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それから、俺と  作者: 坂上 葱久
オオカミくんと立候補
8/22

チエの秘策と宿敵

「さて、オオカミくん友達作り計画なわけだけど……」

 ここは放送室。放送部が無くなってから、誰が使うこともなく放置されている。放送室だけあって、防音設備は完璧。秘密の話にはもってこいなわけである。だから――。

「ぬぁんで、当の本人がいないのよーーー!!!!!」

 こんな大声を出しても、誰の迷惑になることはないのだ。

「ト……オオカミくんは、今日は用事あるからって先に帰っちゃったんだよ」

 なんか両親に呼び出されたとかなんとからしい。いつもは飄々としているトキトが妙に焦っていた。なにか事件が起きたのかもしれない。

「まぁ、唯一、オオカミくんと話したユキがいれば問題ないわ。ノープロブレム!」

 なんか知らないけどものすごく気合が入っている。目の中に炎が見えるよ、チエ。

「で、昨日一晩考えたんだけど、最高の手を思いついたわ。ふふふ……」

 昨日の電話で聞いたような黒い笑いを漏らす。声だけでなく表情もつくとさらに破壊力を増している。黒い、黒すぎるよ、この子。

「で、その計画なんだけど、これよ!」

 ババーンと長い紙を広げる。どこから出したよ、今。そんなの持ってるようには見えなかったよ。

 とにかく、その中身を見てみようと覗き込むと。

「生徒会立候補!?」

 意味不明な文字が並べられていた。


 生徒会立候補。もうすぐ十月のこの頃、三年生は受験勉強に専念するため、生徒会の人たちもその職を辞すことになっている。そうすると、必然的に二年の私たちの代にシフトするわけで、そのためのイベントが設けられている。

 生徒会へ入るためには、元生徒会の人たちの推薦もあるが、ほとんどが立候補者を募る。その中から決められるのだが、ウチの学園ではこの生徒会選挙は少し特別な意味を持っている。

 曰く、人気投票。学力うんぬんよりも生徒からの人気があるものが勝つシステムになっている。頭の良し悪し、運動のできるできないは関係なしに、その一点のみに集約されている。

 しかし、運動のできるヤツは必然的に人気者になりやすいし、頭の良いヤツは周りから注目されるので、基本的にはそのような人たちになってしまうのだが。


「生徒会立候補よ。このイベントを使わないのはもったいないわ」

「で、でもこれって、オオカミくんには難しいんじゃないかなぁ?」

 常に寝こけて、他人に興味のない、近寄るなオーラを出しているオオカミくんには無理難題のように思える。

「ふっふっふ、そこが浅知恵な者の考えることよ、のう猿?」

「信長様!? なにか他に目的があるのでしょうか?」

 とりあえずノっかってみたが、誰が猿だ。コラ。

「生徒会に立候補するのはごく少数、しかも人気のあるヤツラだけよ。だから、今年の立候補者は大体、見当はついているのよ。そこにまったく知名度のないオオカミくんが入ることでどうなると思う?」

「まぁ、注目は浴びるわね」

「そこよ。誰だアイツ? という具合になるわよね。そこから選挙のために活動を行うことによって、どんどんその知名度を上げていく。極端な話、別に負けてもいいのよ。こっちの最終目標はオオカミくんに友達を作ることだからね。上手い具合に彼は容姿は悪くないわ。私の情報網による、他の立候補者にヒケはとらない」

 人気投票であるがゆえに、容姿は何気に重要な点である。同じ学年の連中であれば、普段から付き合いがあるので、その中身にまで目を向けるが、下の学年はそこまで見ることは中々できない。初めて見る候補者とその演説内容で決めるしかないのだ。だからこそ、容姿は重要である。


「さて、大体の計画の内容はわかったわね?」

「一つだけ質問があるんだけど」

「なに?」

「どこに、どの役職に立候補するの?」

 問題はそこにある。書記や会計ならば、それほど競争率もない。ただ生徒会に入るだけならば、そちらを選んだほうが無難というものである。

「もっちろん、生徒会長に決まってるでしょうが!」

「だと思った……」

 頭が痛くなる。やるなら頂点を。というのがチエのやり方である。そんなことだろうと思った。しかし、そこにはものすごい問題が一つ。

「生徒会長に立候補するヤツなら、私でも見当がつくわ。夙川真綾ね」


 夙川(しゅくがわ)真綾。とにかく頭が良い。学年5位以内を落ちたことが無いらしい。部活もバレー部の主将。他のクラスだが、クラス委員長もやっており、また男子女子問わずに人気が高い、と思う。容姿は、認めたくないけど良い。

 なぜ、認めたくないかと言うと、夙川真綾とはチエと同じ小学校からの知り合いである。そして、表と裏が激しいことを私とチエは知っている。人望を得るためなら、人を蹴落とすためにあらゆる権謀術数を巡らし、自らに注目が集まるようにする。アイツに目をつけられて没落していったリーダー格の連中を私たちは見てきた。簡単に言うと、私もチエも嫌いなのだ。 


「うん、だからこそ生徒会長を選ぶのよ。どうせなら、あいつの鼻を明かしてやりたいとは思わない? 勝ち目は薄いかもしれないけど、高校最後の思い出に最高の花火を打ち上げたいじゃない!」

 花火とはまた季節はずれな。しかも、最後という辺りに、その後どんな仕打ちに遭うかわからないということを示唆している。それでも――。

「やるわ。あの女帝を倒してやりましょうぞ、孔明どの!」

「その意気よ! 張飛!」

 こっちからフったのだけれど、誰が張飛だ。コラ。

とりあえず学園生活編です。


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