調査
次の日の休日。俺は新川先生が昨日言った通り、ちょうど朝九時に木の葉 雫の家と思われるところの周辺に来ていた。
木の葉の家の場所については新川先生が昨日メールで送ってくれたので、全く迷わなかったのだが・・・・・・。
「なぜ、誰も来ない」
俺は一人で小さく呟く。
もう集合時間を過ぎてるというのに、俺以外誰も気配が来る気配がない。
まあ遅れているのなら、それはそれでしょうがないのだが、連絡の一つくらいはあってもよさそうな気がするが。
俺は何とも言えない不安に襲われながら待つこと数分後、俺の携帯に一通のメールが来た。
チロリロリーン
「ん?なんだ?」
俺はポケットから携帯を取り出して、メールの内容を見ると、送り主は桜空だった。
『体調を崩してしまい、今日は行けなくなりました。本当に申し訳ありません。コホン、コホン』
そうか。
今日は桜空体調崩しちまったのか。
それはしょうがない。別に無理してくるようなことでもないしな。
俺は桜空に『謝らなくていいぞ。今日はゆっくり休んどけ』とメールに書いて返信した。
でも俺はこのメールであることに気づいてしまった。
「ってことは、俺と早苗と新川先生の三人か」
うん、何というか・・・・・地獄?
俺はそんな恐怖感で待ちながらさらに数分後、
チロリロリーン
またもやメールが来た。今度は新川先生からだ。
『すまんな。今日は体調を崩してしまった。本当にすまんな。コホン、コホン
』
なんだと!?あの新川先生が風邪?そんなことが起こるのだろうか。
まあ自分で言ってるからには本当なのだろうが。
でもまさかアラサーモンスターで知られる(俺が中学の時に勝手につけた異名)あの新川先生が風邪を引くとは。
近頃の風邪さんもずいぶん優秀になったものだ。
俺はとりあえず新川先生に『そうですか。悪化させないように今日は十分に休息をとってください』とメールで送った。
新川先生と桜空がいないってことは、今日は俺と早苗だけってことになるな。
・・・・・・・・・生き地獄?
俺はそんなこと考えながら、さらに待つこと数分後、
ピピピピッ!ピピピピッ!
また俺の携帯が鳴り始める。だがメールではなく、どうやら電話のようだ。
俺は携帯を再びポケットから取り出すと、画面には早苗という文字が出ていた。
「げっ」
俺は一瞬出るか出ないか迷ったがここで出なかったら、学校で会った後に何をされるかわかったもんじゃないので、渋々出ることにした。
「はい。もしもし」
俺が電話に出ると、何やら「お前は何をするんだ」とか「先生こそ、何するんですか。あたしの邪魔はさせませんよ」とか騒がしい声が聞こえる。
「・・・・・あの、もしもし?」
『あっ、悠人?聞こえてる?』
「あ、あぁ」
『悠人いいからあたしの言うことをよくきいて』
早苗はまるでバトルラブコメとかで何かを主人公に託すヒロインのようなセリフを吐く。
あれ?早苗ってそんな、か弱い系ヒロインだっけ?
俺は早苗の発言に疑問を抱いてる中、早苗は続けて話す。
『悠人。あたしはどんなことがあってもそこに行くからね。って、ちょっとやめてください。い、いい?絶対行くからそこで待っ、ぐふっ・・・・・・ピーッピーッ』
早苗はまだ話している途中だったのだが、なぜだか急に通話が切れてしまった。
というか最後早苗が誰かに殴られた音が聞こえたような・・・・・・気のせいだよな。
チロリロリーン
また俺の携帯が鳴った。今度はメールのようだ。
俺はまたかと思い、少し面倒くさそうに携帯を見ると、そこには早苗からのメールが表示されていた
『すみません。私、ではなくてあたしは風邪で今日は行けそうにありません。本当にすみません』
・・・・・・・・・・・・・・・おい。
チロリロリーン
またメールが来たので、俺はメールを見る。
『言い忘れてました。コホン、コホ』
「もういいよ!!」
俺は思わず携帯にツッコんでしまった。
どうやら俺はハメられたようです。
********
俺はハメられたことが分かって、すぐに新川先生に電話をした。
『おぉ。どうした陰山』
おい、あんた絶対風邪ひいてねぇだろ。
「どうしたじゃないですよ。何変なこと企んでるんですか」
俺がそう新川先生に聞くと、新川先生は明らかに動揺した声色で言う。
『た、企んでなんかないぞ。ただ私と桜空と柚原が“たまたま”一緒に風邪引いちゃっただけだぞ。勘違いするなよ』
「いやいや、なにツンデレで誤魔化そうとしてるんですか。大体まず桜空と早苗の風邪のこと知ってる時点でおかしいでしょ」
しかもおそらく早苗からのメールは文面的に桜空が打ったように思える。
つまり新川先生が何かしら桜空に指示を出して早苗の携帯を使ってメールを桜空がメールを送った違いない。
早苗は電話の様子だと来たかったみたいだからな。
よっぽど俺のお金を使って何か買いたかったんだろう。・・・・・・ホント早苗って恐ろしい子。
『と、とにかく私は風邪だからな。もう切るぞ。木の葉の調査は陰山、お前の手にかかっている。そういうことだからじゃあな』
「ちょ、おい。・・・・ったく切りやがった。何が俺にかかってるだ。最初から押し付ける気満々だっただろ」
しかし困った。
俺一人で木の葉をストーカー(新川先生は調査と言ったが)しなきゃなんないなんて。
・・・・・・・俺、捕まらないよな?
俺がそんな心配をしていたら、急に木の葉 雫の家の扉が開く。
そして家から出てきたのはなんと木の葉 雫だった。
まるで図っていたようなタイミングだ。
俺はあまりにも短い時間に色々起こりすぎてかなり動揺していたが、このままだと木の葉 雫を見失ってしまうので、俺は一人で木の葉 雫の跡を追った。
何やら後方から三つの視線を感じたが、まあ気のせいだろう。
********
俺は木の葉 雫を追い続けること数十分、木の葉 雫はどうやらデパートに向かっているようだ。
一人でデパートなんか行って何をするのだろうか?
俺がそんなことを考えていると、木の葉 雫はデパートに入っていったので、俺もなるべく距離を開けてから、それに続いてデパートに入った。
デパート内に入ると、木の葉 雫はエスカレーターで二階に上がって、そのまま真っ直ぐ歩いていた。
どうやら食材売り場に向かっているようだ。
朝九時過ぎから食材探しとは。
そこいらの専業主婦よりも主婦らしい高校生である。
そして木の葉 雫は食材売り場に着くと、一つ一つ丁寧に食材を見ていく。
いや、だからあなたは主婦ですか?ロリで銀髪で家庭的。
なんだこれ。キャラが濃すぎて萌えもなにもあったもんじゃない。
俺が勝手に木の葉 雫の文句をぶーぶー心の中で言っていると、木の葉 雫はなぜか飲み物のコーナーで立ち止まっていた。
どうしたのだろう。
俺は不思議に思って木の葉 雫を見ると、木の葉 雫は視線を上にあげていた。
俺は木の葉 雫の見ている方向に目をやると、そこにはリンゴ果汁百パーセントジュースがあった。
しかも木の葉 雫の身長では確実に届かない場所に。
あぁ、そういうことか。
おそらく木の葉 雫はあのジュースが欲しいのだ。
でも身長的に無理なので、あそこでじっとしていると。
いやいや、店員呼ぶなりしろよ。
ジュースは勝手に落ちてはきませんよ。
俺は木の葉 雫に心でそうツッコむが、木の葉 雫は一向に動こうとしない。
お、俺は絶対に手伝わないぞ。こういう役目は主人公的なやつがしなければならないのだ。だから俺は手伝わない。
木の葉 雫は一向に動かない。
俺は何と言われても関係ないからな。
第一、木の葉 雫との接触は意味がないと早苗に言ったのは他の誰でもなく俺だ。
もし接触でもして早苗にバレでもしたら・・・・・・・・・おぉ、俺死んじゃうね。
木の葉 雫は一向に動かない。のではなく今度はその場から立ち去ろうとしていた。
おいおい、諦めんなよ。
主人公さーん早く来てー。はーやーくー。・・・・・・・・はぁ。
俺は一番上の段にある木の葉 雫がさっきまで見ていたリンゴ百パーセントジュースを手に取る。
「おい」
俺が木の葉 雫の背中に声を掛けると、木の葉 雫はくるっと振り返って俺の方を向いた。
「これ、欲しかったんだろ」
俺は手に握っているリンゴジュースを木の葉 雫の前に差し出す。
木の葉 雫は少し驚いた表情をしながら、「どうして?誰?」というような顔を俺に向ける。
なんかついでに誰?と聞かれてる感が半端ないのは俺の勘違いだろうか。
「陰山だよ。お前の隣の席の」
俺がそう言うと、木の葉 雫はあぁと頷く。
俺はその反応の後に、もう一つ抱かれていた疑問を解く。
「これは、たまたま買いもんしてたら、たまたまお前がこのジュースを欲しがってるような様子をたまたま見ただけだぞ」
俺はかなりたまたまを強調しつつ言った。
さすがにストーカーしてましたなんて言ったら、俺は明日からリアル刑務所暮らしである。
あれ?よくよく考えたら、俺今めっちゃリスク高いことやってたんじゃないだろうか?
自分のやっていたことがかなり危険だったことが判明した直後、俺は木の葉 雫がこのジュースを早く渡せと言わんばかりの顔を俺に向けていたのに気付いた。
ってかどんだけこのジュース好きなんだよ。
「そんなに欲しそうな顔しなくても、あげるから心配すんなって、ほら」
俺がそう言うと、木の葉 雫はなぜかしばらく考えた後、小さな声で言う。
「・・・・私がアイスをおごる代わりにそれを」
「?俺は別にそれでいいけど。お前はそれでいいのか」
俺がそう尋ねると、木の葉 雫は少し不機嫌そうな声で
「私は、お前、じゃない」
・・・・・・・・・・あぁ。ちゃんと名前で呼べと。
「じゃあ木の葉はそれでいいのか?」
俺がそう言いかえて木の葉に尋ねると木の葉は首を縦に振って答える。
「今から、行く」
木の葉がそう言うと俺の手を取って、どうやらアイスクリームのお店があるところまで引っ張っていってくれるようだ。
って、いで、いででで、いででででで。
俺はなにか手に激痛が走ると思って見ると、おそらく木の葉が握っている手がそうなっているようだ。
あれれれ?ひょっとして俺は第二の早苗を見つけちゃったカナ?