助けたい人
俺が桜空たちと一緒に木の葉を救うと決めた日の放課後、俺たち第二生徒会は部室でそのための作戦会議をしていた。
「で、悠人。あんたなにかいい案があるんでしょ?」
早苗が桜空の隣といういつもの指定席に座りながら俺に尋ねる。
「まあな、一応。ってか、お前はどうしてそんな偉そうなんだ」
「いいでしょ、別に」
否定しないのかよ。
「ところで陰山さん。そのいい案とはなんなのでしょうか?」
俺と早苗が少し不穏な空気になったのを察して、桜空が俺にそう聞く。
「いい案っていうほどでもないんだけどな・・・・」
「陰山さん、教えてください」
俺が言葉を濁して中々言おうとしないでいると、桜空が真剣な表情で俺に言った。
「教える、教える・・・・でもな・・・」
「いいから教えなさいよ」
「はい、教えます。だからその手やめて、その手」
俺は少し怯えながら、なぜか手にグーの形を作っている早苗に言った。
なに今のグー、じゃんけんであれだしたら、もはや無敵だろ。身体的な意味で。
「じゃあ俺の考えた作戦を言うぞ。まず作戦名から」
「作戦名?そんなの必要なの?」
そう言いながら、早苗は馬鹿にしたような目で俺を見てくる。
「こういうのは形から入った方がいいんだよ」
「ふーん」
何その興味のなさそうな反応。
今の俺が悪いの?この時点でこの感じだと、作戦名を言った時の空気が非常に心配なんだが。
「あの、それで作戦名はなんなのでしょうか?」
桜空が再び俺と早苗との空気を察して、俺に尋ねる。
・・・・・・・・ん?違うな。
なんですか桜空さん?その好奇心旺盛な子供のような目は。
作戦名に期待してるんですか?そうですか?そうですね。
・・・・・・これは作戦名を言ったあとの空気が本気で心配だ。
「じゃ、じゃあ作戦名を発表する。作戦名は・・・・・」
俺は何となくここで間を置く。
その間、早苗は俺に呆れた目を、桜空は期待の目を俺に向けていた。
俺はそんな早苗と桜空に申し訳ないと思いつつ、作戦名を言う。
「モブキャラが少女一人助ける作戦だ!」
シ―――――ン
今の光景に擬音をつけるとしたらこんな感じだろう。
早苗は先ほどよりさらに呆れたというより、少しの軽蔑も入ってるような、そんな目を。
桜空はまるで化石になったみたいに、微動だにせず、ただ固まっていた。
はいはい、こんな空気になることぐらいはわかってましたよ。どうせ俺にはネーミングセンスがないですよ。
でも少しぐらいはフォローしてくれたっていいじゃねぇか。
この名前だってどうにかすればフォローぐらいは・・・・・・・・うん、できないな。
俺はどうやらもうこの空気には耐えられそうにないので、とりあえず話を進めることにした。
「じゃあ作戦の内容を説明するぞ」
俺がそう言い始めると、早苗も桜空も先ほどと変わって真剣な表情で俺を見る。
やっぱりなんだかんだ言って、早苗も桜空も木の葉を救いたいという気持ちは本物だ。
そして俺も木の葉を救いたい。
そのためには、この作戦を絶対成功させる。
俺は改めてそう決意したあと、桜空と早苗に作戦の内容を話し始めた。
「まず簡単に説明すると、俺が木の葉と話して本当の気持ちを聞きだす」
「え」
桜空は俺の話を聞くと、心配そうな目で俺を見る。
まるでそれじゃあ昔と同じやり方とでも言いたげだ。
「大丈夫だよ。心配すんな」
そんな桜空に俺は笑みを浮かべながらそう言った。
「陰山さん・・・・」
俺の言葉を聞くと、桜空はどうやら安心したようでいつもの綺麗な笑顔を見せた。
俺はおそらくその笑顔を見たあと、顔が少し赤くなってたと思う。
「ちょっと、なにやってんのよ」
俺がそんな風になっていると、早苗がそう言ってなぜか俺を睨んでいた。
「な、なんだよ」
「別に・・・何でも」
いや、ぜってー何もなくねぇだろ。なに、俺殺されるの?そうなの?
「早く作戦の説明しちゃいなさいよ。まさかそれだけじゃないでしょ?」
早苗がなぜだかわからないがどこか怒っている口調で俺に言った。
「え、それだけだけど」
俺がそう答えた瞬間、なぜか今度は早苗が無言で固まっていた。
なんだ、最近これ、はやってるのか?若者の考えることはよくわからん。
「あの、陰山さん」
俺がそんなことを思っていると、桜空がどこか苦笑いをしているような表情で俺を呼ぶ。
「なんだ?」
「その、陰山さんが木の葉さんと話すだけなのでしたら、私と柚原さんは何もしなくてもいいのでしょうか?」
「え?そんなことないけど」
俺がそう言うと、桜空は驚いた様子で俺を見ていて、それと同時に早苗の固まりも解けたようで桜空と同じ目で俺を見てきた。
「では、私たちは何をすればいいのでしょうか?」
桜空が俺にそう尋ねると、俺は答えた。
「お前らにはちょっとやってもらいたいことがある」
********
屋上にいる男子生徒らしき人物のせいで、ここにいる生徒全員がその人物に注目をし、もはや学年集会どころではなくなっていた。
「あれなに?なにかのパフォーマンス?」
「なにやってんだ?」
「でもなんか面白そうじゃね」
さっきまで静かだった生徒たちが急に騒ぎ出す。
だが、あの男は本当に何なのだろう?どんな目的であんなことをやっているのか。
そういえば、さっき誰かを助けるとか言っていた。
もしそれが本当ならばこれを通じて彼も知ることになるだろう、そんなことはできないのだと。
「はい、はい。じゃあ、ちょっと俺の助けたい人の名前を言うから、静かにしてねー」
騒いでいる生徒たちに男子生徒らしき人物が拡声器を使ってそう呼びかけると、生徒たちは言う通りに静かしたり、「ヒューヒュー」と冷やかしを入れる生徒もいた。
だが結局ここにいる生徒全員がその男子生徒らしき人物の言うことに興味津々だったので、静かになった。
そしてその様子を見たあと、その男子生徒らしき人物は話し始めた。
「俺の助けたい人は・・・・・」
そう言ったあと男子生徒らしき人物はわざと間を開ける。
そして数秒間、優しい風の音が聞こえたあと、その男子生徒らしき人物は言った。
「木の葉 雫。お前だ」
私はその言葉を聞いて一瞬、何が起こっているのかわからなかった。
私を助ける?何を言っているのか、この男は。第一、この男は誰だ。
私はこんなことを言いそうな人なんか知ら・・・・・・!?
今私はすべてを察した。
そうか。こんなことを言う可能性があるのは、あの人しかいない。
私はそう思い、そしてその名前を呟く。
「・・・・・陰山 悠人」




