入学式
季節は春だ。
俺が今歩いている通学路は、まさに入学式!というような満開の桜が連なっていた。
まあこんなのをフツーの高校生が見たら、これだけで自分の中の幻想にまみれた青春物語をスタートさせてしまうのではないだろうか。
加えて、もしこんな状況できれいな美少女と遭遇した暁には男ならほぼ間違いなく、恋物語も同時に始まってしまっていることだろう。
だがしかし
俺はそんな主人公のような、ありもしないくだらん物語なんぞ信じないし、仮に、俺がきれいな美少女にあったとしても勘違いせず、それは単なる偶然の産物であると考えることができる。
なぜなら、学園生活を俺は――――――――――――――――――――――――――――――――――――――モブキャラとして過ごしていくのだから。
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俺、陰山 悠人は高校を入学するにおいて、一つだけ心に決めていることがあった。
それは、とにかく目立たないこと。
そして、人間関係を持つとしてもオタクみたいなやつとの関わることである。
そう!つまり、モブキャラみたいな学園生活を送ることだ!
それなので、恋愛だの、ラブコメだのの類はもってのほか、というか論外である。
そんなことを考えながら歩いていると、後ろから聞き覚えのある女子の声が聞こえてきた。
「悠人―!こら待て―」
そう言って、激怒しながら後ろから追いかけているのは、茶髪でポニーテールガールにして、俺の幼なじみの柚原 早苗だった。
まあちなみになぜ怒っているかというと、昨日、夜電話で一方的にあっちが「明日の朝、一緒に行こう」などと幼なじみのテンプレみたいなことを言って約束させられたが、俺がその約束を守らず、そそくさ一人で登校したためである。
まあ一方的な約束だったので、守る義理はないんだけどな。
一応紹介しておくが、柚原 早苗という女は、性格は悪いし、料理もダメだし、暴力も振るうくせに、
顔とオッパイだけは一人前だ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もっかい言うぞ!
顔とオッパイだけは一人前なのだ!
だから、もしあんな奴に捕まってしまって登校シーンでも他のやつに見られたら、すごくすごーく目立ってしまう!
「えっ、あのおっぱいでかい女と一緒にいんの・・・・・・・・・・誰?」的な感じに。
とにかく、登校一日目からラノベの主人公みたいな展開はごめんである。
なので、それだけは何としても避けなければならない!
「待て悠人―!」
そう考えていたら、どんどん早苗が俺に迫っていた。
さてどうしようか。
俺はすぐさま早苗と一緒に登校しないようにするための方法を考える
1.逃げる→まあたぶん逃げ切れるが、入学初日に走って登校すると目立つので却下。
2.隠れる→隠れる場所は一応ゴミ箱があって、それを使えば上手くいくだろうがゴミ箱から出るときに同じ高校のやつに見られたら目立つので却下。
3.戦う→早苗の戦闘力は凄まじいが、俺も一応柔道の段を持っているので、もしかしたら勝てるかもしれないがそんな強者同士の死闘などして、同じ高校のやつに見られたら悪目立ちするので却下。・・・・・ってかそもそも女子と死闘なんていう物騒なことしたくないし。
くそぉう!
モブキャラとして登校するということは、こんなにも苦しく厳しいものだったとは・・・・・・・。
まるで24のようだ。(*全然違います)
ボトッ!
俺がそう頭を悩ませていたら、何かが俺のスクールバックから落ちる音がしたので、足元の後ろを見てみるとそこにはサングラスと宴会用のつけひげがあった。
なぜにひげ?という疑問はさておき。
そうだ!こんな非常事態用の時のために変装道具をバックの中にしのばせておいたんだった!
えっ、なに?変装道具のチョイスがベタだって!?
いいんですぅー。どっかの白服着た怪盗さんみたいにパンドラ見つけるためにハンググライダーでビュービュー移動したり、七色の変装が必要なわけじゃないからいいんですぅー。
まあとにかく、これで変装して早苗を上手く交わすしかない!
そうこうしている内に、もう早苗がすぐそばまで近づいていた。
俺はそれを見て、すぐにサングラスとつけひげを身に着ける。
これで変装は完璧!・・・・・・・・完璧?
俺はちらっと着ている衣服を見る。
そう、今着ている服は制服。そしてサングラスにつけひげ・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
これはまずい!ヒジョーにまずい!
制服にサングラス、そしてつけひげ。
なんだ、この三流芸人のコント衣装みたいなスタイルは。
あれか、コント名は『ちょっと8年留年してみました高校生』といったような感じか。
あははは・・・・・・・・・・絶対バレるな、これ。
俺はこの状況の打開策を考えようかと思ったが、もう早苗が到着しかけていたのであきらめることにした。
しょうがない・・・・・。早苗と登校してもなるべく目立たないように努力しよう。火○をつかって視線誘導する黒○のように。
影は濃くなればなるほど、光の・・・・キレ?ツヤ?ザクシャイン・ラヴ?なんだったっけか?まあいいや。とにかく、早苗の影に俺はなる!
そんなジ○ンプだらけのパロディ思考でそう決意すると、もうすでに俺のもとに到着している早苗が話しかけてきた。
俺の姿に少し違和感を覚えたのか、まるで他人に何かを尋ねるかのような顔をしている。
まあ無理もない。制服にサングラスにつけひげだ。お巡りさんに見つかったら「ちょっと話聞かせてもらえる?」って口説かれるちゃうくらいだろう。モテない女子にちょーオススメ。
一日に五回は口説かれちゃうゾ♡(主にpoliceだけど)
しかも努力次第ではドライブもできちゃうかも♡(主にpatrol carだけど)
「あの・・・・・・・」
「わかってるって。一緒に行けばいいんだろ。行けば」
「えっ、一緒?いや、そうではなくて、おじさん」
おじさん?なんだ?俺にそんなニューネームがついてたのか。
幼なじみよ、俺はそんなこと聞いていないぞ。それに
「あのな、俺はおじさんというような年じゃないぞ」
「あっ・・・・・・。それはすいません」
そうだ。俺はぴちぴちの高校生なのだ。まだ入学してないけど。
それにしても何か違和感がある。なんで早苗はさっきから俺に対して敬語なんだ?
俺の偉大さにやっと気づいて恐れ多いているのか。それならそれで別にいいんだが。
「あの・・・それで、こちらに私と同じ高校の制服を着た黒髪のモブモブ言っている男の子来ませんでした?」
「・・・・・・??」
早苗と同じ制服を着て、黒髪で、モブモブ言っている、男の子?それって・・・・・俺じゃね。
何を言ってるんだこいつ。いや、待てよ。
もしや、こいつ・・・・・・・・気づいていない!?
それならおじさん呼ばわりも、敬語で話してくるのも合点がいく。
つまり早苗は俺をサングラスを掛けてひげを生やした制服のコスプレをしている変なおじさんだとでも思っているのだろう。なんという残念な頭なんだ。
まあちょうどいい。このまま誤魔化さしてもらおう。
「あぁ。その少年なら『さなえ~捕まえたら今度一緒に出かけてもいいぞ~』って言って走ってったぞ」
「えっ!それ本当に言ってた?ホントに!?」
「あ・・・あぁ」
早苗の顔を見て俺はしまったと思った。
早苗は外にお出かけするのが大好きなのだ。
休日になにかといったらショッピングに行こうだの映画にいこうだの俺に言ってくる。
もちろん俺が断ると「何で?」と「いこう!」のコンビネーションである。
それで俺が「他のやつと行けばいいだろ」とか言うと急に機嫌が悪くなったり、黙り込んだりするのだ。
全く幼なじみの考えることはようわからん。
話が逸れてしまったが、つまりこの場から早苗に一刻も早く離れさせるために早苗が食いつきそうな嘘をついたのだが、この様子だと後であったときにまたお出かけ行こう行こう攻撃に遭うかもしれないな。
まあそのときはいつも通り断るとしよう。
「方向はあっちのほうに行ったぞ」
俺は早苗がここから離れた後で俺が行くであろう通学路の方向に指をさして言った。
さすがに通学路と違う道を言うと怪しまれそうなので、そこは本当のことを言うことにした。
「あ、ありがとうございます」
早苗はそう言って深々と頭を下げる。
「あ、いやいや。どういたしまして」
「悠人ぉぉ!待ってなさいよぉーー!」
どうやら俺の言葉は聞いていなく、もう早苗の頭の中はお出かけでいっぱいのようだった。
しかも、もはや目が獲物を捕らえるときの野獣そのものだ。
おいおい、恐ぇよ。お出かけでそんな目されたら今後俺、お前の誘いを断れる気がしない。
この時俺はライオンに追いかけられるシマウマの気持ちがわかった気がした。
あとついでに、ジャ○アンに追いかけられるの○太の気持ちも。
「ではおじさん、失礼します」
俺が早苗に対して恐怖を感じていると、すでに早苗は走る体制に入っていた。
そしてなぜクラウチングスタート!?
早苗はその体制のまま、ふぅと一つ深呼吸してから、小さく呟く。
「ターゲット、悠人。ミッション、ターゲットの、消滅」
消滅?なにそれ?いま消滅って言った?え?お出かけは?お出かけだよね?おでか
結局あの言葉が何を意味するのかわからないまま、早苗はものすごい速さで走り去ってしまった。もちろんクラウチングスタートで。