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主人公

私が鈴山 梨香に相談を受けた翌日、私は女子生徒三人組を放課後、鈴山 梨香へのいじめの件で教室に呼び出した。

もちろんいじめをやめるように忠告するためである。

私は窓から見える美しい夕焼けを眺めながら一人教室で待っていると、数分もしないうちに鈴山 梨香にいじめをしていると思われる女子高生三人が入ってきた。


「こんにちは」

「なに?あたしら今から用事があるんだけど」


私があいさつを済ませて礼をしたあと、おそらくいじめのグループのリーダー格であろう茶髪ロングの女子生徒が髪をくるくるさせながら私に言ってきた。


「用事と言うのは鈴山さんへのいじめのことですか?」


私が鋭い声で茶髪の女子生徒に言うと、その女子生徒は少し態度が変わった。

しかし、その横にいる黒髪ショートと金髪ポニーテルの女子高生二人は動揺はしているが、話に一切入ってこようとしない。

どうやらこのリーダー格の人にこの件を一任しているのだろう。

私の発言に茶髪の女子生徒はあたかも自分たちは関与してないかのように


「は?なにそれ?そんなの初耳なんですケドー」

「そんなことはないはずです。私は昨日鈴山さんにあなた方のいじめについて相談をされたんですから」


茶髪の女子生徒は私の言葉を聞くと、チッと舌打ちをした。


「もう鈴山さんへのいじめはもうやめてもらえませんか?こんなことをしても何の意味もないと思うんです」


私がそう言うと、しばらくの沈黙が流れた。そして、


「・・・クク・・・ククク・・・・ハハハハハハハハハハ」


急に茶髪の女子生徒は大声で気味悪く笑い出した。


「な、何がそんなにおかしいんですか」

「いやー、あんたが騙されてんの見てると笑いが止まらなくなっちゃって」


私は彼女が何を言っているのかわからなかった。

騙されている?私が?誰に?


「どうやらその様子だとまだわかってないみたいだね。いいよ。教えてあげる。あたしらはね鈴山 梨香と取引したんだよ」

「・・・・取引?」

「そう、取引。確かにあたしらは鈴山をいじめていた。だけどそろそろつまんなくなってきて、あいつにチャンスを与えたんだ。それはね、新しいいじめの対象を私たちの前に持ってくることだよ」


私は彼女の最後の言葉を聞いた瞬間、全てを理解した。


「さすがにもう気づいたみたいね。そう、あんたが鈴山が選んだ私たちがいじめる相手ってこと」

「・・・・・・ってことは」

「そう。騙されたんだよ。鈴山に。あんたは」


私が騙された?あの子に?ウソ。だってあんなに真剣に・・・・。


「まあ今日いきなりいじめんのはさすがにかわいそうだから、明日からにしといてあげる。それまでに心の整理でもしといてねー」


そう言って、彼女は二人の女子高生とともに教室を出て行ったあと、私はその場で倒れ込んだ。

うそ、でしょ。なんで?どうして私が?

私は考えれば考えるほどわからなくて、最後には私の頭は真っ白になっていた。



その後の学校は最悪だった。

女子の三人組には毎日のようにひどい言葉が書かれた手紙を靴箱に入れられたり、パシリにされたり、根も葉もないうわさを立てられたりしたし、

当然のように私が仲良くしていた友達も全然話してもらえなくなって、部活でも私だけが急に仲間外れされるようになった。

それが一か月も続き、私は精神的にもう限界になっていた。


だが、この私へのいじめは予想外の結末を迎える。


私がいつものようにいじめを受けてから、家に帰るとお父さんがリビングに座っていて、何やらテーブルには紙のようなものが置いてあった。


「これはどういうことだ?」


私はお父さんが指を指しているものを見ると、そこにはたぶん私が間違えて持って帰ってしまった私へのいじめの手紙が置いてあった。


「雫、お前いじめられているのか?」


お父さんにそう聞かれた私はもうここで違うと言う気力も体力も残っていなかった。

そして私はすべてお父さんに話した。ボロボロ涙を流しながら。

お父さんは私の話を全て聞き終えると、すぐに学校に電話をしていじめの件を私の担任に言ってから、その後私の転校の手続きを済ませた。

こうして私へのいじめは終わりを告げたのだが、私は車に乗って転校先へ向かっている間、あることを決めていた。それは



――――――――――――――――――――――――私はもう誰も信じない。




「・・・・・・・そんなことがあったのか」


俺は木の葉の過去を聞いたあと、木の葉が人を信じられなくなって、今までどれだけ苦しんで過ごしてきたのかを考えると、俺はそんな言葉しか出てこなかった。

おそらく、アイスクリームのお店にいた女子三人組がそうなのだろう。


「私は、いじめられて、転校したあと、誰とも話さなくなった」


そうだろうな。

そんなことがあって、まともに人と話せる人間なんていないだろう。

だから、木の葉はうちの学校に転校してきても、一向に誰とも話そうとしなかったんだ。

だがその言葉を聞いたあと、一つの疑問が俺の頭に浮かんだ。


「・・・・じゃあなんで俺とは話せるんだ?」


そう。なぜ木の葉は今までこんなにも人と関わろうとしなかったのに俺とは話すことができるのだろうか。


「似ているから」


木の葉は小さな声でそう言った。


「どういうことだ?」


俺が聞き返すと、木の葉は顔を俯かせて、また小さな声で言った。


「似ているから。私と」


俺は以前、木の葉が誰かに似ていると思った。

だがどうしても誰に似ているかがわからなかった。

でも今の木の葉の一言でそれが明確になった。

そうだ。木の葉は俺と同じだ。

だから木の葉を見ると・・・・・俺は苦しくなる。

俺は木の葉の言葉に「そうか」と一言だけ言ってこの話は終わらせた。

木の葉もそんな俺を察してくれたのか、それ以上この話を続けようとはしなかった。


「なあ、俺にこんなこと話してよかったのか?」

「私は言った、よ。陰山だから、話した」


木の葉の言葉を聞いたあと、俺は少し間を開けてから、今度は別の質問をした。


「・・・・・どうして話してくれたんだ?」

「わからない」


木の葉は地面に顔を向けながら、そう答える。そのときの木の葉の目はとても辛そうで、寂しそうなそんな目をしていた。


「別に無理に考える必要ねぇよ」


俺はそう言って、木の葉の頭をなでる。

さきほど木の葉が俺に配慮してくれたように、俺もこの話を木の葉に続けるのはよくないと思ったので、これ以上つっこまないようにした。

そしてこれ以上俺は木の葉と話すのはおそらくまずいことになると思い、俺がそろそろ帰ろうとベンチを立ち上がろうとしたとき、


「最後に、陰山に、言いたいことが、ある」

「なんだ?」

「それは、ね―――――――――――――――――――」


その木の葉の言葉を聞いてから、木の葉がここを立ち去るまで、俺は一歩も動くことができなかった。




*********


木の葉の過去を聞いた次の日の放課後、今日は部活禁止の日なんだが俺はいつも通り部室に向かった。

ある人と話すために。

そして俺が部室のドアを開けると、誰もいないはずなのに一人の女性が窓の外の夕日を眺めていた。

俺がそのまま部室に入っていくとようやく気付いたようで、俺の方に顔だけ向ける。


「おぉ。来たか陰山」


その女性はまるで俺を待っていたかのように言った。


「なんでここにいるんですか?今日は部活ないでしょ」

「まあそうなんだが・・・・。それより、お前こそなぜここに来る必要がある?」

「ちょっと新川先生とお話がしたくて」


俺が意味深にそう言うと、新川先生は急に笑い出した。


「ハハハハ、陰山とお話か。それは興味深いな。でも」


新川先生は鋭い目つきになって


「どうやら楽しい話ではなさそうだ」


たぶん新川先生は俺の表情を見てそう言ったのだろう。なぜなら俺は今、怒りでどうにかなりそうなぐらいの気持ちで、新川先生を睨みつけている。


「どうした陰山。そんな恐い顔をして」


新川先生はバカにしたような口ぶりで俺に言ってきた。


「あんた。知ってたんだろ」

「なんのことだ?」

「・・・・木の葉の過去のこと」

「あぁ。まあな」

「じゃあなんであんな依頼を受けた?」


俺は怒りでいつもより声を張り上げてしまう。


「・・・・そりゃあ、依頼されたら断るわけにもいかんだろ」


新川先生はしらばっくれた様子で俺に言った。


「違う。あの依頼は鈴木 美月先生からのものじゃない。あれは・・・・・・・・・・新川先生だろ」


俺がそう言ったあと、新川先生は不敵な笑みを浮かべる。


「あまりバレない自信はあったんだがな。なんだ。鈴木先生に直接聞きでもしたのか?」

「まあ聞く前から大体わかってましたけどね。木の葉の過去、先生が部活を第二生徒会にした理由、そして・・・・・・・俺の過去。全部つなげて考えると、なんとなく怪しいくらいはなりますよ」


新川先生は俺のその言葉にも全く動じず、俺に向かって冷静に言う。


「で、私の依頼だからどうしたというんだ。お前は依頼を取り止めるのか?」


おそらく新川先生は真剣にそう俺に言ってきているのだろう。

だが今の俺には皮肉にしか聞こえなかった。


「取りやめるもなにも、俺には木の葉は救えませんよ。それは新川先生が一番知ってるはずでしょ」


俺は先ほどとは違って力ない声で言った。


「先生は何か俺に期待していたんでしょうけど、そんなものは無意味です。あの時から俺の見ている世界は変わっていない。先生が前言ってた言葉通りですよ」


そしてそれはこれからも変わることはない。ずっと。

新川先生は俺の言っていることに呆れているのか、ずっと黙ったままだ。


「じゃあ、俺は用も済んだんで。これで帰ります。」


俺はそう言って振り返り、部室のドアを開けようとすると、


「陰山」


新川先生に名前を呼ばれて、俺は顔だけそっちへ向ける。


「お前はたぶん木の葉を助けるよ」


俺にそう言った新川先生は勝ち誇った顔をしていた。


「そこはたぶんとか付けちゃダメなんじゃないんですか?場面的に」


俺はそう言い残して、部室から出て行った。


その日の帰り道、俺は新川先生にあんなことを言われたからか、木の葉が自分の過去を打ち明けてくれたあの夜、最後に木の葉が俺に言った言葉が思い出される。


――『私は、あと一週間で、この学校を、転校する』――


俺は思う。

もしこれがラノベの主人公だったら、ポンっと一発逆転の方法でも思い付き、あっという間に木の葉を助けて依頼を解決してしまうのだろう。

だが俺は違う。


俺は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・主人公にはなれない。


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