唐突な宣言
その日、私は友達と買い物に来ていた。
学校が半ドンだったので、少し遠い街まで足を伸ばしたのだった。
冬物の新作を買い、喫茶店でお茶をして、晩御飯にイタ飯を食べて、これが友達じゃなくて彼氏だったらどんなにイイかと思ったが、口にするのはやめた。隣も同じことを考えているハズだから。
それから友達と別れ、少し街をブラブラしていた。家に帰ってもすることはないし、ただ、なんとなくそうしたかっただけだった。なのに……。
出会ってしまった。奇妙な男もといオオカミくんに。
オオカミくんは道路沿いの白い手すりに座って、足をぷらぷらしていた。いつものオオカミくんからは想像もできないくらい幼稚な動作だった。
と、オオカミくんがこっちに気づいた。なんか近寄ってくる。
「あんた、新城雪だろ? 同じクラスの」
急に声をかけられて少したじろいだ。しかも、私のフルネーム知ってるとかどういうことなの!?
「な、なにかよう? オ……如月くん」
「イヤ、なんつーか、ちょっと手伝ってほしいことがあって。実は今日来る予定だったヤツが来れなくなってさ、出来たら少し俺と付き合ってくれないか?」
付き合っての言葉に少しドキドキしたけど、そういう意味じゃないのは明白だし、なによりもう十九時だ。そろそろ家に帰らなくちゃならないんだけど、だけど。
「なにかするの?」
「ん、まぁ、ちょっとね。別にそんなに時間取らないから、お願いできないかな?」
なんかしゃべると雰囲気変わるんだな。なんか男らしいっていうか、ちょっとチャラいっていうか。言葉遣いは今どきの男子そのままなのに驚いた。
「あ、怪しいこととかしないよね?」
「モチ」
「じゃ、じゃあちょっとだけ……」
そんなこんなで単なる好奇心か、それとも彼に惹かれたのか、とりあえず付いて行くことにした。
※※※※※※※※※※
「ようこそいらっしゃいました如月様。本日はどちらの席にご案内いたしましょうか?」
上、と手振りで指すその様は、慣れている感じだ。
連れて行かれた場所は、街の中心からちょっと離れた所にある地下のバー? みたいな所だった。薄暗くて、なんかしっとりとしたBGMが流れている。それから他の客は年配だったり、自分と同じくらいの年だったりと様々だ。
地下なのに二階にある席に通されると、そこはさらに薄暗く、キャンドルの明かりでなんとか歩けるぐらいだった。
「座りなよ。なにか飲む?」
「いらない。それより、私に付き合えって、なにすればいいの?」
「そこに座っててくれるだけでいいよ。後は俺に合わしてくれればいい」
そういってオオカミくんはメニューを開いて、ウェイターを呼んで、ワインを注文した。
「ちょ、ちょっと! 高校生なのにワインなんて飲んでいいの!?」
「あぁ、そうか。済まないがワインは取り消しだ。代わりに……そうだな、牛乳を。それから、彼女になにかジュースでも」
こんなおしゃれっぽい場所で牛乳もなにか変な気もするけど、未成年でワインを飲むよりかはマシだ。
キャンドルの明かりに灯されたオオカミくんは、いつもより怪しげで、男らしさがあがったような気がする。灰色のジャケットに高そうな革靴を履いていて、それだけでも大人っぽい雰囲気があった。それこそ本当に同い年なのかと疑問に思うくらいに。
「新城さんは今日はどうしてこっちに?」
「友達と買い物してて、それからなんとなくブラブラしてただけだよ」
ふーん、と別に聞きたくもないけど、間が持たないから聞いてみたって感じの反応。
「如月くんは?」
「俺? 俺は待ってたんだよ。でもすっぽかされちゃったから、どうしようかなって考えていたところに新城さんが居たんだ」
おいしそうに牛乳を飲み干す。
「さて、そろそろかな?」
オオカミくんがそういうと下の階がざわざわとし始めた。
すると、オオカミくんは急に立ち上がって、下を見下ろしながら満足そうにしている。
「あー、お集まりのみなさん、ようこそいらっしゃいました。今日は私の花嫁の披露パーティにご参加いただき、誠にありがとうございます」
……は? なんて言った? 聞き間違いじゃなけりゃ花嫁って言った?
オオカミくんは私の腕を取って、立ち上がらせ、さらに言葉を続けた。
「こちらが私、トキト・ヴォルフガング・フォン・キサラギの花嫁、新城雪嬢でございます」
おおおーと拍手が起こる。
「な、え? は? はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
拍手よりも大きく私の驚嘆が響き渡った。
編集ミスしたので、一旦、削除してました。