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俺は早苗が走り去ったあとに残り五百メートルぐらいの道を十五分くらいかけるくらいのペースでゆっくり歩いていた。なんせあまり速く歩いて、万が一、早苗に追いついてしまったら言い訳のしようがないからな。

先に行ったはずの俺が後ろから現れてくるのだ。いくら早苗でもそんなことが起きたらあのおじさんが俺だったことに気づくだろう。

いや、もしかしたら・・・・・・・いやいやいや、考えるのはやめておこう。早苗はそんな馬鹿な子じゃないのだ。やればできる子なのだ。

今はきっと本気を出してないだけで、これから伸びる子なのだ。

だから先生!この子のやりたいようにやらせてやってください!!

俺は高3の夏休み中の三者面談で志望校が最低判定にもかかわらず、担任の言葉を無視して志望校をゴリ押しする保護者のようなことを考えていると、(中学の担任曰く、こういう人は浪人になっても受からんらしい。俺は知らんけど)もう校門の前に立ってて、目の前にはが校舎あった。

いきなりだが、ここで俺の通う高校について説明しよう。

高校名は塔山高校。

偏差値、ちょーふつう。部活動、特別強くも弱くもない。それ以外、特になし。

ここまでの説明を聞いて普通の人だったらどう思うだろうか。

まあ大半は「地味ー」とか「なんか、フツーじゃね」とかそんな感じだろう。

そうだ。そうなのだ。

この学校は特にこれといったものがなく、本当に悪くもよくもない

フツーの学校である。この世のすべてが『シンプル・イズ・ザ・ベスト』ならこの学校は倍率100倍レベル。

ではなぜ俺がこんな、ものすごく普通な高校に来たかというと、(どこからか"そんなこと話さなくていい"とか聞こえるが、今回は無視)この学校は俺にとったら一番いい学校だからだ。

一番いい学校の理由、それはこの学校は俺の住んでいる家の地区の中で一番広いこと。

えっ?とか思うやついるかもしれないが、俺にとっては学校の広さは勉学の良さよりも、部活の強さよりも大事なのである。

なんせ俺はモブキャラを目指すのだから、全く目立ってはいけないまではいかなくとも、派手に目立ったり、悪目立ちするのは絶対に避けたい。

だから、俺は変な悪い集団に絡まれたりとか、昼休みとかで適当にスポーツやってたら才能見込まれて、部活に入れさせられて、そのまま全国行っちゃうとか起きたら困るので、そんなことに遭遇しないように人口密度が必然的に小さくなる広い学校にしたのだ。

はっはっはっはっ!我ながら完璧な策だ!

それにしてもなんだかいろいろ間違ってる気もしなくもないが・・・・・・・・・・・・・・まあ、気のせいか。

とりあえず学校についてや、俺がこの学校を選んだ理由などを一通り説明し終わったので(誰にかわからんが・・・)校舎の中に入ることにした。

っていうか入んなかったら、入学できないし。




*******




校舎の中に入って十分ぐらいだろうか。正確ではないがそのぐらいは経過していた。

おそらくもう入学式が始まっている頃ではないだろうか。

なんでそんなことを言うのかって?だって今俺は・・・・・



「ここは、一体どこじゃーーーーーーーーーーー!!!!!」


ただいま絶賛迷子中デス♡

なぜ俺が学校ごときで迷子になっているかというと、どうやらこの学校には旧校舎と新しい校舎があるらしく、俺は現在使われていない、旧校舎のほうに入ってしまったようだ。

最初は入口まで引き返そうかと思ったが変に中途半端なとこまで来てしまったので、どうせなら本物の校舎に近い出口でも探そうと歩いていたらこのザマである。

ちなみに俺がさっきこの校舎に入る前にあった校門は、裏の校門であり本当の校門は裏の校門と真逆の方向にあるらしい。

もう一つちなみにこの情報源、全部ググりました。スマホで。

我、現代人ですから。

しかし、オープンキャンパスも入学説明会もすべて面倒くさいから仮病使って休んだツケがこんなところに回ってくるとは。

この学校の敷地の構図が全く分からん。

よい子は絶対真似しないでね。

さて、とにもかくにも、まずこの旧校舎から出ないと何も始まらないわけなんだが。

俺はこの旧校舎の構造ももちろん全くわかってないので、どこに出口があるかわからない状況なのである。

正確には全く見つからないわけではなく、見つけても鍵がかかっているのである。

なにこれ、アプリの脱出ゲームかなにかですか?

ともあれ、どこかに先生とか生徒とか人がいてくれないだろうか。


「ちょっと!」


俺が(わら)にもすがる思いでそんなことを思ってると、ちょうど人の声が聞こえた。

おそらく声色から察するに女の声だろう。

よし!今の声の人のところまで行って、ここから出る方法を教えてもらおう。(もはや感覚がリアル脱出ゲーム)

そして俺は声が聞こえた方向まで急いで行ってみると、声は女の声しか聞こえなかったのに、そこには女ともう一人男がいた。

どちらも俺と同じ制服を着ているようだ。

普通に考えてこの学校の生徒だろう。

男子生徒は金髪でまさに不良といった感じで、女子生徒のほうは黒髪で顔は距離が少し遠くてよくわからなかった。

しかし困ったな。

あの女子生徒一人だったらよかったんだが、二人いて、さらに男女とは。

推測するに、たぶんあの二人はカップルなのだろう。

しかもここは人目の少ない旧校舎だ。

このまま奴らが変なことをしだしでもしたら、俺はエロゲーのヘタレ主人公みたいになってしまう。

嫌だぞ俺は!入学早々にそんな十八禁展開なんか!

俺は普通にモブキャラのようになりたいのであって、エロなんか微塵もいらないのだ。なんならラブコメも。

まあとにかくここは撤退という選択肢以外他にない。

そう考え、俺はその場を離れようとすると


「やめてください!」


急に女子生徒がでかい声でそんなことを言うので。俺は歩き出そうとした足を止めてしまった。

なんだ?痴話喧嘩か?

俺はその声を無視することも考えたが、何か変に気になってしまったので少しだけ彼女らの話を聞くことにした。

もちろん盗み聞きなんだが。

もし彼女らが変なことを始めたら全力で走って逃げよう。

あっちに気づかれるとかそんなことはどうでもいい。

とにかく見たくないのだ。

俺がせっかくここまで磨き上げてきた純粋ハーツを絶対汚されたくない。

えっちぃのは、嫌いです。

そんなことを勝手に決意しつつ、俺は彼女らの会話の内容を聞くために耳を澄ませると、今話している不良の男子生徒の声が聞こえた。


「なあ、お嬢ちゃん。俺とどっかに遊びに行こうぜ。学校なんか行かなくてさー」

「やめてください!人呼びますよ!」


俺はこのワントークを聞いただけで一つだけわかったことがあった―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――これ、カップルじゃなくね。


俺が推測するに、というか推測するまでもなく、確実にあの男子生徒はあの女子生徒にナンパをしているだけだったようだ。

しかしナンパというにはなんというか、ベタというか、低レベルというか。

まあ俺はナンパなんか一回もしたことないんだけど。

俺が心の中でそんなことを思っているとは知らずに、不良は女子生徒に対してナンパを続ける。やはり低レベルの。


「なーいいだろー。カラオケ行こうぜ。カラオケ」

「嫌です!本当にやめてください!」」


不良はこんな低レベルのナンパでは通用しないと気づいたのか、(たぶんそんなこと一ミリも思っていない)今度は女子生徒の手首をつかんで、強引にナンパをしてきた。ってか、もはやこれナンパではない。

・・・・ん?ちょっと待てよ?

もしこのままあいつが手首だけで収まらずに、もっとやばいことをしでかしたら、それは―――――――――――――――――――――――――― 十八禁展開!!

いやいや、あの人も人間のはしくれだ。さすがに常識ぐらいは・・・・・・

不良を見るとさっきまで手首にあった手がすでにもう腕をつかんでいた。


・・・・・・・・・・おい。


これを見た瞬間俺の中でモブキャラ選択スイッチが押され、頭の中にギャルゲーのごとく選択肢が出てきた。今回はどうやら二つのようだ。


1.逃げる       2.助ける

まず一番。

最高の選択肢ではないか。

これなら十八禁展開も見なくて済むし、相手にも気づかれないので、目立つこともなさそうだ。

二人に見られたからって目立つわけないだろとか言われそうだが、そこはシビアにいかなければならない。

油断は足元をすくわれる。弘法も筆の誤りというやつだ。違うか?(ちげ)ぇな。


次に二番。

もはやありえない選択肢。選ぶこと皆無だ。

まず最初に、助けられる保証などどこにもないし、たとえ助けられたとして二人の人物に確実に顔を覚えられしまう。


まだあの女子生徒の方はいいかもしれないが、あの不良に顔を覚えられたら色々と面倒そうである。

よくドラマかなんかでチンピラを倒したら、次はその仕返しにグループのボス的なやつが大勢のチンピラつれて、「よくもうちの奴に手出してくれたなぁ」とかいう感じになるのを見たことがある。

ヤ○クミならそういう場面でも、着けてたメガネぶん投げて、縛ってたヘアゴムほうり投げれば勝てるのかもしれないが、俺はそんなの到底無理だし、まっぴらごめんだ。

第一、俺はメガネをかけてなければ、髪形もおさげではないし、数学の先生でもなければ、組長の孫でもない、そう、モブキャラとしてひっそり生きていきたいただの高校生なのだ。だから二番の選択肢はあり得ない。

俺は一番を選択することを決めると、早速この場から離れようと体を百八十度くるりと回転させる。

そして、俺はそのまま歩き出そうとした、そのとき


「やめて!」


今までにないくらいに女子生徒が大きい声を上げ、もはやそれは悲鳴に近かった。

その声に反応してしまったのか、気が付くと、俺が踏み出そうとした足は止まっていた。


おいおい。なんで止まる必要がある?俺には関係のないことだろ。

あの子がどうなろうと俺にはプラスもマイナスもない。

それでいいじゃないか。

人を助けるなんて無意味なことだ。無価値なことだ。そうだ。だから俺は何も考えずにここから立ち去ればいい。

そう自分に言い聞かせ、再度俺はその場から離れようと歩き出す。


「やめてください!誰か、誰か助けて!」

「・・・・・・・・!?」


俺はその助けを求める言葉を聞いた瞬間、フラッシュバックのように昔のことが頭によぎる。



―――『悠くん・・・・・・・・・ごめんね』―――



・・・・・・・・・・ちくしょう!

俺は歩き出そうとした足を止め、再度百八十度体を回転させ、女子生徒と不良がいるところに走っていった。


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