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 3/11 もう一つの世界へ

 自由を取るか、安定を取るか?


 ★★★



「この物語はフィクションではありません。実在の人物・団体に関係していますからよく聞いてください」

 豪華絢爛なスイートルーム。

 円卓テーブルで向かい合う少年と金髪碧眼の女性。神妙な面持ちの両者はただじっと相手の出方をうかがっているなか、先にとっておきをぶつけたのはウルだった。

「クリカラくんはこの装置に乗って地下世界へと来たのです」

「……、……へえ、地下世界ですか」

「リアクションがいまいちですね。散々もったいつけたのに、いろんな意味でショックです」

「いや、充分驚いているけど。なんというか実感が湧かないです」

「私の言うことが信用できませんか?」

「そんなことはないですよーーけれど」

「鵜呑みにはできない、と。まあいいでしょう。嫌でも信じることになりますから」

 ウルはくるくるとカールしたもみあげで遊んでいた。

 ーーどうにも飽き性であるらしい。

 ひと呼吸おいて、金髪碧眼の少女ーーウルは語り始めた。 

「さっきも言った通り、ここは地下世界『ルート』と呼ばれる場所の表層階です。表層の方々が地下、と呼んでいる場所ですね。とにかくここは地球の中心に最も近い場所、というわけです。さっきの装置はあなたをここまでコールドスリープさせるためのものだった、というわけですよ」

「それじゃあ、ここは溶岩ーーマントルの中だということになりませんか?」

「マントルの中というより、下ということになりますね」

「だったら無理ですよ、三千度以上の場所で生きられるわけがありませんから」

「生きられるわけがないーーその先入観がいつだって進化の妨げになるのです」

 呆れたように、あるいは見下すようにウルは言ってのけた。

「表層の常識と深層の真実を一緒くたにしないでください」

「……、……」

「表層でいう、『ガイア論』をご存知ですか?」

「……いえ」

「生物と地球の相互作用により環境をつくるーーーつまり地球を一個の生命として捉える、という理論です。生物が呼吸し、栄養を摂り、命を育むように、この星そのものも『巨大な生命体』として生きているということなのです」

「それと、僕が地下世界にいる理由となんの関係するんです?」

「……あー、めんどくさいですわ」

 彼女はぐてーっと軟体動物のように机に突っ伏した。

 感覚としては、物覚えの悪い生徒に手を焼いている家庭教師といった具合である。少年はものを知らない方であると自覚してはいるけれど、彼女の小馬鹿にした態度はなんとなく鼻についた。

 気を取り直して、彼女は続ける。

「では、地球を栗柄くんの体に例えます。あなたの皮膚の上には大量の微生物・雑菌が付着していますよねーーそれが地球でいうあなたたちです。母体の恩恵にあやかろうとする存在です。そして皮膚の下には灼熱の血液が流れていますし、外核のように硬い骨もありますよね。つまりはそういうことです」

「なるほど、僕らはさしずめ体内の『ミトコンドリア』というわけですか」

「ご明察ーー体外から見れば灼熱であるはずの体内、そこにわざわざ住まっているミトコンドリア。まさに私たちにそっくり、いやそのものです。いやはや、なんとか説明できました」

 そして、また机に突っ伏した。

 飽きているというより疲れているのかもしれない。

「とりあえず、あなたのことを信じてみましょう」

「本当ですか、それなら助かりまーー」

「ーーただし、」

 少年は釘を刺すように彼女の言葉を遮った。

 信じたのはあくまで彼女の言い分だけであり、謳ったガイア論もどきである。彼女を信じるわけじゃないーーそれには、彼女を信じるに必要不可欠な事例をまだ聞いていなかったからだ。

「あなたの狙いはなんですか」

「え」

「僕はあなたの目的を聞いていません」

「……モ・ク・テ・キ?」

「急に外国人っぽい反応しないでください。さっきまで日本語ぺらぺらだったでしょう」

「……、……なんという」

 ウルは頭を抱えて悶えた。

 上手くはぐらかそうとしたらしいのだが、それなら黙っていればいいのに。

「栗柄くんは地下世界の話に興味はないのですか?」

「ええ、とても興味深です。だけど今はあなたの目的を聞く方が大事です」

 ーーーもしかしたら敵かもしれませんから、とまでは言わないけれど、険悪な雰囲気を醸し出していたのか彼女の警戒心は目に見えて跳ね上がった。

 明らかに、動揺していた。

「目的といいますか…………お願いといいますか」

「はっきり言ってください。大抵のことでは驚きませんから」

「え、本当ですか。なら思い切ってぶっちゃけます」

 彼女は笑顔のまま、お願いを口にした。




 少年は、頭を抱えた。





 ☆*☆

 

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