幼稚園
一才になる頃には、もう充分話はできたし、歩くこともできた。
周りの人たちは成長が早い、と驚いていた。私は早く、もっと早く大人になりたかった。
三才になると、幼稚園というところへ通い始めた。学校のようなものだ。
私は人一倍ませた子として、ある意味問題児だった。先生の言うことはよく聞いたし、みんなと仲良くするように努力はしていたが、それも空回りするような日々だった。
ある時、同じクラスの女の子が、男の子に嫌がらせをされて困っていた。私はそれを止めようとしたのだけれど、他の男の子が入ってきて、大きな木でできたパズルでその男の子を殴ってしまったのだ。
男の子は、
「パズルで叩かれた〜」
と泣き出し、殴った男の子はすぐにいなくなってしまって、私のせいにされた。女の子がいくら違うと言っても誰も聞いてくれず、私のせい、ということになってしまった。
園のバスから降りると、母親が迎えに来ていて、先生は今日あったこととして母親に伝えた。
母親は
「すみません、申し訳ありませんでした。」
と答えると、ギュッと私の手を握った。
園バスが行ってしまってから、母親は目線の高さを私と同じくし、聞いてきた。
「翔ちゃん、ホントにお友達をぶったの?」
私は母親の目を見つめながら、
「違う。僕はやってない。」
と答えた。
「そっか。じゃあお母さんは翔ちゃんを信じる。」
と言ってくれた。俺はこの人が母親でよかったなぁ、としみじみ思った。
幼稚園は楽しかった。みんなでお遊戯、歌、工作。
特に歌は楽しかった。
前世では歌なんて歌う余裕はなかったし、考えたこともなかった。
大きな声を出すと怒られたりした。空襲のときはわぁわぁ叫んでいたけれど、その程度であとはひっそりと生きてきた。
だから、歌を歌うということの素晴らしさを初めて知った。
歌はよかった!お腹の底から声を出す。みんなの声が揃って気持ちいいハーモニーが生み出される。先生のピアノも素敵だ。今日はとなりのトロロの歌を覚えた。トロロはみんなの大好きなアニメで……
このアニメっていうもの自体とても面白いもので、私は何度も母親にせがんで見せてもらった。
前世ではアニメとは程遠い暮らしをしてきたので、とてもいい気分だ。
そのトロロの歌をみんなで合唱する。これは私の一つのたのしみとなった。