過去
休日もあけ、俺は放課後いつも通り部活をやるために部室行ったんだが、俺が部室のドアを開けると、一人、殺気というものをそのまま具現化したような幼なじみがいた。・・・・・・・・・・・・あれ?いつの間に俺の幼なじみはこんなにパワーアップしたのかな?
「悠人」
「は、はい!」
俺は今の早苗があまりにも恐ろしすぎて、声が上ずってしまった。
「ちょっと、そこに座って」
早苗は俺にそう言うなり、部室の真ん中にポツンとある椅子を指さした。
いつもはそこに長方形のテーブルが一つとイスが五つほど置いてあるのだが、なぜか今はその状態になっている。
「はい」
俺は早苗の言うことに従って、早苗の指さす椅子に座った。
「悠人、あたしになにか言うことはない?」
早苗はとてつもない形相で俺を睨みつけながら俺に言う。
「な、何の話でしょうか。全く思いつきませんが」
今日の早苗はマジでやばい。
あまりにもの恐怖で思わず俺、敬語になっちまったよ。
俺の答えが気に入らなかったのか、早苗は「ふーん」と言いながらまるで犯罪者を見るような目で俺を見てくる。
「な、なんだよ。何にもないんだからそんな目で見るんじゃねぇよ」
ったくこいつは一体何で怒っているんだ?さっぱりわからん。
「ウソね」
「う、うそじゃねぇよ」
早苗は俺の言葉を聞くと何やら制服の内ポケットから何かを取り出した。
どうやらそれは何かの写真のようだ。
「これは一体どういうことよ」
俺は早苗が見せてきた写真を見ると、そこにはプリクラの中から出てきた俺と木の葉が写っていた。
「な・・・・」
あまりにもの衝撃のために俺は言葉が出てこない。
「これ!どういうことか説明してくれる?」
「いや、これはなんといいますか・・・・事故と言いますか・・・・・」
「女の子とプリクラ入るのにどうやったら事故になるのよ」
絶対なりませんね。すみません。
でもどうしようか。
このままだと割と命の危険を感じるのでどうにかしなければならないが。ったくどうして俺がこんなラノベの主人公みたいな目にならなきゃいけないのだ、面倒くさい。しかもこっちは冗談抜きで命の危機が迫ってるんだぞ。ホント勘弁してほしい。
「そういや、お前なんでこんな写真持ってるんだよ。風邪だったんじゃないのか?」
俺はとりあえず話を逸らすことにしました。
「ぎくっ・・・・」
「ん?どうした?」
「そ、それは・・・・・本当は悠人と一緒にいたかったけど、新川先生に止められて・・・・・・それで悠人が他の女にたぶらかされないか心配だったからで・・・・・」
早苗の声が小さすぎて何も聞こえないんだが・・・・・。
「と、とにかく、この写真の意味を教えなさいよ!」
えぇー。そんな強引なスルーの仕方ある!?俺の話逸らそう作戦が台無しじゃねぇか。
「別に意味なんてねぇよ。新川先生も桜空もその日お前と同じように風邪で休んだから、俺一人で木の葉の調査をすることになったんだよ」
俺は間を開けずに続けて話す。
「それで俺がミスって木の葉と接触しちまって、それからこういう流れになったんだよ」
「へー」
「なんだよ?」
「いーや、別に。なんか大事なところが色々飛ばされてるような気がするけどまあいいわ」
なにが飛ばしてるだ。包み隠さず全部話したじゃねぇか。
まあ、木の葉をちょっと可愛いと思ったことは話してないけどさ。
別に早苗に話すのが恐いとかじゃねーし。全然ちげーし。ただ話す必要がないだけだし。
俺が自分にそう言い聞かせていると、バンッという音とともに桜空と新川先生が部室に入ってきた。
「おう」
俺がそう桜空にあいさつすると、桜空は申し訳なさそうに
「遅れてすみません。掃除当番だったものでして」
「別にちょっとくらい良いのよ」
なぜ早苗がそれを言う。
とりあえず部員が全員揃ったということで、机と椅子を元の位置に戻してから俺は気が進まないが部長なので仕方がなくいつもやってるように言った。
「じゃあ今日も部活始めるか」
俺がそう言うと、俺ら第二生徒会は木の葉の件について話し合い始め
ガシッ!
・・・・・・・なぜか俺の頭が鷲掴まれてるように感じがするのは気のせいだろうか。
「おい。なに顧問を無視して始めようとしているんだ?」
どうやら気のせいではないようです。
そしてこんなやり取りをしてなんだが、今日もいい案は一向に出ずに終わってしまった。
果たしてこんなんで第二生徒会はこの依頼を解決することはできるのだろうか。
*********
その日の帰り道、そういえば花実(忘れているだろうが俺の妹である)にカレー用のじゃがいもを買ってこいと頼まれているのを思い出し、俺は近くのスーパーに寄ることにした。
そしてスーパーの中に入り、ちゃっちゃとじゃがいもを買って外に出ると、スーパーの前で何やらパンパンに詰まった重そうなビニール袋を二つ持とうとしているロリ銀髪少女がいた。
まあここまで言えばわかると思うが、その少女はうちのロリ学校の転校生、じゃなくてうちの学校のロリ転校生こと木の葉 雫である。
ちなみに俺は二つのビニール袋を持とうとしていると言ったので、厳密に言うと持っていない。
おそらく重すぎてモテない、違う違う、持てないのだろう。
モテないのは俺だって?ハッハッハ、俺はモブだからモテなくていいのだ。ハッハッハ・・・・・・自分で言ってて悲しくなってきたな。
「おい」
俺ががんばって袋を持とうとしている木の葉に話しかけると、木の葉は顔だけ後ろを向けて俺を見るなり「あ、陰山」と言って、今度は体ごとこちらに向けた。
「これ持つの大変じゃないのか?」
「だ、大丈夫」
木の葉はそう言いつつも明らかに動揺している。
「いやいや、そこで無理しなくていいから。ちょっとそれ貸してみ」
俺がビニール袋を指さして言うと、木の葉は俺にビニール袋を一つ渡してきた。
「そっちも」
俺は木の葉が渡してきたビニール袋を手に取って、自分のじゃがいもの入った小さなビニール袋をそれに入れてから、木の葉の持っているもう一つのビニール袋にも指を指す。
木の葉はそのビニール袋もさっきと同じように俺に渡した。
「何するの?」
木の葉は疑問に思ったのか俺にそう尋ねる。
「で、お前の家どこだ?」
俺がそう言うと、木の葉はなぜか驚いた顔をしていた。
「どうした?」
「いや、いい。自分で運べる」
「別にいいよ。俺あんまり家に早く帰ると色々と危ないから」
主に俺の貞操とか
「そ、そう」
木の葉は意外にもあっさりと承諾してくれた。
俺はもっと粘られると思ったのだが、予想が外れたな。
「こっち」
木の葉はそう言いながら、もう自分の家の帰り道を歩き出している。
「おう」
そう応えながら俺もそれに続いて歩き出した。
そして歩いてから数分後、
俺と木の葉はもう住宅地を歩いていた。どうやら木の葉の家はここだへんのようだ。
「陰山」
木の葉は聞こえるか聞こえないかの小さな声で俺の名前を呼ぶ。
「ん?なんだ?」
「・・・・私は人が嫌い」
唐突に木の葉は俺に言ってきた。
「そうか」
俺の反応が予想外だったのか、ずっと俺の前を歩いていた木の葉は立ち止まり振り返って俺を見る。
「どうした?」
「私がこれを誰かに言うと、その人からすごく軽蔑をされる」
「普通のやつだったらそうかもな」
「陰山は普通じゃない?」
「まあな。なにせモブキャラを目指すくらいだからな」
「モブ、キャラ?」
木の葉は俺の放ったモブキャラという言葉にキョトンとした顔を見せる。
「それより別に俺は人が嫌いなやつがいてもいいと思うぜ。そりゃ誰だって嫌いな人がいるわけなんだから、その対象が人全員の場合だってあるだろ」
俺が軽く笑いながら言うと、木の葉はまたもやキョトンとする。
「そんなこと、言われたの初めて」
「そりゃそうだろうな。俺もこんなこと言うやつ見たことない」
俺がそう言うと、しばらく沈黙が流れた。
そして、俺は話の話題を何となく変えようと木の葉の家はどこか聞こうとした瞬間、
「陰山」
再び、木の葉が俺の名前を呼ぶ。
「なんだ?」
「話がしたい」
木の葉は俺にそう言うなり、近くの公園で俺は木の葉と話すことになった。
*********
公園に着くと、もうあたりは真っ暗で公園の電灯も白く光っていた。
俺と木の葉はとりあえずベンチに座ると、木の葉は話しづらいことなのだろうか、なかなか俺に話を切り出そうとしなかった。
もうすぐ夏だというのにまだ夜は気温が低く肌寒い。
そしてしばらくすると、木の葉はようやく話す決心がついたのか横にいる俺の顔を真っ直ぐに見つめてきた。
「今から話す、ね」
木の葉は少し震えた声で俺にそう言う。
俺はその言葉に頷くと、木の葉は再び口を開いた。
「私の過去の話」
「・・・・木の葉の過去?」
「そう」
「いいのか俺に話して、何か大事な話じゃないのか?」
俺がそう問いただすと、木の葉は少し俯きながら言った。
「これを、人に、話すのは、陰山が、初めて」
「それならなおさら」
「いい」
俺の言葉を木の葉は遮って、その後に小さな声で言う。
「陰山だから、話す」
「・・・・そうか」
俺がそう言った後、再び沈黙が流れ、その後に木の葉が自分の過去の話について話し始めた。
「私は―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
――――
私は中学の時は部活とか委員会とかにも普通に入っていて友達もたくさんいた。
だから私は友達と沢山お話もしたし、部活もテニス部に入っていて試合に勝ったりすると、同じ部員同士で喜びを分かち合ったりして、その頃はとても楽しかったし、この時がずっと続けばいいのになと思っていた。
・・・・・・・・・・だけど悲劇は突然やってくる。
私はいつも通りテニス部の朝練をするために登校時間のだいぶ前に学校にいくと、靴箱に女子生徒が三人集まって何かをやっていた。
「何をやっているんだろう」
私はそう思い、その三人の女子生徒が去ったあと女子生徒たちが何かしていた靴箱の所に行ってみると、鈴山 梨香と靴箱に書いてあった。
私はその生徒の名前に聞き覚えがある。
おそらく私がいるクラスと同じクラスの生徒だろう。
私はあの女子生徒たちがさっきなにをやっていたのか気になって、申し訳ないと思いつつ、その靴箱を開けるとそこにはA4くらいの紙が折りたたんで大量に入っていた。
恐る恐るその紙を手に取って開いてみると、そこには「クズ」や「消えろ」などと鈴山 梨香に向けたものであろうひどい言葉が書いてあった。
そう、鈴山 梨香はいじめられていたのだ。
私はすぐに紙を靴箱に戻し、急いでテニスコートに向かった。
そして私はこの時あることを決めた。このことはなかったことにしようと。
私は何も見ていないし、何も知らない。それでいいと。
私がいじめの件を知ってから数日後、
私は放課後、なんと鈴山 梨香に教室に呼び出され、いじめの相談をされた。
「お願い、木の葉さん」
「そんな、私じゃ無理だよ」
鈴山 梨香からの相談内容を詳しく言うと、私が鈴山 梨香をいじめている連中にもういじめをやめるように言ってやめさせるという、何とも単純で絶対に上手くいかないものだった。
しかもこれはもはや相談ではなくお願いである。
「大丈夫だって。木の葉さんなら」
「私よりも先生とかに頼むとか」
「先生なんかに頼んでも、一瞬注意するだけでまた始まるに決まってんじゃん」
「それなら私が言ったところでもっと意味がないんじゃ」
「木の葉さんが言うのと先生が言うのじゃ全然違うよ。木の葉さんこのクラスで、その・・・・権力?みたいなのすごいあるし」
「そんなことは・・・・・」
「お願い。もう頼れるのは木の葉さんしかいないの」
鈴山 梨香は手を合わせながら頭を深々と下げて、私に頼み込む。
それはまさに真剣そのものだった。
私は鈴山 梨香に呼び出された時にすでにいじめの話をされるだろうとは思ってはいたし、もし助けてくれと言われても一切それを受けるつもりはなかった。
だが、私は今の鈴山 梨香の姿を見ると思ってしまったのだ。
私が力になれるのならと、私がこの人を救えるのならと。
そして気づいたときにはもう後戻りはできなくなっていた。
「いいよ」
私が笑顔でそう言うと、鈴山 梨香はとても嬉しそうな様子で何度もありがとうと頭を下げていた。
しかし私は知らなかったのだ。
これから起きる出来事がどれだけ悲惨なものになるのかを。




