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当たり前(メインヒロイン完全登場まであと二話)

走っている途中、まだ引き返すことはできたが、俺の頭は先ほどとは打って変わりもう助けることしか頭になかった。

俺が不良と女子生徒のとこへ着くと、まだ不良は腕を掴んでナンパらしきことをしているだけで止まっていた。

飛んだへたれチンピラ野郎である。


「おい。そこだへんにしとけよ。嫌がってんだろ」


俺がそう忠告すると、ようやく俺に気づいたらしく(どんだけナンパ必死だったんだよ)、「お楽しみが台無しだぜ」と言わんばかりに俺の目を睨んできた。

ってかお楽しみってなんだよ。

もうその表現は完璧にアウトだよ。

今までの行動からその言葉にピー入ってもおかしくないくらいだよ。

まあ全部俺の勝手な妄想なんだけどね。


「なんだお前。どっからわいてきた?」

「わいてねーよ。お前が犯罪者にならないために、かっこよく現れてきてやったんじゃねーか」

「?なにいってんだ?」


それはこっちのセリフである。

ちなみに女子生徒は会話に加わりたくないのか、ずっと涙目でだんまりしている。

まあそりゃそうだ。

変に悲鳴とかあげられても困るしな。

なぜなら俺はなるべく穏便に彼女を助けたいので、交渉というか、話で解決したいと思っているからだ。


「とにかくその子から手離してやってくれよ。人が嫌がってる姿なんかお前も見たくないだろ」


まあこれで引き下がってくれたら儲けもんなんだが


「はぁ?お前それで俺が、はいそうですか、なんて言うと思ってんのか」


まあこうなるわな。

これは想定内である。

問題は次だ。

次で決めれば万事解決になる。


「お前さイケメンなんだから、別にその子じゃなくても、女なんていくらでもいるんじゃないの?イケメンがそんな物騒なことしてたらもったいないぜ」


そうこれが俺の必殺「褒め殺し!!」。

この技は相手を褒めまくって、戦意を喪失させ、こっちの思惑どおりにことを運ぶようにする技である。

これは相手が不良、上司、先輩などに絶大な効果を発揮する。

まあ大体の馬鹿な奴はこれをを鵜呑みにして、調子づいた挙句、俺の要求に応じてしまうのだ。ホント馬鹿な奴らめ!

見る限りでは俺の今目の前にいる不良もその類に入るであろうことから、まあ心配はいらないだろう。

もちろん不良の方の顔はというと、全然イケメンではないし、むしろ顔は中の下、いや下の下ぐらいだった。

ってかブサイクだった。

マジ一回車でローリング顔にローリングしたんじゃないのってくらいブサイク。

それってめっちゃブサイクじゃね!?


「そ、そうか。ははは・・・そうだよな。イケメンの俺がこんなことしちゃだめだよな。イケメンだもんな。イケメン」


俺の大嘘の言葉に不良はにやけながら、どこか満足そうにしている。

予想通り。

こいつはやはり馬鹿だ。

自分のことを過大評価していて、すぐ褒められると調子のる。

これほど扱いやすい人間はいないだろう。

悪徳宗教の勧誘で「あなたは神になれます」とか言われたら真に受けて、速攻信者モードになるレベル。

まあそんなことはどうでもいいので、俺は女子生徒を離すように再び促そうとすると、俺より先に、不良の口が動き出した。


「でも」


でも?なんでここで"逆接"が出てくるんだ。

こいつ文法習ったことあんのか?ここは"順接"を使うんだぞ。

『だから』とか『ゆえに』とか。

今はしょうがないが、次、文法おかしかったら指摘してやろう。

俺は文法の間違いを聞き逃すまいと、神経を研ぎ澄まして、(場面的に全神経を研ぎ澄ました方がいいかもしれないが、こんな奴に全神経を使うなら、俺の神経は糸こんにゃくになった方がマシだ)、不良の順接のあとの言葉を聞く。


「そんな当たり前のこと言ったからって、この子は渡さねぇよ」

「・・・・・・??」


今なんと言ったのだろう。

当たり前?それはイケメンがということだろうか。

この顔で?まさか。そんなわけがない。

・・・・・・・・・そうか。これは文法が間違っているのだ。そうに違いない。

ならばさっき言ったことを有言実行するほかない。

大丈夫さ。きっと文法をちょちょっと替えてやればこいつの本心が聞けるはずさ。


1逆接→そんな当たり前のこと言っても、この子は渡さねぇよ。

2転換→そんな当たり前のこと言った、さて、この子は渡さねぇよ。

3並列→そんな当たり前のこと言った、ならびに、この子は渡さねぇよ。

4累加→そんな当たり前のこと言った、つまり、この子は渡さねぇよ。


おかしい。

どんだけ文法をいじっても、全体的な意味は同じにしか聞こえない。

2、3、4は文的にちょっとおかしいけど。

じゃあなんだ。どこを間違っているんだ。

・・・・・・・・・そうか。こいつ日本語を間違って覚えているんだな。

たぶん当たり前という言葉をわかっていないのだ。

それならしょうがない。

俺が教えてやるしかないな。

ほんとなら、あの伝説の体操を編み出したコンビ芸人にお願いしたいんだが、残念ながら陰山 悠人にそんな力はどこにもありません。

・・・・・・こないだのr-1おもしろかったな。

とにかく「当たり前」という言葉をこの不良に教えてやらなければならないので、まず最初にこいつが認識している「当たり前」の定義を聞くことにした。


「なあ、当たり前ってどういう意味か知ってるか」

「は?なんだそれ。そんなことで俺はこの子を渡さねぇぞ」

「いいから言え」

「・・・・ッ!?」


俺のオーラを感じ取ったのか、俺がそういった途端、不良は引けていた。

おそらくこのとき俺は大量の殺気が出てしまっていた気がする。

だって、この答えしだいでは・・・・・・・・・・ねぇ?


「あ、当たり前ってのは当然とかそういうことと同じ意味なんじゃねぇの?」


そう。その通り。

こいつの言ったことは当たっていた。

つまり、こいつは自分のあの顔がイケメンだということは当たり前と言ったわけであり、

いや、早とちりということもあるかもしれない。念のため、もう一つ確認をしてみよう。


「なあ?」

「なんだよ?」

「右足出して、左足出すと」

「歩ける」


はい確定。


「なあ?」


俺の殺気がどんどん大きくなるのに気が付いたんだろう。

震える声で不良が聞き返す。


「な、なな、なんだよ?」


俺は柔道を昔やってて段を持ってるといった。でもな

「俺さテコンドーもやってんだよね!」


ボキッ!バキッ!ゴキッ!


え?この音はなんだって?

大丈夫!大丈夫!命に異状はないから!



******




結局、不良は俺が何をしてやろうかと考えながら、自分の指の骨を鳴らしたらその音に過剰に反応してしまい、そのまま恐怖で気絶してしまった。

おそらくあの様子だと恐怖で俺の顔も忘れてしまっていることだろう。

せっかくあの技とか、あの技とかやろうと思ってたのに。

ほんと最後までヘタレヤンキーである。

もしかして骨折ってるかと思った?

いやいや、さすがにそこまでしないって。早苗ならしかねないが。


まあそんな話はさておき、俺は今救った女子生徒の案内のもと、この旧校舎から出るためにせっせと歩いてるところである。

俺は不良がしょうもないことで気絶してしまったため、女子生徒に恐がられてるかと思ってヒヤヒヤしていたが(旧校舎から出る手段を失ってしまうから)、女子生徒は普通に、というか何度もお礼を言ってくれて、こっちの頼みも聞いてくれたのだ。ホントにいい子でよかった。


そして歩き始めて数分後、


「あ!あそこが出口です」


女子生徒が指をさしながらそう言った。

俺は女子生徒の指が示している方向を見ると確かに出口と思われるドアがあった。


「おぉ!ホントだ!」


俺は居ても立っても居られず、出口まで走って行って勢いよくドアを開ける。

そこには約三十分ぶりの外の景色が広がっていた。

青い空、澄んだ空気、風に揺られる木々たち。こんなに世界は素晴らしいものだったのか!


「あの!」


俺が約三十分ぶりに外の景色を見て、世界のありがたみを肌で感じてるとこに女子生徒が話しかけてきた。


「ん?なに?」

「今回は本当にありがとうございました!」


女子生徒はそう言って頭を深々と下げる。

感謝されることは悪い気分じゃないが、こう何度もこういうことを言われると俺がたくさん言わしてるようで、逆にこっちが申し訳なくなってくる。


「あぁ。全然いいよ。別に俺は何もしてないわけだし」


まあ実際そうだ。

俺が指鳴らしたら、勝手に気絶しただけだし。

あの様子だと、もしかしたら俺なんか出ていかなくても、あの不良が勝手に自滅していたかもしれない。


「そんなことはありません。あなたがいなかったら私は今頃誘拐されて海外に売り飛ばされていたかもしれません」


それは絶対ないだろ!?ってかそんなスケールのデカいことだと思っていたのか、この人は。


「まあとにかく何事もなく済んだから良かったってことで、この件はこれでおしまいな」

「え・・・・・は、はい」

「じゃあ俺、もう行くから」


そう女子生徒に告げて、俺は入学式の会場に向かって走りだそうとしたとき、


「ま、待ってください!」


急に女子生徒に呼び止められたので、俺は首だけ彼女の方に向ける。


「お、お名前は?」

「名前?俺の名前は陰山 悠人だけど」

「陰山さんですね?」

「あ、あぁ」


俺は女子生徒が聞き返してくるのに応えたとき、“しまった”と思った。

おそらくこの人は俺に今日のわびとして何かお礼をしようと考えているのだろう。

あれだけ何度も謝ってきたのだ。

そんなことを考えていても全然おかしくはない。

まあこれが勘違いだった暁には一週間はおかしを食いながらゲームをして家に引きこもる・・・・立てこもることができるだろう。

それはそれでいいかもしれない。よくないな。

それよりも俺の場合、逆に来たときが結構困るのである。

俺は少しのことでも目立つリスクは避けたいので、もしお礼がクッキーとかそんな感じで、誰かに見られたら、「あの人とどういう関係なの?」みたいなことを聞くやつが絶対いる。クラスに一人はいる。

しかも、そういうやつに限って何もないと言っても勝手にホラ吹きまわったりするのだ。

ホントそんなやつ狼に食べられてしまえばいい。

そんな感じで俺はわりと本気で困るのだが、言ってしまったものは仕方がない。

そのときは男らしく、思いっきり、白を切ってやろうではないか。

え?全然男らしくないって?俺の“男”の定義は『騙す』『偽る』『知らんぷり』だぞ。

ほら、合ってるじゃないか。

考えがまとまったところで、とにもかくにも、俺はとりあえず入学式に行かなければならない。


「じゃあ、俺行くから」

「あ、はい。ではまた」


俺は急いで(リアルに時間がやばいので)入学式の会場に向かった。


彼女は最後に「ではまた」と言っていた。おそらくこの時点で俺の考えは八割方当たっているだろう。

どうやら家に引きこも・・・・・立てこもらなくても済みそうだ。

え?女子生徒の顔はどうだったかって?

それがなー、前髪で隠れてよくわかんなかったんだよなー(ちなみに髪は黒髪です)。

・・・・・ほ、ホントだよ。もし可愛くて俺が好きになったら困るから、前髪だけ見てたわけじゃないんだからね!プイッ!




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