新入部員/部長(ロリ転校生登場まであと一話)
俺は新川先生と別れたあと、事務室に鍵を返しに行き、そのまま帰るために学校から外に出ると、結構遅い時間だというのに空にはまだ綺麗な夕焼けが広がっていた。
だがその景色も今の俺には色あせて見える。
なんせ、ついさっき新川先生にシリアスモードであんなことを言われたばかりだ。
今の俺はエベレストの頂上から見た景色でも感動すらしない上に、罵倒できるレベルでやばい。
しかし大体の場合は悪いことがあったら、次にはいいことが起こるのが世の常であって。
よく聞くでしょ?どん底から這い上がって売れっ子になる芸人とか、会社クビになってフリーターになってからいきなり事業立ち上げて成功しちゃう人とか。
まあそんな感じで俺にも只今いいこと起きちゃってるんだよな、これが。
ゴォゴォゴォゴォゴォゴォゴォゴォゴォゴォゴォゴォゴォ
まさに効果音をつけるならこんな音だろうと思われる熱気というか、殺気というか、狂気というか、凶器というか、ってあとの三つは絶対だめだよね。最後のなんかもはや俺死亡フラグじゃねえか。
そんな感じのオーラを放っている女子生徒がいた。
まあ言わなくてもわかると思うが、そう、俺の幼なじみこと柚原 早苗である。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これって、いいこと?
***********
俺は今、柚原早苗と一緒に下校している最中である。
まあ腐っても幼なじみなので家が近いから必然的に下校ルートも同じになってしまうのだ。
え?あの後はどうなったかって?
では説明しよう。
まずあの時の通り早苗は相当怒っていたらしく、俺にあいさつ代わりにローキックを入れれ、その次に背負い投げをされたあと、最後に腹に右ストレートをぶち込まれ瞬殺でKOされた。
それにしても総合格闘技→柔道→ボクシングという技の流れ。鮮やかでした。
そしてそのあとは説教に次ぐ説教をされ今に至っている。
なぜ早苗がこんなにも怒っていたかというと、それは俺がここ最近(と言っても三日程度ぐらいだが)一緒に登下校しようと言われても「委員会があるから」とか「掃除当番だから」という嘘をついて断ったり(なんか過去にやったことがあるような気もするんだが)、昼休みとかに話しかけられてもほぼテキトーに相槌打ったり、休日に一緒に言われてもギャルゲーやるから無理と言ったりしていたら、ストレスがたまってこんな感じになってしまったらしい。
まあ確かに拒絶という行為はどんなやつにされても意外とむかつくもんで早苗の気持ちも分からなくないが、それでもここまで怒らなくてもいい気がする。
と思いながらも早苗が怖くて言えない陰山さんでした。
「そ、そういえばさ、あの桜空さんだっけ?その人とどういう関係なのよ」
下校ルートの半分ぐらいまで歩き終えると、早苗は急にそんなことを聞いてきた。
「えっ」
俺は早苗の口から“桜空”というワードがでてきたので内心かなり焦っていたが、なんとか平静を装い早苗に聞き返す。
「なんでお前がその人を知ってるんだ?」
「は?そりゃ知ってるわよ。学年一の美少女だもの。」
あぁそうか。
桜空は学年一の美少女なんだった。
名前くらい知ってて当然か。
でもなぜか「学年一の美少女の名前くらい知ってろよ」と誰かにツッコんだ気もしなくもないが、まあ気のせいだろう。
「でも、じゃあ俺と桜空がどういう関係ってのはどういうことだ?」
「だ、だってこの前、なんか朝に桜空さんと話してたじゃない。しかも教室で二人きりになって」
俺は早苗の言葉を聞いて、桜空からの友達告白の日の朝の出来事を思い出す。
そうか。あれで早苗は俺と桜空が結構親密な仲だとでも思っているのだろう。
まあ親密というには程遠いが、同じ部活の部員であることは間違いないので、それを考えると意外と早苗はいい勘をしているのかもしれない。
どっちみち俺と桜空が同じ部活をやっているなんて言うつもりは毛頭ないのでどうでもいいことなのだが。
もし早苗に学年一の美少女と同じ部活をやっているなんて言ったら、おそらくそれと引き換えにあの世行きのチケットをもらっていることだろう。
俺はそんなことを考えつつ、先ほどの早苗の質問に答えようと口を開いた。
「あぁ。あれは別に大したことじゃないし。あの人との関係だって」
チャラリラリーン。
俺が早苗に話している最中、急に俺の携帯電話の着信音が鳴りだした。
「あ、ちょっと悪ぃ」
俺はそう言って早苗に背を向け、誰のからの着信か見てみると、携帯の画面には『桜空』と映し出されていた。俺はその瞬間、背筋が凍った。
なぜならもし今こんなのを早苗に見られたら、俺はあの世行きのチケットをもら
「ゆぅーうぅーとぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
俺の背後からまるで死神のような声が聞こえる。
俺は恐る、恐る後ろを向くと、そこには俺を殺しそうな勢いで睨んでいる早苗がいた。
訂正:俺はあの世行きのチケットをもうもらっていたようです。
********
俺は桜空からの着信を早苗に見られたあと、早苗がしつこくというか無理やり(=暴力行使)そのことについて問い詰めてきたので、一旦近くにあった公園のベンチに座ってから、仕方なく早苗に俺と桜空の関係性と今桜空とやっている部活について話すことになった。
いや、俺も結構言わないでおこうと我慢したんだよ。
でもやっぱね、最後の左フックからの右ストレートが効いたよね。
「ふーん」
俺がすべて話し終えると、早苗は意外にも冷静な様子だった。
もっと怒りが爆発するのかと思いきや、こんな感じだったので拍子抜けしてしまった。
なんだ。これならさっさと話せば痛い思いせずに済んだんじゃないか?
「よし!決めたわ!」
俺が早く話せばよかったと少し後悔していると、早苗はどうやら何かを決意したようだ。
「?なにを?」
「あたし、悠人の部活に入ることにする」
訂正:死んでも話さなければよかったです。
「おいおい、ちょっと待てよ」
「何よ?」
「なんでそういう話になるんだよ。別にお前が入る理由なんか微塵もないだろ?」
「そんなのあるに決まってるじゃない」
早苗が自信満々にそう答える。
「なんだよ?」
「悠人が学年一の美少女を襲わないように見張るためよ」
「そんなことするか!」
ったく一体この幼なじみは何を考えているんだ。ってかその前に俺をなんだと思ってんだ。
俺が早苗に部活に入られることを嫌がっているのを気に入らないのか、早苗はぷくっと口を膨らまして怒っている。
いつもそうして怒ってくれたらこちらとしても助かるのだが。身体的に。
「もーなんとしても入るからね!なんなら明日桜空さんに直談判しちゃうんだから!」
早苗はどうしても部活に入る気なようで、これは俺がいまどうこうしても意味がなさそうだ。
なので、俺は一つの賭けに出ることにした。
「あぁ、いいぜ。直談判してみろよ。でもお前なんかを入部さしてくれるわけないと思うけどな」
「う、うるさい。絶対入ってやるんだから」
そう、それは桜空が早苗の異常な危険レベルを察知して、入部を許可しないことである。
さあ頼むぞ桜空。
早苗の危険度はもはや草原に放たれたライオン並だ。
だからそんなやつの入部を許可するなんて決してしては
「構いませんよ」
ですよねー。
「ほ、ホントにいいの桜空さん」
「はい。私としては大歓迎です」
そんなことを言いながら、二人とも笑顔ですごく仲良さげに話している。
まあ今の状況を簡単に説明すると、俺が早苗を挑発した次の日の放課後二人で部室に行って、早苗の入部の件について話してみると、桜空からぶっちゃけ八割方予想通りの答えが返ってきたのである。
そりゃそうだ。
あの桜空がこんなことをダメだと言うはずがない。
しかも桜空は友達が欲しいのだ。
今、桜空本人が言っていた通り本当に大歓迎なのだろう。
「悠人。あたしに入部の許可が出たわよ」
早苗は「あたしの実力からしたらこんなもんよ」みたいな感じで胸を張りながら俺に言ってきた。
「はいはい。別に入りたかったら、入っていいんじゃないの。俺、部長でもなんでもないから止める権利ないし」
俺がやる気なさそうに言うと、早苗は「何よ。張り合いがないわね」などとぶつぶつ言っている。
アホか。お前と張り合ったら、確実に身体的な張り合いになるだろうが。
しかも一方的に俺が怪我すること間違いなし。
「じゃあ、あたしは入部届けを出しに職員室行ってくるから」
「行って来い、行って来い」
俺がしっしと手でやりながらそう言うと、早苗はベーっとやって、部室を出て行った。
ちなみに言うと早苗は顧問があいつだと知らない。
おそらく職員室であったらまず第一声は「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」とかそんな感じだろう。
なぜそうなるかというと俺と早苗は同じ中学、そして俺とあいつは同じ中学の先生と生徒。
これだけで説明は十分のはずだ。
「あの」
俺がそんなことを考えていると、桜空はなぜか弱々しい声で俺に話しかけてきた。
「なんだ?」
「その・・・・」
桜空は何かを言おうとしているのだが、なかなか次の言葉が出ない。
「どうした?」
「・・・・陰山さんなんです。実は」
「?何が?」
「・・・・・・・部長がです」
・・・・・・・・・・・・・・へ?俺が?部長?
俺は全く理解できなかった。
だってそもそもこの部活をやろうと最初に言ったのは桜空だ。
なので当たり前のごとく、その桜空がやるもんだと思っていたのだが。
「おいおい、それマジなのか?」
「・・・・・マジです」
マジだ。これはマジもんだ。
なんせあんなに言葉遣いが上品な桜空がマジなんていう言葉を使うんだからこれは本当にマジである。ってか桜空意外とノリいいな。
「でもなんでそんなことになってるんだ?桜空が決めたのか?」
まあもし桜空がそれを決めたんだったら、それはそれで別にいいんだが。
「いえ、私ではなく」
桜空は言いづらそうにしながら、少し間を開けてから
「・・・・・新川先生です」
あのクソババアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!
俺が心の中でそう叫んだと同時に、どこからか悲鳴が聞こえたのは間違いなく気のせいではないだろう。