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条件

俺と桜空は桃野先輩に案内されて生徒会室に入ると、中はどこもかしこもプリントが山のように積み上げられていて、まるでえぐい残業をさせられているサラリーマンのようだった。

まあ、俺働いたことないけど。


「ずいぶん散らかってますね」

「それはちょっと・・・ははは」


俺の言葉に桃野先輩はどこか不自然な笑いで返す。

ん?何か俺まずいことでも言ったか?

確かに遠まわしにこの部屋は汚いと言っているが・・・・・あぁそれか。


「ここに座って」


俺と桜空は生徒会室の奥の方に行くと、そこにはプリントも何も乗っかっていない綺麗な机と椅子があり、桃野先輩に言われる通りその椅子に座った。


「あの、その、さっき言っていた依頼というのはなんなのでしょうか?」


桜空は桃野先輩が前方の席に座ったのを見計らうなり尋ねた。


「それはね、れいちゃんを説得してほしいの」


桃野先輩は真剣な眼差しで俺たちにそう言った。

そしてそんな桃野先輩の言葉を聞いてまず俺が最初に思ったこと。それは、


・・・・・・・れいちゃんって誰?


「あの、桃野先輩」

「ん?なに?」

「その、れいちゃんとは誰ですか?」


桃野先輩はキョトンとした様子で俺を見る。

いやいや、なにその「れいちゃんを知らないの」みたいな目線は。

なんですか、れいちゃんを知らないとまずいんですか。

俺が悪いんですか。そうですか。


「あれーおかしいなー。れいちゃんこの前、第二生徒会の部室に行ったって言ってたのになぁ」


俺の気持ちが少しナイーブになっていると、桃野先輩は何かぶつぶつ言っている。

この前うちの部室に来た?誰だそいつ?

そんなやつ来たことあったっけ・・・・・って、もしかしてそれって、


「れいちゃんという人はもしかして生徒会長のことでしょうか?」


桜空は今まさに俺が聞こうとしたことを桃野先輩に尋ねる。

どうやら桜空も俺と同じようなことを思っていたようだ。


「そうそう!あっ、ひょっとしてれいちゃん、自分の名前を言わずに帰ってきちゃったのかな?」

そうですね。

自分の名前言うどころか結局自分の役職すら言ってませんでしたからね。

俺らがあのバッジを見つけなかったら生徒会長ってことすらわからなかったよ。

ちなみに陰山さんのイメージとしては会計が一番あっていると思いました。

俺はそんなことを思いつつ、桃野先輩の言葉に頷く。


「そっかぁ。なんかごめんね。れいちゃん生徒会長なのに」

「いや、それよりも俺たちが生徒会長のことれいちゃんって言うわけにもいかないんで、本名教えてくれます?」


俺がそう言うと、桃野先輩は笑顔になる。

その笑顔はまるでバラのように美しく・・・・・って危ない危ない。

もう少しで俺のラブコメが始まっちゃうとこでしたよ。

そして即刻で振られて、主人公のラブコメを手助けする、かませ犬的なポジションの奴みたいになるとこでしたよ。

ほんと俺のバカ。


「れいちゃんはね、如月(きさらぎ) (れい)っていうんだよ。ちなみに私と同んなじクラス」


如月 玲先輩ねぇ。

なんか昔の偉人とかにいそうな名前だな。

まあ異人ならうちの部活にもいるけど。

力がマウンテンゴリラ並の女子高生が一名と、力がドンキーコ○グ並の女性顧問が一人。

・・・・・ん?ってか、今、最後の方になんかおかしいこと言わなかったか?確か桃野先輩と同じクラスとかなんだとか。

でも、それは、


「桃野先輩と如月先輩が今、同じクラスというのは少しおかしくはないでしょうか?」


桜空は再び俺がたった今聞こうと思っていたことを尋ねた。

なにこのシンクロ率。

もうこれは今俺が桜空に告白したら成功するレベル。違うか?違うな。


「ん?なんでかな?」


桃野先輩は桜空の問いの意味が理解できなかったようで、首を斜めに傾げる。


「だって、普通この時期の生徒会長ってまだ三年生がやってるはずですよね。なのに、何で今の生徒会長である如月先輩が二年生の桃野先輩と一緒のクラスなんです?」


俺は桜空の疑問を桃野先輩にもわかるように言い直すと、桃野先輩は「あー!そういうことね!」とすっきりした表情で俺に言う。


「それはね、れいちゃんが去年、生徒会長に選ばれたからだよ」

「去年って・・・・それって一年の時からじゃないんですか!」


俺は桃野先輩の言葉に驚きつつ言った。


「そうだよ。しかも当時の二年生を差し置いて選ばれてすごかったんだから」


桃野先輩は自慢げに胸を張りながら俺たちに言う。

マジかよ。あの人そんなすげぇ人だったのか。

俺が見た感じだとそんなカリスマ的は見当たらなかったんだが。

あ、言っておくが、俺は桃野先輩の胸なんかまったく興味ないんだからね。

チラ見なんかしてないんだからね。


「あの、では私たちはそんなにすごい方の何を説得しろと?」


最初の話からかなり逸れてしまったので、桜空が話題を桃野先輩の最初に言った依頼について話に戻す。

すると、桃野先輩は先ほどの明るい様子とは打って変わり、どこか気まずそうな表情になり口を開いた。


「まず、そこにあるプリントを見てくれる?」


そう言って、桃野先輩の目線の先には先ほど俺が散らかっていると指摘したプリントの山があった。


「?あれがどうかしたんですか?」

「実はね、あれ全部まだ手を付けていない生徒会の仕事なの」


・・・・・・・・・マジ?


「あ、あの一応聞いておくんですが、何であんなことに?」

「そ、それは、れいちゃんが全部自分一人でやるっていうから」


桃野先輩のその言葉を聞いた後に、俺はもうプリントの山を見る。

その山は例えて言うならば、ラノベの何でもできる最強生徒会長でも一人でやるのは相当困難であるくらいの量があった。


「あれを一人でこなすのは、さすがに無理があると思うのですが」


桜空は苦笑しながら桃野先輩に言った。


「うん。それは私も思うんだよね。しかもあれ会計や書記とかの他の役職の仕事も入ってるし」


マジかよ。

そりゃ、あんだけ仕事が溜まるわけである。


「それでね、これじゃあどんどん仕事が溜まる一方だから手伝おうかってれいちゃんに言ってみたんだけど」


桃野先輩は俯きつつ言葉を濁す。


「それでダメだったわけですか」


俺が桃野先輩にそう言うと、桃野先輩はこくりと首を縦に振った。


「それで今度は俺たちに如月先輩を説得しろと?」


俺が桃野先輩にそう言うと、桃野先輩はこくりと首を縦に振った。



「・・・・・無理じゃね?」



「うぅ~。なんで?」


俺が思わずため口になって言うと、桃野先輩が半分泣きそうな目で俺に言ってきた。

いやいや、そんな可愛い声で言われても。


「まず、生徒会である桃野先輩が言って無理だったんだから、ほぼ無関係の俺たちが説得したってどうにかなるわけないじゃないですか」

「それは・・・そうだけど。でも、あなたたちの部って転校生のピンチを救ったって聞いたよ!それに比べたらこんなの楽勝でしょ?」

「う、うぅ・・・」


おいおい、どこのどいつだ。この人に余計な情報を与えたやつは。

っていうか、もう確実にうちのドンキーコ○グ以外考えられないけどな。

あいつ俺のことは生徒にはバレてないって言ってたのに、思いっきり自分からバラしてんじゃねぇか。

まあこの感じだと、おそらく生徒会以外には知られていないのが不幸中の幸いだが。


「あの、それをどこで聞いたか知りませんが、うちの部活って顧問を通してじゃないと依頼として受け取れないんですよ。だからこの依頼は」

「新川先生の許可はいただいたよ!」


俺が言い終える前に、桃野先輩が食い気味で言ってきた。


・・・・・・・・おい、顧問。


「新川先生の許可はとったから依頼を受けてくれるよね?ね?」


俺が動揺しているのに気付いたのか、桃野先輩は急に強気になって俺に迫ってくる。


「そ、それは・・・・」


俺が言葉を濁していると、何やら隣から引っ張られるような感覚があったので、俺は

そっちに顔を向けると、桜空が俺の制服の袖を掴んでいた。


「?どうした桜空?」

「あの、この依頼受けませんか?これだけ頼んでくれていることですし」


桜空が上目遣いで俺に言った。

いや、これだけって、今俺は頼まれていると言うより軽い脅迫状態なんだが。

・・・でもまあ、桜空が受けようとしているのに、俺が断るわけにもいかないか。

ちなみに、決して上目遣いにやられたわけじゃない。ほ、ホントだぞ!


「わかりました。では、その依頼受けましょう」

「ほ、ホント!?」


桃野先輩は俺の言葉を聞くと、すごく嬉しそうな表情になる。


「その代わり条件があります」


桃野先輩は俺の言葉を聞くと、少し悲しげな表情になる。

って、なんでだよ!そんな無茶な依頼受けるんだから、条件提示ぐらいはいいだろ。


「で、その条件ってなにかな?」


桃野先輩は少しオロオロと怯えながら俺に尋ねた。

この人は一体何を条件に出されると思っているのだろうか。

俺が金払えとか、体で払えだとかそんなことを言うとでも思っているのだろうか。

もしそうだとしたら、陰山さんはそこの三階の窓から飛び降りますよ。死にますよ。大丈夫ですか?

俺は自分の心を落ち着かせるべく、一つ息を「ごほん」とついて条件について説明し始める。


「条件はこの依頼がうまくいったら、俺たちの部活の廃部を失くしてください」

「いーよ」


俺が条件の内容を言うと、桃野先輩は即答で了解してくれた。


「・・・え?いいんですか?」

「いーよ別に。れいちゃんのことちゃんとしてくれたらね」


なんだ?結構粘られるかと思っていたんだが。なんか拍子抜けだな。

まあ依頼の難易度から考えるに上等っちゃ上等な条件なんだが。


「その代わりしっかり頼むよ。陰山くん」

「まあやるだけやってみますよ。うちの部活かかってますしね」


俺はそう言って席から立ち上がると、桜空も俺から少し遅れて立ち上がる。


「じゃあ、俺たちはこれで」

「失礼します」


俺が生徒会室を出て行くと、桜空は一つお辞儀をしてから俺と同じように生徒会室を後にした。

・・・・・・・ん?そういや俺、桃野先輩に名前教えたっけ?







俺と桜空は生徒会室を後にすると、部室に戻るために廊下を歩いていた。

窓からは綺麗な夕日の光が差し込んでいて、こんな時にラブコメ男子はラブコメ女子に告白でもするのだろう。

まあ俺には関係のないことだが。


「しかし、また面倒くさい依頼受けちまったな」

「もしかして私、陰山さんに余計なことを言ってしまったのでしょうか?」


俺の言葉に反応して、桜空は不安そうな表情で言った。


「いや、別に。どっちみち、俺はあの依頼を受けなくちゃならないからな。ちょうどよかったよ」

「?どういうことですか?」

「だって、もし断りでもしたら俺が殺されるからな。新川先生に」


俺がそう言うと、桜空は苦笑いをする。


「でも、なんで如月先輩は生徒会の仕事を一人でやろうとするんだ?しかも他人の仕事まで」


効率で考えたら確実に人数が多い方が早く終わると思うんだが。

ひょっとして如月先輩は仕事の分配がめちゃくちゃ下手くそとか。

・・・・さすがに違うな。

うーん、全く分からん。

俺は一人で考えても埒が明かないと思い、桜空に意見を聞こうと横を向くと、桜空は何かを考え込んでいるような表情で顔を俯かせていた。


「?どうした桜空?」


俺が尋ねると、桜空はハッと顔を上げる。


「あ、・・・いえ、ちょっと最近眠れていないもので。ぼーっとしてしまいました」


桜空はいつも通りの明るい笑顔で俺に答える。


「そうか。睡眠は大事だからな。しっかりとっとかねぇと」

「・・・・はい」


結局、その時俺は桜空に意見を聞くことはなく、そのまま部室に戻ると、ちょうど下校時間になってしまったので、その日は解散になった。



確かに、廃部の件があったり、桃野先輩の依頼である生徒会長の件があったりで余裕というものはなかったのかもしれない。

だが、俺は気づくべきだった。


なぜ桜空が如月先輩の話をした時に顔を俯かせていたのか。

なぜ桜空が新川先生と二人だけで話していたのか。

なぜ桜空が俺に友達になりたいと言ってきたのか。


・・・・・・・・俺は気づくべきだった。


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