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それから、俺と  作者: 坂上 葱久
オオカミくんと立候補
17/22

勝利宣言


 放送室に私とチエ、それからトキトが集まるのは初めてだった。

 学校前で集合しての、ビラ配りは私とチエ。それから、トキトはチエの書いた演説原稿を読むことはあっても、こうやって3人で集まっての作戦会議は初めてなのである。

 しかも、この会議の発案はトキトであることにも驚きだ。


「えーと、それじゃ今日集まってもらったのは、ちょっとした話なんだけど……あのー、聞いてます?」

 トキトが珍しくというか初めてやる気を出してくれるのはありがたいのだが……。

「あー? なにー? もう終わったでしょ。これ」

 元々の発案者がこれである。いまやクッキーを片手にケータイをいじる始末。

「あの、こ、小羽さん?」

「アンタがいなかったこの一週間のうちに、アイツの取り巻きから嫌がらせ受けまくって疲れてんのよ」

 トキトには伝えてなかったが、そういうことが私にも多々あった。

 夙川の取り巻きが嫌がらせを始めたのは、ちょうどトキトが休んだ初日から。

 まずは私たち二人に対してのイヤミから始まり、他のクラスメイトへの流言、配るビラを目の前で引き裂いたり、果ては、上履き隠しという古典的な手も使ってきた。私たち二人にとっては、小学校の頃から、夙川のやり口を学んできたので、それくらいのことには対処できたが、あまりにも頻度が高すぎる。質には対抗できるが、量には対抗できないのである。一体、夙川綾子にはどれだけの信者がいるのか?

「だから、今はクラスメイトとの関係修復に奔走中なのよ。本当ならアンタが当選してしまえば、そんなことも必要ないんだけど、ね!」

 メールの送信ボタンを押して、クッキーをパクつくチエ。

 チエは積極的に活動していたために、私より被害が大きかった。活動の内容が修復という名目に変わるのも仕方のないことだろう。

「ん~仕方ないな~。それじゃあユキ、俺のヒント、そろそろ答え合わせしてみようか」

「あ~それがね……ごめん、考えてる暇なかった」

 あんなことやこんなことがあったせいか、不器用な私にはあれやこれやと考えているだけの余裕がなかった。

「うん、まぁ、仕方ないか。それじゃ、答えを発表するか……その前に一言あるんだけど、小羽さん?」

「……ん、あ、なに?」

 トキトが心ここにあらずのチエに話しかける。

「俺が生徒会長に当選することができれば、今してることやらなくてもいいんだよね?」

「……ん、まぁ……そうね。できればの話だけど」

「それじゃあ、友達にメール、しなくていいよ」

「……へぇ……そう……ん? なんで?」

「勝ったから」

「へぇ……そう、おめで……」

「「はぁ!?」」

 チエはもちろん、私も虚をつかれてしまう。


「ど、どういうことよ!? 調査票見たでしょ? 差は歴然よ!? 勝てるわけないでしょうが!」

 絶望的な状況なのは三人とも確認済みだ。その差をひっくり返すことはもう不可能に近い。それを、勝ったってどういうこと?

「仕方ないな。今から説明するけど、その前にもう一つ確認していいかな? この選挙の投票者ってのは誰?」

「三年以外の生徒全員だけど……」

 三年生は受験勉強に集中するため、学校の運営から手を引くこととなるため、今回の選挙をもってその活動を終える。また、これからの学校をよりよくしていくのは残された一・二年生であるため、投票権は三年生には与えずともよいということである。

「そう、三年以外の生徒全員に与えられるんだ。本当ならもっと簡単な形で決まってしまうハズだったんだけど、これがあるからわかりづらくなってしまってたんだ」

「「???」」

 一体、それがなんの関係があるというのか?

「ユキ、ヒントの内容覚えている?」

「うん、この生徒会役員選挙はすべからく人気投票で決まっている、だったよね?」

「そう、そこが第一のポイントだ。それから、この調査票、どこの誰が発行しているんだっけ?」

「新聞部が独自に調査したものって聞いたけど……」

「うん、それが第二ポイントだ。この二つが基本的にこの選挙の核となっていたんだ」

「どういうこと?」

「それを今から証明するから、クッキーでもつまんで、考えながらちょっと待っててくれる?」

 そう言って、トキトは放送室から出て行ってしまった。何を考えているんだろう?

「ちょ、ちょっと、どういうことよ。私は全然そんなこと聞いてないわよ?」

 それはこっちも同じだ。

 与えられたヒントを考える暇がなかったとはいえ、この現実に直面してしまえば、そんなもの考える必要性すら思わなかったのである。

「とにかく、どういうことか私たちがあれこれ悩んでも出てきそうにないわ」

 そう言うけれども、何事か思案しているチエはたしかに彼女らしい。昔から、チエは自分を参謀タイプだと自負しているし、それを私も認めている。企画の発案、遂行の指揮などは全て彼女が担ってきた。

 そんな彼女があきらめてしまっていた今、今回はもう敗北しかないと思っていた……のだが。

 突然な横槍に、チエ自身も戸惑いながらもその役割を全うしたいとしているに違いない。

 簡潔に言えば、負けず嫌い。

 常にボーッとしているトキトにその役割を奪われそうになっているから焦っているのだ。しかし――。

「ああああ、わからないー!!!」

 頭を振り乱しながら悔しがっているようだ。


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