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大切

俺は部活が終わったあと、いつもの下校ルートを一人、


「ねえ、ちょっと聞いてる?」


ではなく、二人で歩いていた。しかも、幼なじみと。

おかしいな。

文字列だけで見ると最高のシチュエーションのはずなのに、実際体験してみると、心が恐怖で埋め尽くされているのは気のせいだろうか。


「ねぇ、ちょっと!」


俺の幼なじみこと柚原 早苗はシカトされているのが気に食わないようで、強めの声で俺に話しかけてくる。


「・・・・なんだよ?」

「だから、さっき話してた副会長からの依頼どうすんのよ?」


早苗は少し焦った様子で俺に尋ねる。

まあなぜ早苗が桃野先輩からの件を知っているのかと言うと、俺と桜空が部室に戻った時に、それぞれの自宅でも何か案を考えられるように依頼の内容だけ伝えておいたからである。


「どうするも何も、やるしかないだろ」

「でも、それで、もし失敗したら廃部になっちゃうんでしょ?」

「お前はなに言ってんだ。何もしなくてもどっちみち廃部になるんだから、やらないなんていう選択肢はないんだよ」


ったく、そのくらいはわかって欲しいものである。

幼なじみとして陰山さんはとても悲しいぞ。

そんな俺の言葉を聞くと、早苗はぷくっと頬を膨らまして言う。


「何よ。別にそんな言い方しなくてもいいじゃない」

「・・・・・え?」


今おそらく俺は人生の中でトップ3に入るくらいの驚いた表情をしているだろう。



「何よその顔。あたし今なんか変なこと言った?」


早苗は不思議そうに俺に聞いてくる。


「だって、早苗。お前今殴ってないぞ」


俺は先ほどの表情から笑顔に変わって答える。

早苗はそんな俺を見ると、唖然としていた。

だが、俺はそんな早苗に構わず話し続ける。


「いやぁ。ようやく早苗も殴らないということを学習してくれたか。いやぁ、よかった、よかった。もうホントここまで来るのにどれだけ時間がかかったか。それはまるで知恵のない野生のメスゴリラのよう」


ボコッ!バコッ!メキッ!


あれ?なんか今すごく危ない音がしたような。ははは、まさかな。

じゃあ最後に陰山兄さんからのお願いだ。

幼なじみに暴言は絶対やめてくれ。

特にメスゴリラは超危険だ。

どのくらい危険かと言うと、あと一歩で全身捻挫にさせられるくらい危険だぞ。

だから、絶対幼なじみには暴言を吐かなこと。いいな。

暴言、ダメ、ゼッタイ。





*****



今俺は一人スーパーやら薬局やらコンビニやらがある通りを歩いていた。

というのも、途中まで先ほどと同じように早苗と下校していたのだが、何やら早苗の携帯に早苗の親から電話がかかってきて、早く帰ってくるようにと言われたらしい。

まあもちろん、俺はそんな早苗に合わせて急いで帰る気など毛頭なく、「先に帰っていいぞ」と早苗に言ってやったら、早苗は一発俺を殴って、そのまま走って帰って行った。

ちなみにそのパンチは超痛かったです。


俺はちょうど信号に差し掛かると、信号は赤になっていたので運んでいた足を止めた。

やはりもうすぐ晩御飯の時間だけあって、周りにいるのは、今日の晩御飯になるであろう食材が入っているマイバックをもった主婦ばかりだ。

俺は目線だけ右に向ける。

右から主婦、主婦、主婦、主婦、主夫、主婦。

今度は、俺は目線だけ左に向ける。

左から主婦、主夫、主夫、女子高生、主婦、主婦。

俺は正面に目線を戻す。

・・・・・・ん?あれ?

なんか今、見覚えのある人影が見えたような・・・・。

ってか、主夫率高いなこの町は。もこ○ちにでもなるつもりか。

俺は心の中でツッコミを入れつつ、先ほどの人影を探す。


「・・・・いた!あれは」


俺はその人物を見つけると、その人はうちの学校の制服を着ており、赤みがかった茶髪のロングヘアーで、さらに巨乳の中の巨乳である、爆乳の持ち主であった。

まあつまり、


「如月先輩か!」


俺がそう如月先輩の名前を言うと、意外と声が出てしまっていたようで、如月先輩がこっちを向いてきた。

いきなり顔を向けられたので、俺はとりあえず如月先輩に会釈をする。

すると、如月先輩は俺をしばらく見た後、ゆっくりと首を斜めに傾けた。って、なんでだよ!

あんたが廃部宣言した部活の部長ですよ。

覚えてませんか?ってか、覚えてろよ。

俺は「はぁ」と一つため息をつき、ゆっくりと如月先輩のもとへ歩いていく。

そして、如月先輩の所に着くと、如月先輩はポンッと手を叩き、


「そうか。君はあの第二生徒会とかいう部活の部長のやつだな」


どうやら俺が如月先輩の元に着くまでの間に俺のことを思い出してくれたようだ。


「そうですよ。ってか、俺には一応、陰山 悠人って名前があるんですけどね」


如月先輩は俺の言葉を聞くと、「ははは」と笑いだす。


「そうか、そうか。それは悪かった」


なんだろう。

ところどころ、うちの顧問に似ていると感じるのは気のせいだろうか。

俺がそんなことを思っていると、如月先輩が急に頭に?マークを浮かべていた。


「?そういえば、なぜ陰山は私の名前を知っているんだ?確か、私は陰山に名前を教えたことはなかった気がするんだが」

「あぁ、それは聞いたんですよ。桃野先輩に」


俺が桃野先輩の名前を出すと、如月先輩はさっきの穏やかな表情から、急に険しい表情に変わる。


「お前。生徒会室に行ったのか」

「まあ、はい」


俺が答えると、如月先輩は「そうか」と言った後、黙り込んでしまう。

そしてしばらく沈黙が流れた後、


「如月先輩」

「・・・・なんだ?」



「ちょっとお話があります」



*****



俺と如月先輩は話をするために、近くの喫茶店に入ると、そのまま窓際の二人席に座った。

そして、俺と如月先輩は飲み物の注文を済ませた後、如月先輩から口を開いた。


「それで、話というのは何だ?」

「それは、生徒会の仕事の件です」


俺がそう言うと、如月先輩は「はぁ」と一つため息をついて、


「リュミか?」

「・・・・はい」


俺は少し小さめの声で答えると、如月先輩は「あいつ。余計なことをしやがって」などと一人呟く。


「だが、それがどうした?陰山には関係のないことだ」


如月先輩は冷たく鋭い声で言った。


「いえ、関係あります」

「?意味が分からないな」

「それは如月先輩の今後の行動によって、第二生徒会の廃部がなくなるかもしれないからです」


俺の言葉を聞くと、如月先輩はさっきより険しい表情になる。


「どういうことだ?」

「つまり、如月先輩が一人で生徒会の仕事をしようとせず、ちゃんと生徒会全員の力で仕事をしてくれたら、俺たちの部活の廃部がなくなるんですよ」

「・・・・それもリュミだな」


俺は如月先輩のその言葉に怒りとなぜか少しの悲しみのようなものを感じられた。


「如月先輩。なぜ先輩は一人で仕事をこなそうとするんですか?」


俺が尋ねると、如月先輩は俺を睨みながら言った。


「それこそ、お前には関係ない」

「・・・まあそうですけど」


俺がそう言うと、またさっきのようにしばらく沈黙が流れる。

そして、俺は口を開く。


「桃野先輩は俺たちに依頼をしてきたんです。生徒会長のこと」

「・・・まあリュミが陰山たちに生徒会の仕事の話を言っている時点でそうだろうな」

「如月先輩。この意味が分かりますか?」

「?何が言いたい?」

「それはですね・・・」


俺は少し間を開け、そして再度、口を開く。


「桃野先輩がそれだけあなたを大切に思っているということですよ」

そう。桃野先輩はあんな感じだが、如月先輩のことを大事な存在だと思っている。

でなければ、わざわざ後輩の集団である、俺たちのような部活に依頼などしないはずだ。

おそらく、俺が第二生徒会の廃部の取り消しを条件に出しても即答したのも、如月先輩のことを思ってのことだろう。


「そんなことは・・・・」


俺の言葉を聞くと、如月先輩は顔を俯け、言った。

「そんなことは、とっくに知っている」

「じゃあなんで」

「私の父はな」


如月先輩の言葉が俺の言葉を遮る。

その時の如月先輩は、悲しみに溢れたような、そんな表情だった。

そして、如月先輩は言った。


「私の父はな、病を患っているんだ」

「・・・・え?」


俺が返す言葉もなく、ただ固まっていると、如月先輩は話を続ける。


「私の家は企業を営んでいるんだ。といっても、普通の中小企業だけどな」


如月先輩は顔を下に向けながら、苦笑する。


「まあそれで、昨年までは順調にいってたんだが、今年に入って急に赤字が続いてな、今はいつ潰れるかわからない状況なんだ。しかも、そんな時に父が倒れてしまった」

「・・・・・そう、ですか」

俺は変わらず何も言えなかった。

なぜなら今如月先輩がどんな気持ちでこのことを話しているのかと思うと、掛ける言葉なんて見つからなかったからだ。

如月先輩はテーブルの上に乗せている拳をぎゅっと握りしめ、言った。


「だから、私はいかなることでも一人で成し遂げなければならない。そして、私は父の後を継ぎ、会社を立て直さなければならないんだ。私は・・・・」


如月先輩は唇を噛みしめながら、辛く、苦しい表情になる。

そして、




「私は父の会社を失いたくはないんだ」




******



次の日の放課後、俺はいつも通り、部室に向かっていた。

だが、俺の足取りは非常に重く、気を抜けば止まってしまいそうだった。


「・・・はぁ」


俺は昨日のことを思い出す。

まさか、如月先輩にあんな事情があったなんて・・・・・・。

俺は再び「はぁ」と一つため息をつく。


「おい、そこの青年」


俺は今、気分的に一番会いたくないやつの声が後方から聞こえた気がする。

まあ、気のせいだと思うが。


ガシッ!


「おい、そこの、せ・い・ね・ん!」


どうやら命が危なさそうなので、俺は仕方がなく振り返る。


「なんですか?今そんな気分じゃないんですが、新川先生」


というか、その俺の頭を鷲掴みしている手をどけてほしい。ってか、どけてください。

そんな俺をようやく察したのか、新川先生は俺の頭から手を離す。


「なんだ、そんなシリアス満開な顔して。お前には似合わないぞ。お前は笑顔が似合う」


何でだよ。俺にシリアス超似合うだろ。

もう深さで言うと地球の内核の更に内核いけるレベル。まあそれだと俺死んでるけど。

あと、最後の言葉はバカにしているようにしか聞こえないのは気のせいだろうか。


「ってか、なんか用ですか?」

「まあな」


新川先生はスーツのポケットから何やら紙のようなものを取り出す。


「お前が今悩んでいるシリアスなこと」


そして、その紙を自分の顔の近くまで持ってきて、ウィンクをしながら言った。


「実は、そんなシリアスじゃなかったりするかもしれないぞ」



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