発覚と楽しくない会話
夜になった。時刻は二十一時。
私は迷っていた。手には渡されたケータイの番号とアドレスが書かれた紙。
「どうしよ……」
一人ごちてみてもなんの解決にもならないけど、声に出したら決心つくかとも思った。けど、そうはならなかった。
部屋の中をウロウロ歩き回る。一応、彼の番号とアドレスは登録した。それから一時間。いまだに通話ボタンを押せずにいる。と、手の中がブルブル震えた。表示は……チエか。
「もしもし?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
いつもの電話のような、テンション高めで別に用はないんだけど~って入りじゃない。これはきっと深刻な話かもしれない。息を呑む。
「今日、オオカミくんと一緒だった?」
心臓が飛び出そうになる。
「い、い、いやぁ~、そんなことはないんじゃないかな~? タブンミマチガイダトオモウヨ~」
しばしの無言。痛い。痛すぎる。
「……あんた今、鼻の頭かいた?」
「え? うん」
唐突な質問に正直に答えてしまった。
「あんた、嘘ついたでしょ? ユキが嘘つくときは大概、そこを触るからネェ」
バレバレ!? さすが小学校からの付き合い。
「で、なんでオオカミくんといたの? しゃべったの?」
「ぐ……ハイ、しゃべりました。理由は……そう、友達作りたいって相談されたんだよ!」
「あんたまた鼻の頭かいてない? なんでアンタにオオカミくんがそんなこと相談するのよ」
「いやぁたまたま偶然にバッタリ会っちゃって、しゃべってみたんだけど内容が内容だけにねー」
打ち明けづらい、と。そういうことにしておこう。
「ふぅん。で、どうしたの?」
「きょ、協力するってことで手を打ちました!」
軍曹に向かって敬礼する兵士のようにハキハキと答える。見つかってしまったなら仕方ない。噂はきっと既に広まっていることだろう。幸いなのは、中身を聞かれていないこと。
それから、あーだこーだと無駄な議論(?)を交わして、チエにおやすみなさいを言った。
「がぁぁぁぁぁぁ!」
腹の底から今まで出したことのないような声を出す。やってしまったー! おととい初めてしゃべってから、バレるの早すぎない!?
ともかく、これでトキトに電話する用事ができた。急いで通話ボタンを押す。
「もしもし? ユキ?」
「な、なんでわかったの?」
「だって、このケータイ、ユキとしゃべるためだけに買ったから」
またそういうこと言う。一々、ドキッとすることは言わないで欲しい。
それにしても古いケータイだった。多分、もう何世代も前の形だったと思う。赤外線通信ができないケータイなんて久しぶりに見た気がする。
「そういや、吸血鬼もケータイなんて持つのね」
「うんにゃ、持つヤツなんていないよ。みんなコウモリを使役して、伝達するからね。でも、ユキはできないから」
「アハハ……そっか……」
こういうところに人間とは違うってところが見える。そっか、コウモリね。
「それでさ、今日トキトといたところを、誰か知り合いに見られてたみたいなんだよね。やっぱ、マズイ? 一応、ごまかしておいたんだけど……」
「別に~」
なんともあっけない返事だった。誰かと交流しちゃいけないってわけじゃないのか。
「なんてごまかしたの? 物によっては口裏合わせておいたほうがいいよね?」
「それなんだけど、相談を受けたって言ったの」
「内容は?」
「その、なんていうか、友達を作りたいって……」
やっぱりこのごまかし方には無理があったような気がする。今まで、そんな素振りを一切見せていないトキトだからこそ余計に。
「なんだ、そんなことか。別にいいんじゃないかな? バレない程度なら」
「えぇ~、そんなことって……。そしたら、昼間寝てらんないかもしれないのに」
友達を作りたいって行動を取らないといけないかもしれないし、なによりチエが何事か作戦があるらしく、黒い笑い声を聞かされた。
「別にいいじゃん、友達。それとも、ユキは俺の友達がユキだけのほうがいいの?」
「な、バ、バカなこと言わないでよ!」
そんな嫉妬してるみたいな言い方しないでよ。変に意識するから。
それから今日あったこととか、これからの対策とか話してからおやすみなさいした。これからが俺の時間だー! とか言ってたけど、無視した。
時計を見ればもう零時を回っていた。色々考えたいこともあったけど、さすがに寝なくちゃいけない。朝は弱いほうなのだ。
「はぁ……」
一日の終わりはため息とともに。