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今の俺ができること

今、俺の目の前には桜空 咲がいる。

そして彼女は俺に向かって言った。助けに来たと。


「助けにって、意味が分からないんだが」

「そのままの意味です」

「そのままって・・・・」


桜空はそう言うが、彼女が俺の何を助けようとしているのか、俺には全く分からなかった。

第一、俺は助けを求めるような状況にはなっていない。そんな状況に追い詰められているのは俺なんかではなく、木の葉の方だ。


「こんなことしていていいのかよ。今は俺なんか相手にしてる場合じゃなく、木の葉を助けることを考えるべきじゃねぇのか?」


俺は先ほど桜空が俺に向かって言った言葉を使って、皮肉っぽく言う。

そんな俺の言葉に桜空は腹をたてることもなく、冷静な様子で俺に言った。


「私はすべて聞きました」

「?何を?」

「・・・・陰山さんの過去を」


俺はその言葉を聞くと、顔を俯け、しばらく黙り込んでから「そうか」と一つ呟いた。

おそらく、俺が部活を辞めると言って部室を出て行ったあとに、早苗が桜空に話したのだろう。

じゃあ、彼女も知っているのか。俺が誰も救えないことを。


「なら・・・・わかるだろ。俺には木の葉を助けるなんて無理なんだ。しかも木の葉は俺と同じ・・・・」

「それがどうしたと言うんですか!」


俺が情けない声でそう言うと、桜空の鋭い声が俺の言葉を遮った。

俺はそんな桜空に少し驚きながらも、顔を上げ、目の前にいる桜空を見る。

すると、桜空は今までに見たことがないくらい、真剣な表情で俺を真っ直ぐ見つめていた。


「それがどうしたって・・・・だから」

「だからなんですか!だから誰も助けられないと言うんですか!じゃあ何で・・・何で、あの時・・・・・私を助けたんですか」


桜空はそう言っているときも、ずっと俺を真剣な目で見つめていた。

あの時、それは俺が入学式の日に桜空を不良から助けたときのことだろう。


「そ、それは、ただ成り行きで・・・・・」

「違います」


俺のそんな曖昧な言葉を桜空ははっきりと否定する。


「あなたはあの時思ったはずです。助けたいと。そして今は木の葉さんを助けたいと。そう思っているはずです」

「何言ってんだよ。まるで俺のことをわかっているような言い方して。その時の俺の気持ちなんか・・・・」

「わかりますよ」


桜空ははっきりとそう言った。

そしてそんな桜空に俺は何も言い返すことができなかった。

なぜなら今の桜空を見ていると、本当に俺の気持ちをすべてわかっているような、そんな感じがしたからだ。

俺が何も言葉を返さずにいると、桜空は優しい表情になって俺を見つめながら言う。


「だって」


そして少し間を置いたあと、桜空は俺に向かって言った。



「だって、あなたは私の初めての友達なんですから」



彼女がそう言って見せた笑顔はとても華やかで、美しく、そして俺のすべてを救ってくれるような気がした。

そうか。彼女はもしかしたら俺以上に俺の気持ちをわかっているのかもしれない。

なら、俺も自分の気持ちに気づかないふりをするのはもうやめよう。

そして、ちゃんと向き合おう。

それが、俺自身を救うための第一歩だから。


「そうだな。それで桜空は俺の友達だ」


俺は桜空の言葉に少し笑みを浮かべながらそう返す。

桜空はそんな俺の言ったことに、さっきの笑顔とはまた別の嬉しそうな笑みを浮かべて、「陰山さん!」と俺の名前を言った。


「では、私と柚原さんと一緒に木の葉さんを助けてもらえますか?」


桜空は先ほどと同じように笑顔のまま俺にそう尋ねる。


「それは・・・ちょっと待ってくれ」


俺がそう言うと、桜空は急に不安そうな表情に変わって俺を見てくる。


「確かに俺は木の葉を助けたい、救いたいと思ってる。だけど、」


そう。それは本心だ。嘘じゃない。

でも俺にはそうしようにもできない問題がある。

それは・・・・


「俺はたぶん昔のような方法で助けようとすることはできない。だから、俺はどうやったら木の葉を救えるかを考えなくちゃならないんだ」

「つまりそれは、今はまだ救い方がわからないということですか?」


俺は桜空の言葉にこくりと頷く。


「桜空も聞いてると思うが、俺は昔、一人の少女を救おうとした。でも救えなかった。そのせいで俺は少女を余計に苦しめてしまった」


俺は少しトーンの低い声でそう言う。


「俺は二度とあんなことにはなって欲しくない。そのためにはやり方を変えなくちゃならないんだ」

「そんなのは簡単ですよ」


俺がそう言いながら木の葉を救う方法について真剣に考えていると、桜空から信じられないような発言が聞こえてきた。


「か、簡単って・・・・」

「はい。簡単です」


俺が動揺していると、桜空は追い打ちをかけるようにはっきりとまた言った。


「陰山さん。陰山さんは難しく考えすぎです」

「俺が難しく考えすぎ?どういうことだ?」

「陰山さんは今も昔も誰かを救いたいという気持ちの部分は変わっていない。そうですね?」

「あ、あぁ。そうだ」

「ですが、陰山さんは昔と今でどんなところも全く変わっていないということはないはずです」


まぁ。そりゃそうだ。身長だって伸びたし、体重だって増えたし、声変わりだってした・・・・・ってこれ一体なんの話?


「つまり私の言いたいことは、陰山さんは今の陰山さんができる方法で木の葉さんを救えばいいんですよ」

「今の俺ができる・・・・」


俺はその桜空の言葉を聞いた瞬間、彼女の言いたいことがすべてはっきりとわかった。

今の俺ができること。

それは昔のように何かの主人公のような、堂々として、かっこいく助けようとすることではない。

今の俺は主人公じゃないんだ。なら木の葉を救うために今の俺ができることはーーーーーーーーーーーーーー


「桜空。わかったよ、今の俺がどうすれば木の葉を救えるのか」


俺は桜空にすっきりした顔を見せて言った。


「そうですか」


そんな俺に桜空は笑顔でそう返した。


「じゃあ、そろそろ学校でも行くか。それで今日の放課後は作戦会議だ」

「はい!」


俺の言葉に桜空はいつもより明るい声で返事をしたあと、俺と桜空はゆっくりと歩き出した。



*****


その日の放課後、俺は部室に着きドアを開けると、部屋の中央にある椅子に桜空と早苗が隣同士になって座っていた。今となってはもう見慣れた光景だ。


「あっ。悠人遅いわよ」


俺が入るなり早苗はいつものようにプンプンしながら、遅れてきた俺を怒ってくる。


「そんな遅れてねぇだろ。少しぐらい見逃してくれ」


ボキッ!ボキッ!ボキッ!(指を鳴らす音) 


「・・・・今度からは気を付けます。はい」

「それならいいのよ。それなら。でも、私たちの作戦がうまくいって良かったわね。桜空さん」


早苗は俺を脅したあと、桜空にそう言った。


「はい!そうですね!」

「作戦?作戦ってなんだよ」


俺が早苗にそう尋ねると、早苗は胸を張って自慢げに答える。


「それはね、桜空さんが悠人を説得して、もし悠人が桜空さんの説得をしている最中に逃げだしたら、私が悠人を捕まえて桜空さんに再び説得してもらうという作戦よ。もちろんそれでも悠人が拒むんだったら、諦めるつもりだったけど」


俺は思った。

それは果たして作戦と言えるのだろうか。あと、それだと早苗は桜空が俺を説得したとき傍にいたことになるんだが。

最後に俺がノーと言ってたら、この世にもういなかったであろうことは言うまでもない。あぁ、女の子って恐っ。


「ってかそれだと、結局、早苗は何もしてないってことになんないか」


俺がそう言うと、早苗は何も言わずに真っ赤になる。

ん?ちょっと待てよ。

今日俺と一向に話そうとしなかったのは、それが恥ずかしかったからなのか。なんというか、それは・・・・・うん、なんかごめんなさい。

じゃあ、俺が午後の授業の合間に事情を説明することもなかったってことだな。

まあ別に話すに越したことはないけど。

そんなことを思いつつ、桜空と早苗の所まで近づくと俺は言った。


「じゃあ、そろそろ第二生徒会、始動といきますか!」



********



転校まであと三日という今日、学校の授業は午前までで、午後はグラウンドで学年集会をやっていた。

この学校は気温が下がる秋や冬以外は学年集会を外でやるのが恒例らしい。

といっても、まだ五月の末ということもあって少しまだ肌寒かった。


「えー続いては学年主任からのお話です。学年主任の三村先生、お願いします」


そう進行役の先生が学年主任の名前を言うと、その先生は三村先生と思われる人にマイクを渡した。


「皆さん。今日はこんな晴天に恵まれて・・・・・」


学年主任の三村先生と言う人がつまらない話をし始めたので、私は今後の自分について考えていた。

私はあと三日で転校する。

そして、これからも定期的に転校をして、誰とも決して関わらない日常を送るのだろう。

それが私、木の葉 雫だ。

もう私の過去を振り払うことも、私の未来を変えることも私にはできない。絶対に。


「それで私はその時思いました。人の思いというのは、ビ、ビ―――ビ――ビ――――――――――――――――――」


私は立ちながら顔を俯けてそんなことを考えていると、どうやら先生の使っているマイクが壊れたようだ。

おそらく、すぐ直ってまたあのつまらない話が始まるのだろう。

私はそう思っていたが、次の瞬間、ここにいる誰もが予想外であっただろう出来事が起きた。


「はーーーーい。みんな、ちゅーもーく!」


突然、上の方から男の人のような声が聞こえてきた。

私はその声の方向に顔を向けると、拡声器のようなものを片手に持って男子生徒と思われる人物が屋上に立っていた。

顔が遠すぎて見えないため、誰だかまではわからない。

ここにいる生徒が全員、屋上に顔を向けたあと、その男子生徒と思われる人物は私たちに向かってこう言った。


「どうも。ちょっくらモブキャラが少女一人助けに来ました」


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