7/11 結婚式
そして決戦の舞台へ。
★★☆
結婚式当日、栗柄少年はウルと入れ替わった。
ウルの手によって施された変装はもはや変身の域に達しており、完璧にウルを演じきっていた。
これからウェディングドレスの着付けをする下僕達がいくらまじまじと観察しようが、実際に触れようが決して悟られないと確信させる仕上がりである。
「栗柄くん、餞別を受け取ってください」
ウルは少年に『何か』を手渡す。
それは毒々しい紫色をした片方だけの手袋である。一見して不気味なほど禍々しさを放っているけれど、どこか手放せない不思議な魅力を秘めたグローブである。
「この手袋は、一体」
「『奥の手』です。本当に困ってネコの手も借りたいときにその手袋をはめてください。きっと力になっていただけるでしょう」
「使い方はどうするんです?」
「ただ手に嵌めるだけです、そういうものなのだ、とだけ理解しておいて頂ければ問題ありません。左右に関してはあなたにおまかせしますわ」
「でも、どこに隠したらいいのか」
「この場合は花束の中にでも入れておいてください。あとはやっぱりデリケートゾーンとか……」
「そんな繊細な場所に入れられるか!」
栗柄少年は花束の方へと忍ばせる。
とにかく、もう時間が近い。
念のために早起きをしておいたけれど、もうそろそろ老夫婦の使用人がきてもいい頃合いである。見つかってしまっては元も子もないので、腹をくくらなければならない。
「では、そろそろ私はこのクローゼットの中へ隠れます」
彼女は大きなクローゼットの中へ身を潜めることを選んだ。
「はい、ウルさんも気を付けて」
「ふふふ、お互い無事に脱出したら歓迎いたしますわ。家族にも栗柄くんを紹介します、もちろん私の命の恩人としてね」
「ええ、楽しみにしてます」
「それでは、また」
そして、それ以上言葉を交わすことなく彼女はクローゼットに身を潜めた。
お互いの成功を祈って、脱出作戦は始まる。
★☆☆★
「うりこ様、失礼いたします」
三度のノックの後、静かな音とともにひとりのおばさんが姿を見せた。
いかにも使用人といった格好、エプロンがよく似合う風貌、シワが目立ち始める顔が印象的である。
「お召し物の着付けに参りました。お気持ちの方はいかがですか」
うりこは答えない。
ただ頷くだけで返事をした。
「口さえ聞いていただけませんか。けれど判ってください。あなたの結婚はそれだけこの国を繁栄させる礎となるのです」
勝手なことを言うな、と少年は思う。よくも人を誘拐しておいてこんな態度を取れる。
「それでは、うりこ様はどのウェディングドレスをご希望ですか」
うりこは洋服掛けを指差す。
ウルと栗柄少年がふたりで決めた(事実、栗柄の独断)プリンセス丸首長袖タイプのドレスが吊してあった。計画通りこのドレスを着ていくことになっている。
しかしーーー、使用人のおばさんは首を横へ振る。
「あれはいけません、別のドレスにいたしましょう」
★★★