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救えない

俺と木の葉はアイスクリームの店がある場所に着くと、すぐに二人ともアイスを買った。最初は俺が取ってあげたジュースの借りを返すために木の葉が俺にアイスをおごるというものだったが、俺が「借りを返すんだったら、一緒にアイスを食べてくれ。木の葉の分は俺が払うから」と無理やり説得したら、渋々オーケーしてくれた。

まあ結局俺と木の葉のおごりあいになったというわけである。

ちなみに俺はバニラ味のコーン付きで、木の葉はチョコチップのこちらもコーン付きだ。

そして、俺と木の葉はアイスクリームのお店の近くにあるベンチに座ると、俺は新川先生から言われた調査のことなど忘れて木の葉と他愛もない話をする。


「そういえばさ、木の葉のその髪って地毛なのか?」


俺は目だけ木の葉の銀髪を見てそう言った。


「そう」

「ふーん。やっぱ親戚が外国人とかそういうことか?」

「そう。お父さんの、おばあちゃんが、ヨーロッパの人だから」


なるほどな。クウォーターってやつか。

俺はバニラのアイスを食べながら、一人納得していた。

それでふと木の葉を見ると、木の葉は俺のアイスをガン見している。


・・・・・・・・・・・これ、欲しいんだね。


俺は木の葉の心理を察すると、俺の持っていたアイスを木の葉の前に差し出す。

念のため言っておくが、俺が口を付けたところと逆側の部分を差し出したから、木の葉が食べたとしても間接キスにはならないぞ。

モブキャラを目指すものとしてそんなイベントは不必要なのである。


「食べるか?」


俺が木の葉の前にアイスを差し出して言った。


「うん」


木の葉は俺のアイスをその小さな口でパクッと一口食べてから


「おいしい」

「そうか。そりゃよかったな」


木の葉は口の中にある俺のアイスを食べ終わると、自分のアイスを俺の前に差し出してきた。


「俺にくれるのか?」


俺がそう聞くと、木の葉はこくんと頷く。


「いや、俺はいいよ。木の葉の分がなくなるだろ」


と言いつつ、木の葉の差し出している部分がもうすでに口をつけている部分なので困るからなのだが。


「ダメ。食べて」


この押しはなんなのだろうか。

まだ借りがどうのこうのとか考えているのだろうか。

どうやら断り切れそうないので俺は仕方なく木の葉のアイスを食べることにした。


「わかった、わかった」


まあ食べるにしても、木の葉の口をつけていない部分を狙えばいいだけの話だしな。

俺は木の葉の口をつけていないだろう場所に狙いを定めて、パクッと一口食べた。


「おいしい?」

「おう。うまいぞ」


俺は木の葉に笑顔で答えた。


「そう」


木の葉の声のトーンは通常だったが、どことなく嬉しそうな様子だった。

自分のアイスを褒められてよっぽど嬉しかったのだろう。

木の葉はそのまま自分のアイスを食べる。しかもその食べた部分は俺が口を付けた部分と同じだった。

あれ?そういやこれも間接キスになるんじゃないだろうか?うん、なるね。

俺は意外な盲点があったことに気づいたとき、木の葉が俺の後ろの方をじーっと見ていた。

俺は木の葉の視線の先を見てみると、そこには俺らと同じ高校生と思われる三人組の女子が座りながら会話を楽しんでいた。


「あの人達がどうかしたか?」


俺が尋ねると、木の葉は顔を俯かせて


「中学の、同級生」

「へー、そうなのか」


俺はもう一度、その木の葉の同級生とやらを見る。

木の葉と違ってなんか・・・・・・チャラいな。

俺はそう思った後、木の葉の方に顔を戻すと木の葉はまだ顔を俯かせていた。


「?どうした?」

「何でもない」


木の葉はまだ顔を俯かせたままそう答える。

ホントにどうしたんだ?・・・・・・・・あぁ、もしかして俺がいるから話しにいけないんだろうか。

それなら少し引っかかるが納得できなくもない。


「悪ぃ、俺ちょっと向こうで軽く買い物してくるわ」


俺がそう言って席を立った瞬間、手首を掴まれる。


「・・・・木の葉?」

「ちょっとだけ、ここにいて」


木の葉は俺の手首をぎゅっと握ったまま、弱々しい声で言う。


「お、おぉ」


俺はそう言った後、再び席に座った。

結局、あの女子高生がいなくなるまで、俺は木の葉の傍にずっといることになり、その女子高生がいなくなったあとは、木の葉は用事があるなどと言ってすぐに一人で帰っていってしまった。

俺も木の葉と別れたあと、帰宅しようと歩いていた帰り道、俺は一つ木の葉の件で引っ掛かってることがあった。

確かにあの女子高生が来てから様子がおかしくなったのもそうなんだが、俺が席を立ったあと、木の葉が俺の手首を掴んだとき、木の葉はどこか怯えていたのだ。

たぶん俺はそれがどういうことを示すのかを知っている。

そして俺はこの時思った。

俺はおそらく木の葉 雫を――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――救えない。




**********



陰山が木の葉と初めて接触したときのお嬢様と幼なじみとアラサー顧問のお話。


お嬢様と幼なじみとアラサー顧問の三人は陰山と同じく食材売り場に来て、陰山を監視していた。


「あ、陰山さんが木の葉さんとお話していますよ」

「ったく、接触はやめろってあいつが言ってたのにあいつが接触するとはな」

「でも一体何を話しているんでしょうか?」

「どうせあいつがいらぬおせっかいしているだけだろう」

「新川先生はよくそんなことが分かりますね」

「まあ腐っても親戚だからな」


新川先生は笑いながらそう言ったが、果たしてそれだけだろうかと桜空は少々疑問に思った。


「しかし、柚原さんはどうするんですか?」


桜空は心配そうに柚原を見つめながら、新川先生に尋ねる。


「どうするも何もないだろ」

「いや、さすがにこの状態のままにするのは・・・」


桜空は苦笑しながら新川先生に言った。

まあどうして桜空が柚原のことをこんなに心配しているのかと言うと、柚原は今簡単に言うとうつ状態である。


「すいません、すいません。もうしません、もうしません」

「そんなこと言われたって仕方がないだろう。こいつが陰山の場所まで行くと言ってきかなかったんだから」

「それでも、柚原さんにあんなことをする必要はなかったのでは」

「なんだ?腹に一発拳をぶち込んだ後、少し脅しをしたことか?」

「脅しなんてしていたんですね」


桜空は新川先生に聞かれないように小さく呟く。


「まあ確かに今考えるとちょっとやりすぎたかもな」


新川先生は少し反省したようで、そう言いながら柚原の元に行く。

柚原は相変わらず、すいませんとごめんなさいを繰り返し呟いていた。


「おい、柚原。陰山がお前の可愛いっていっていたぞ」


新川先生はそう柚原の耳元で小さく言うと、柚原はさっきまでのうつ状態は嘘のようにパーッと笑顔になる。

桜空は新川先生が柚原になにを吹き込んだのかわかっていないので、

その様子を見てキョトンとしていた。


「ほ、本当ですか?」

「あぁ。本当だぞ」


柚原はその言葉を聞いて、「わーい、わーい」と喜んでいるようだ。

桜空はなんだかよくわからなかったが、とりあえず柚原が元気になったので安心した。

あと、陰山の方を見ると、木の葉が陰山の手を引いてどこかに行こうとしていた。


「新川先生。陰山さんが動きました」

「おぉ、そうか。私たちも追うぞ」


新川先生がそう言うと、桜空と柚原も新川先生に続いて陰山を追っていった。

柚原はさきほどから「ついに悠人も私を」とかよくわからないことを言っていたので、今の柚原には関わらない方がいいと思う桜空だった。




********



陰山が木の葉とゲームセンターを楽しんでいるときのお嬢様と幼なじみとアラサー顧問の話。


「もうなんであんな楽しそうなのよ」


さっきまで絶好調だった柚原は木の葉と陰山の様子を見てプリプリと怒りながらそう言った。


「それはゲームセンターだからではないでしょうか」


桜空が冷静に柚原に言うと。柚原は横に首を振りながら、


「桜空さんはわかってないわ。ゲームセンターといえど好きでもない女と来たって全然楽しくないはずよ」

「では陰山さんは木の葉さんが好きということでしょうか?」


桜空が疑問を柚原に投げつけると、柚原は少し動揺しながら


「そ、そんなことあるわけないじゃない。あれは愛想笑いよ。愛想笑い」


柚原は笑顔の陰山を指さしながらそう言う。


「そ、そうなんですか?」

「そうよ。そうに違いないわ。・・・・たぶん」

「そうなんですか」


この時、桜空は何となく柚原の言っていることが違うことに気づいていたが、それをツッコむと柚原がまたうつ状態になりそうなのでやめておいた


「あ、今陰山さんが大きな箱のようなものに入りましたよ」


桜空が陰山を見るなりそう言う。


「え、大きな箱?」


柚原は桜空の言葉に?を浮かべながらその大きな箱と思われるものを見る。


「あ、あれは・・・・・・・プリクラ」


柚原はそう言った後、またうつ状態に戻ってしまった。

それから桜空が呼びかけても反応がなく、どうやらこのまま陰山を追うのは無理だと判断した桜空は新川先生に今日の解散を提案しようした。


「新川先生、今日はもう・・・・・・新川先生?」


桜空は周りを見回しても新川先生はいなかった。

それでもしかしたらと思い、桜空は携帯を見ると、やはり新川先生から一通のメールが来ていた。


『すまん。もう疲れたので帰る』


このメールを見て、アラサーと高校生の体力の差がどれくらいあるのかを感じた桜空であった。


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