竹中由起子
小学校も楽しかった。
空襲も何も気にせずにいられる平和なこの社会は、私には良すぎるほどの居場所だった。
私は、読み書きは得意だったが、こと算数になるとからきしだめだった。
前世の授業は主に国語と社会で、墨で塗りつぶされた教科書を二人で一つつかうような感じだった。社会で習うのも、鬼畜米英がどんなに悪いやつか、ということがちゅうしんだった。
「お国のために」
は当然のことのように、さつまいもの世話をしたり、竹槍を使った授業があったりした。
男子は卒業すると主に兵役につくため、体力づくりにも懸念がなかった。
今は堂々と青空の下でダンスの練習をしている。
体育祭へ向けての練習だ。
レンがふざけて変な踊りを踊る。私も真似して変な躍りを踊った。それは見事に伝染していき、先生がこちらを向いた時にはみんながみんな変な躍りを踊っていて、とても可笑しかった。
誰かがその踊りは私から教わったと言い出して、先生が私を怒った。レンは自分の方が先に踊りましたと正直に答えてくれて、先生のお怒りは二分された。
「先生、男子が掃除をしません!」
竹中由起子がそう言った。ホームルームの時間のことだった。
確かに私たち男子は水を掛け合い、滑って遊んでばかりで掃除のその字も掃除をしていなかった。
「竹中さんがそう言ってるけど、男子はどうなの?」
先生が聞く。私たちはまだ乾ききっていない服を説明することができず、竹中を始めとする女子一同に謝罪をすることとなった。
「「すみませんでした。今度から掃除はきちんとやります!!」」
結局そのあとも掃除をすることはなかったんだけれど、私の中で竹中由起子という存在は大きくなった。
まだ恋とも言えず、なんとも甘酸っぱい思い出だ。