月先輩は一人で生徒会の仕事をするのをやめてください」
俺がそう言うと、如月先輩は何かを察したかのように笑い、
「フッ、そういうことか。・・・・・いいだろう。だが、私はこの勝負に勝ってお前をこの学校から追放してやるがな」
如月先輩は俺に背を向け、生徒会のメンバーとともに部室から出て行った。
バッコォォォォォォォォォォン!!
「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
俺は何かで殴られた、いや、誰かに殴られた後頭部を両手で押さえ、倒れながらもがく。
「何すんだよ?」
「何すんだよじゃないわよ。あんたが話し終わるまで黙っとけって言うから、何も言わなかったけど、なにとんでもないこと約束してるのよ」
早苗は今にも泣きそうな目で俺に言う。
「悠人、退学はダメ。今から撤回してきて」
木の葉は心配そうな表情で俺に言う。
「いやいや、いまから撤回とか無理だから」
俺は冷静に答える。
ってか、あの人めっちゃ怒ってたし。もう不可能。
「陰山さん!!」
俺が苦笑していると、とてつもなく大きな声で俺の名前が呼ばれる。
それを言ったのは桜空だった。
「・・・・桜空?」
俺は桜空の方を見ると、なぜか桜空は泣いていた。
「どうして・・・・どうして勝手にそんなことを決めてしまうのですか!」
「ど、どうしてって・・・それは如月先輩を助けるためだろ」
俺が答えると、桜空は目に涙を溜めながら、俺を睨みつける。
「そのためなら・・・そのためなら、私たちと離れ離れになってもいいと言うんですか!」
「え、いや・・それは」
俺が言葉を濁していると、桜空はまだ俺を睨んでいる。
・・・・そうか。桜空は“友達”と会えなくなるのが嫌なんだ。
だから、俺の勝手な行動にこれだけ怒ってくれてるんだ。
それだけ大切な“友達”だと思ってくれているから。
俺はバカだ。こんなことにも気が付けないなんて。
でも、だからこそ、
「俺は自分の選択を間違ったとは思ってない」
俺の言葉に桜空たちは唖然とする。
「だってよ」
俺は素直に伝えよう、今思っていることを。
「この勝負に勝って、如月先輩を救って、いつも通り部活をするだけじゃねーか。それの何が悪い」
「で、でももし負けでもしたら」
桜空はまだ涙を流しながら言う。
「負けねーよ。俺はな、友達を置いてっちゃうようなことはしない。だから安心しろ」
「・・・陰山さん」
俺の言葉に安心したのか、桜空は不意に笑顔を見せる。
その笑顔はとても美しく、一瞬で俺の心臓の鼓動が速くなる。
何だこれは。
もしかしてこれが世に言うラブコメというやつなのか。そうなのか。そう
バコン!(殴る音×2)
「なにいい雰囲気になってんのよ」
「悠人、私以外といい雰囲気、ダメ」
やっぱり勘違いだったみたいです。




