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知ること

いつも通り、学校の授業も終わって、迎えた放課後。俺ら第二生徒会は俺と早苗の担任でもある鈴木 美月先生からの木の葉 雫についての依頼を解決すべく、今日も話し合いに取り組んでいた。

早苗がポンっと手を叩いて閃いた的な感じの顔を見せる。


「あたしが休日に木の葉さんを誘って遊びに出かけてみるとかは?」

「却下だ」


俺が早苗の提案を数秒も待たずに取り下げた。


「何でよ?」

「何でよ、じゃねぇよ。遊びに出かける?それでどうやってあいつに友達作らせるんだよ」


まず友達作らせるどうのこうのよりも、早苗が木の葉 雫を遊びに連れて行かせるって時点で不可能だと思うけどな。

速攻で拒否られるどころか、インターホンで居留守使うレベル。


「どうやってって、決まってるじゃない」


早苗が「何?あんたバカなの?」みたいな目で俺を見てくる。

まさか俺が生きている内に早苗にバカと思われる日が来るとは。

大丈夫かな?俺明日いきなり死んだりしないかな?

俺が早苗にバカにされた屈辱で萎えまくっていると、早苗が先ほどのまま自信に満ちたトーンで俺に言う。


「一緒に遊びに行って、あたしが木の葉さんの友達になるのよ」


その早苗の言葉を聞いて思ったことは、俺がさっき味わった屈辱を返してください。

ってか、まだお前は木の葉 雫と友達になるつもりだったのかよ。

頼むからもうあきらめてください。あなたのプライドが傷ついたときは、陰山 悠人が死ぬときです。ホント世の中、理不尽である。

俺はたまに思うんだが、早苗がこうやってバカなことを言ってしまうのは実は本気でこの依頼を解決する気がないからじゃないだろうか。

つまりやる気がない。

もしこれが本当だったら・・・・・・・・・早苗、恐ろしい子。

俺はそんな早苗に対する勝手な妄想を一旦止め、早苗の意見に反論する。


「だから、前にも言ったろ。あんまり直接的にいっても、あいつには意味がないんだって」

「だからって、このまま何にもやらなかったらそれこそ何の意味もないじゃない」

「う・・・うぅ」


俺は早苗のその言葉に言い返す言葉がなかった。だってそれは事実だからだ。俺ら第二生徒会は依頼されたはいいがアクションを今日まで一度も起こしたことがない。つまり早苗の言っていることは正論なのだ。

だがしかしがむしゃらに行動すればいいという問題でもない。

俺はそう思って、早苗の提案を再び否定する。


「だけど早苗のその提案は飲めない」


なぜなら確実に死人が出る。例えば、俺とか。

俺がそう言っても、早苗は「なんでよ」とか「どうしてよ」とかまだ駄々をこねるので、俺はもっと俺なんかより説得力のある人に助けを求めることにした。


「桜空。早苗をどうにか説得してくれないか」


ぶっちゃけ、このままだとイライラの腹いせに早苗のローキックかはたまた右ストレートが俺に炸裂してしまう。あーあ、俺に魔○斗と亀○三兄弟の遺伝子があればいいのに。

俺はそんなことを思いつつ、早苗の隣に座っている桜空に声をかける。

だが、返事が返ってこない。


「・・・・桜空?」


俺は桜空が俺の声が聞こえていないのかと思い、再度桜空に声をかけると


「・・・・・はっ!え、わ、私ですか。そうですね。私は木の葉さんのことをもっとちゃんと知りたいです」


・・・・・・・桜空さん。今寝ていましたね。


バンッ!


桜空が寝ていたという出来事をうやむやにするかのように、部室のドアが勢いよく開いた。

まあ大体こんな雑にドアを開けるやつは一人しかいないのだが。


「おぉ。お前らちゃんとやっているか」


そう言いながら、いつものスーツ姿で部室に入ってきたのは、俺ら第二生徒会の顧問である新川 泉先生である。

割と深刻な依頼の内容について考えているのに、学際の準備の進行度をちょこっと見に来るようなノリで来るのはやめてほしい。


「なんですか。新川先生」


俺がお前なんか呼んでないオーラを醸し出しながら、新川先生に尋ねる。


「いやいや、お前ら全然進んでいなさそうだったからな、ちょっと助け舟を出しに来たんだが」

「助け舟・・・ですか?」


桜空が疑問に思ったのか新川先生の言葉を聞き返した。


「あぁ。そうだ」


新川先生はこくりと頷いてから、そう言った。

意外だ。この人が人のために何かをしようとするなんて。

大丈夫だろうか?明日急に地球が滅亡したりしないだろうか?


「おい、陰山。声に出ているぞ」

「いや、あまりにも驚いたもので」

「お前はホント失礼なやつだな。私がそんな薄情な人間に見えるか」

「いや、見たまんまでしょ」


俺がそう言うと、新川先生は俺のあまりにも躊躇のない発言に苦笑した。


「とにかく、私が助け舟でもと思っていたんだが、その必要はないようだな」


俺は新川先生のその言葉を聞いても理解できなかった。

それは桜空も同じようだ。

一方、早苗の方はというと、なぜか椅子に座ったまま怯えている。

なんですかそれ。

期待させて期待させて落とすみたいな卑劣な手口。

まさか新川先生がここまで心腐ってるとは思いませんでしたよ。


バチコーン!(新川先生の殴る音)


「だから、声に出ていると言っているだろう。陰山」


確かに今のは俺が悪いんだが、それでも脳天にグーでぶち込むのはどうかと思う。

というかめっちゃ痛ぇ。


「じゃあ、さっきの言葉はどういう意味ですか?」

「そのままの意味だよ」

「はあ?」


俺は新川先生の言葉が全く分からない。


「そのままの意味というのは、助け船が必要ない。つまりもう新川先生の案は出ていたということですか?」

「おぉ。さすがだな桜空は。どっかのヘタレアンドその幼なじみとはわけが違う」


新川先生の放った“ヘタレ”という言葉に俺は新川先生から目を逸らして対応した。

この人はいちいち人の嫌なところをついてくる。

まあ俺はともかく早苗にそんなこと言ったらどうなることやら。

そう思って俺は早苗のいる方に向くと、以前として早苗は怯えたまんまだった。

なんだろう。

もしや早苗と新川先生だと新川先生の方が階級(ヒエラ)制度(ルキー)的なのが上なのか。

確かに早苗は新川先生が苦手だとは聞いていたがここまでだとは。

恐るべし新川先生である。

俺は新川先生の恐ろしさを再び噛みしめたあと、先ほどの新川先生の言葉について再度尋ねた。


「ってことは、先生が来る前に出ていた案がそれってことになりますよね?」


新川先生はこくりと頷く。


「桜空。なんか心当たりあるか?」

「私は早苗さんの意見しか」

「それはない」


なにか後ろの方で、グサッというような効果音が聞こえた気がするが気のせいだろう。


「他はなにかあるか?」


俺が桜空にそう尋ねると桜空はしばらく額に手を当てて考える。


「・・・・・・すみません。私にはもう心当たりはありません」

「いや、別に謝る必要なんかねぇよ。俺も全く浮かんでこないし」


しかし困った。

果たして早苗以外の案なんて出ていただろうか。

俺はもう一度、新川先生が来る前の出来事を思い出してみる。

まず早苗がアホな提案をし、それを俺が却下する。

そして早苗が俺が早苗の提案を取り下げたことに駄々をこねて、俺はそれを止めるために桜空に助けを求めたが、桜空は寝てしまっていた。

俺がそんな桜空に再度、声を掛けて起きたと同時に新川先生が入ってくる。

やはり早苗以外の案なんか出ていないような・・・・・・・・いや待てよ?そういや、桜空が起きたときに寝ぼけて何か言っていたような・・・・・・。

俺は次の瞬間、桜空の言葉が完璧に脳裏に浮かんだ。


――『私は木の葉さんのことをもっとちゃんと知りたいです』――


「木の葉 雫のことを知る、ことですか?」


俺はあの時言った桜空の言った言葉が正解であるのかを確かめるように新川先生に尋ねた。


「おう。まあそういうことだ」


俺はそれが合っていたという少しの安堵のあと、すぐに新川先生に疑問を投げかけた。


「あの、新川先生。木の葉 雫を知ることによって、どうやったら木の葉 雫に友達を作らせることができるんですか?」

「何をいっている?敵を倒すにはまずは敵を知ることだろ。戦略ゲームの基本じゃないか」


いや、まず木の葉 雫がなぜ敵扱いなのかわからないし、あと戦略ゲーム感覚でこの依頼に取り組むこの人は一体何なのでしょう。


「まあ騙されたと思って一回やってみろって。・・・・・・やれ」


新川先生が俺のリアクションがいまいちだと思ったのか、俺に強引にその案を推してくる。ってか、もはや脅迫。


「わ、わかりましたよ」


まあ確かにこのまま何もしないのはあまりよくない。

それなら何でもいいから情報を集めるという新川先生の言っていることも正しいと思う。

その考えに行きつくまでの過程が最悪だが。


「じゃあ、休日である明日の朝九時に木の葉の家の近くに集合だ。家の場所についてはあとでメールに添付して私が送ろう。では今日はこれで終了だ。帰っていいぞ」


俺がその案に渋々同意すると、新川先生は言いたいことだけ言って部室を出て行ってしまった。

・・・・・・え?今の新川先生の言った言葉によると、木の葉 雫を知るということは学校の生徒とか昔の友達とかに木の葉 雫について聞くのではなく、もしやただのストーカーをやるってことですか。ははは・・・・・・・・・マジですか。

俺はいち早く現実逃避すべく、桜空に明日のことについて尋ねる。


「桜空。明日の予定とか大丈夫か?無理ならいいんだぞ、来なくても」


中止にするから。


「あ、いいえ。大丈夫です」

「・・・・そうか」


俺は再び現実逃避をすべく今度は早苗に明日のことについて尋ねる。


「早苗。お前は明日予定あるよな。来れないよな、な」

「・・・・・・そうね。明日はやめておこうかしら」


早苗はさっきの新川先生に対して怯えていたのが尾を引いたのか、見たことのないテンションの低さでそう言った。

うーん。俺の思惑どおりでいいっちゃいいんだけど、この状態の早苗に思い通りになられたら困るというか、何というか、


「おい、早苗」


俺が呼びかけると、早苗は俺の方を向いた。


「まあ、なんだ。この間言った約束とは別に好きなものなんか買ってやるから、元気出せよ」


俺がそう言ったら、早苗は少し頬を紅く染めて


「そ、そう。ならあたしも明日いこうかな」


・・・・・あれ?俺は明日来いという意味ではなく、単純に元気出せという意味で言ったんだが、オカシイナ?

結局、俺は自分の言った言葉の本当の意味を言い出せずに終わってしまった。

俺は思う。

言葉のすれ違いって恐いね


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