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助ける方法

桜空を除いた第二生徒会一同は、いま如月先輩の家に来ているのだが、如月先輩の父親からとてつもない話を聞かされていた。

それは、如月先輩の父親は今年の春ごろにぎっくり腰で入院したにも関わらず、退院の際に如月先輩にドッキリを仕掛けるために重病であると嘘をついたのだ。

そう、つまり、


「もしかして俺が如月先輩から聞いていた父親が重病という話は」

「あぁ、そうだ。それは全部玲の勘違いだよ」

「・・・な、なな」


なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!


なんてことだ。勘違いだと。

じゃあその勘違いのせいで、如月先輩が生徒会で一人暴走しているというのか。


「・・・・はぁ」


俺は一つため息をつくと、全身から力が抜けたようにがっくりと肩を落とす。


「じゃあもしかして、会社が赤字続きというのも如月先輩の勘違いなんですか?」

「いや、あれは本当だよ」

「・・・え」


その言葉を聞いて俺が一瞬動揺していると、如月先輩の父親は慌てて先ほどの言葉に補足をする。


「あ、ああ。赤字といっても何年かに一度はあることなんだ。だから、そんな深刻な問題ではないよ」


如月先輩の父親はそう言ったあと、優しく笑う。

なんだよ。心配をして損したじゃねぇか。


「ねぇ、悠人」

「悠人」


早苗と木の葉が俺の名前を呼ぶ。


「?どうした?」

「これって一体どういうこと?」

「何を話しているか、さっぱり、わからない」


あぁ。早苗と木の葉は如月先輩が生徒会で暴走している理由を知らないから、今の状況を理解できないのか。


「わかったよ。今から説明するからよく聞けよ」



「ということだよ」


俺は先日、如月先輩と喫茶店で話したことを早苗たちに全て話し終えると、ソファの背もたれに寄りかかる。


「へぇー。あんた如月先輩と喫茶店行ってたのね」


早苗は俺をまるで変態を見るかのような目で睨みつける。


「いや、お前話聞いてた?どう考えても話の趣旨そこじゃねぇだろ」


俺が冷静に対応すると、早苗はふんっとそっぽを向く。

こいつは一体何を考えているんだか。


「悠人」


俺は声に反応して、後ろを向く。

すると、木の葉が俺の制服の袖を掴んで、真剣な表情で俺を見つめていた。

ほら見ろ。木の葉は早苗と違って如月先輩の件を真面目に考えているぞ。

少しは早苗も木の葉を見習った方がいい。


「?なんだ?」


俺が尋ねると、木の葉は表情を何一つ変えずに言った。


「今度、私と喫茶店」


訂正:全然真面目ではありませんでした。


「・・・・はぁ。わかったよ。今度な」


俺がそう答えると、木の葉はどことなく頬が紅く染まっている気がした。

ってか、どんだけ喫茶店行きたいんだよ。


「ちょっと、あたしの許可なしになに木の葉さんと喫茶店行こうとしているのよ」

「いや、何でお前の許可が必要なんだよ」

「それはあたしが悠人の幼なじみだからよ」


いや、幼なじみの許可がないと喫茶店すらいけないのは初耳なんだが。


「柚原、うるさい」


木の葉が軽く睨みつけながら早苗に言った。


「な、なによ。あたしはうるさくなんかないわよ」


いや、うるせーよ。


「おい、君たち」


俺たちがガヤガヤやっていると、突然低く渋い声が聞こえる。

その声がする方向に俺たちは向くと、如月先輩の父親が真剣な表情で言った。


「うちの家で勝手にラブコメるのはやめてくれないかね」


「コメってねーよ!!」「コメってないわよ!!」


・・・・・・あれ?なんか一人声が足りなかったような。

まあ気のせいだろう。そうに違いない。ってか、そうであってくれ。



*****


俺は如月先輩の家をあとにすると、そのまま帰宅するために早苗と一緒に歩いていた。

木の葉とは途中まで一緒に帰っていたが、買い物があるとかで先ほど別れた。


「しっかし、また厄介なこと頼まれたなぁ」


俺はもうすっかり暗くなっている空を見上げながら、呟く。


「さっき如月先輩のお父さんに言われたこと?」


そう。俺たちは如月先輩の家を出るときに如月先輩の父親にあることを頼まれた。


――『どうか、玲のことを助けてやってください』――


「でも、それって桃野先輩っていう人に依頼されたことと同じなんでしょ?なら、結局やることは一緒じゃない」

「まあそうなんだけど。でも、一人に頼まれるのと二人に頼まれるのじゃ、重荷が違うんだよ」


しかも、その二人は生徒会の副会長に、実の父親である。

かなりのプレッシャーだな。

でもまあ、早苗の言う通りやるしかないんだけどな。

なんせこれには第二生徒会の運命がかかっているんだから。


「あ、今あたしいいこと思い付いちゃった」


早苗が唐突に言う。

まず早苗のいいことっていうので信用ゼロなんだが。

俺がそんなことを思っているとは知らずに、早苗は悪者のような笑みを浮かべながら言った。


「今までのこと全部如月先輩の勘違いだったんだから、それを如月先輩に話しちゃえばいいのよ」


俺は早苗の言葉を聞いて、「はぁ」とかなり深いため息をつく。


「な、なによ」

「あのな、今の今までその如月先輩のお父さんが言ったことを信じまってるんだぞ。それなのに、つい最近知り合ったばかりの俺らが『それは嘘なんです』なんて言ってそっちを信じると思うか?」


早苗は俺の言葉を聞くと、納得したと同時に、顔を俯け落ち込む。

・・・ったく、そんな顔すんなよ。


「でもな」


早苗は俺の声に反応して顔を上げる。


「俺は諦めるつもりなんてねぇから。だから・・・その・・・俺に任せろ」


俺は何となく恥ずかしくなって、途中から顔を背けつつ言う。

すると、早苗はいつも見せないような笑顔で、


「うん!」


あれ?今なんか早苗にドキッとしてしまったような。

いや、違う違う。これは勘違いだ。勘違いに決まっている。

・・・・・・勘違いだよな?




******



翌日の昼休み。

俺は生徒会室にいた。

というのも、桃野先輩が話があるとかで呼ばれたからなんだが・・・・


「なぜ誰もいない」


ったく、自分から呼び出しておいていないとか。俺の早弁の努力を返してほしい。

危うく、おにぎりがのどに詰まりそうだったぜ。


ガラガラガラ


急に扉を開ける音がしたので、俺は後ろを振り返ると、そこには桃野先輩とおそらく生徒会の関係者だろう一人の男子生徒と、一人の女子生徒がいた。

男子生徒の方は茶髪で、顔はまあまあカッコよく、よくそこだへんにいるチャラ男と言った感じだ。

女子生徒の方はメガネをかけていて、髪は黒髪ツインテールでそこだへんにいる真面目系女子といったところだな。


「こんにちは。陰山くん」


桃野先輩が可愛いらしい笑顔で俺に言ってくる。

俺も桃野先輩は先輩なので一応挨拶を返そうとすると、


「こんち」

「あぁー。こいつですね!桃野先輩をたぶらかしている奴は!」


いきなり茶髪の奴が俺を指さして言ってくる。

ってか、初対面なのにずいぶん失礼なこと言ってんな。


「あ、あの、桃野先輩・・・」


俺は少しむかつきながらも、桃野先輩に話しかけようとすると、


「大丈夫ですよ桃野先輩。ここは一年生スーパー生徒会会計のこの俺、新藤(しんどう) 臨弥(りんや)がしっかり先輩を守って見せますから」


そしてその新藤とかいうやつは桃野先輩の前に立って、よくわからん迎撃態勢に入ってる。

こいつ俺と同じ一年かよ。しかも生徒会の会計がこんなんだなんて。

同じ一年として恥ずかしいよ。


「新藤。陰山くんはれいちゃんを助けようとしてくれてるんだよ。だから余計なことしないで」

「いや、先輩。こいつの目は野獣そのものですよ。俺にはそんなやつを桃野先輩の前に放置していることなんてできません」


おいおいおい。ちょっと待て。誰が野獣だ。

なにこのクソチャラ男はテキトーなことをほざいてやがる。


「新藤。次陰山くんに失礼なことをしたら生徒会のメンバーから外すよ」

「・・・・・・すいません」


桃野先輩が冷たい声で言うと、新藤は急におとなしくなる。


「あと、新藤。あんたは利美(りみ)と一緒に席を外してくれる?」

「え・・・・でも」

「利美あとは頼んだよ」


桃野先輩はそう言ったあと、メガネツインテールの女子生徒にウィンクをすると、メガネツインテールは新藤の制服の襟を掴んで、そのまま生徒会室の扉に向かっていく。


「ちょ、園田(そのだ)。お前あの男が桃野先輩に食われてもいいのか、ちょ、その・・・・」


最後までその調子のまま、新藤はメガネツインテールに引っ張られながら出て行った。

ってか、誰が桃野先輩を食うだ。

そんなやましい気持ちは一ミリも・・・・・いや、十センチくらいあるかも。


「しかし生徒会って個性的な人が多いですね」


俺は自分の危ない感情を抑えるため、適当に話題を振る。


「まあね。でも、それもまたいいところだと思うけど」


桃野先輩がそう言うと、しばらく沈黙が流れる。

その沈黙はどこか寂しく、悲しい気持ちになるようなそんなものだった。


「そういえば、あなたたちの部活の廃部の期限が決まったよ。来週末までに部室を綺麗にしておいてだって」

「つまり、その日で第二生徒会の活動は終了ということですか」


桃野先輩はこくりと頷く。


「そうですか。・・・如月先輩は、相変わらずあのままですか」


俺は机の上に山住みにされている資料を見て言った。


「そうだよ。・・・・まだ一人で頑張っちゃってる」

「・・・そうですか」


おそらく今俺と桃野先輩が思っているのは同じことだろう。

如月先輩を助けたいのに助けられないもどかしさ。

どうしようもできない無力さ。

ただそれを俺と桃野先輩は噛みしめていた。


「でも、まだマシだよ」


桃野先輩が唐突に言う。


「?何がです?」

「実は春ごろは、れいちゃん一人でも生徒会の仕事出来ちゃってたんだよ。でも、最近は体育祭の準備が仕事として増えて、れいちゃん一人じゃ手に負えなくなったの。だから、れいちゃんが自分一人でやるのは無理なんだって少しは思ってくれてると思うんだ。まあ私の思い過ごしかもしれないけど」


桃野先輩は顔を俯かせながら言った。

だが、俺は桃野先輩が言った言葉で一つ引っかかることがあった。


・・・・・体育祭。


「桃野先輩!」


俺は興奮のあまり結構な声で桃野先輩の名前を呼ぶ。


「え、なに?」

「思いつきました」

「・・・なにが?」


俺は少し戸惑っている桃野先輩に笑みを浮かべながら言った。


「如月先輩を助ける方法を」


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