表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それから、俺と  作者: 坂上 葱久
オオカミくんと立候補
12/22

交わしていない約束と老執事の推測

 その週の日曜日。選挙活動と連日のチエとの作戦会議に追われ、疲れ切っていた私は、遅くまで寝ていた。だから気付かなかった。アイツが家に来ていたことを。

 お昼も回って、そろそろ夕方という時刻。二度寝、三度寝を繰り返し、それからも自室でダラダラしていた。そのうちノドが渇いてきたので、一階へ降りる。

「お母様、まだユキさんはいらっしゃらないのでしょうか?」

「そうね……。そんなことよりトキトくんは晩御飯は何か食べたいものとかある?」

 ……どうやら、まだ夢の中なようだ。最近多いな夢オチ。

「あ、ユキ! 待ってたんだよ、おはよー」

 そっかぁ最近の夢はリアルだなぁ。話しかけられることもあるのか。ついでに隣の母親がものすごくチッとした顔をしている。なんてリアルさだ。

「どうしたの? ユキ、固まっちゃって。約束どおり迎えにきたよ」

 あぁ、そういえばそんな約束も……してない!? 単に断りきれてなかっただけじゃないの! そう思うと、急に思考がクリアになってきた。

「な、なんであんたがウチに来るのよ! 大体、そんな約束した覚えはないわよ」

 猛反発してみる。しかも、もう夕方だ。これからどこかへ出かけるということはしたくない。しかし、それに対する反論は、意外なところから飛んできた。

「いいじゃないの。あんたが起きるまで、眠そうにしながら、ずーっと待っててくれたのよ。それをあんた……」

 私を非難する母上は、しかし、違う部分を気にしているようだった。そういや、少女マンガとか好きだもんね。少年とかに目ないもんね……。

「というわけで、ユキも来たみたいなんで、そろそろ行きます」

「え~行っちゃうの~? 晩御飯くらい食べていったらいいのに……」

 言葉遣いが20ほど若くなってるぞ、おい。あんたの旦那が泣くぞ。


 そんなやり取りに嫌気が指したので、とりあえず家から出ることにした。だからと言って、トキトとデートしたいわけではないけれど。しかし、他に当てもないので、仕方なく迎えの車に乗ってしまう。

「――じゃあ、とりあえず俺の家の周りを案内するってことで」

「いいけれど、なんか怪しい行動を取ったら、すぐ帰らしてもらうからね」

 一応、予防線だけ張っておく。それに前回行ったときに窓から見えた景色は、かなりおどろおどろしかった。本当に同じ街なのかと疑問を抱くくらい。

 ――トンネルの中を走るヴィンテージ車はそれ以降、言葉が交わされることはなかった。昼間に母の相手をしていたトキトがついに眠気に負けたからだ。

 首を傾けて寝ているトキトを見ていると、いつものウザったらしさはまったく感じられない。むしろ、少し覗く牙と、いつもと違うあどけない寝顔のミスマッチさ加減が、なんとなく母性をくすぐるとかなんというか……ち、違うんだからね! 別にそういうわけじゃないんだからね!

 ……不毛なツン(以下略)。


 それにしても、唯一の話相手が寝てしまったことで、正直ヒマだ。いつもなら話しかけられることに鬱陶しさしか感じないが、今は別。これから向かう空間もそうだけど、慣れない場所ではちょっとした顔見知りでも頼もしく見えるものだ。

 そんなことを考えているのが顔に出ていたのか、老執事さんがバックミラーでチラッとこっちを見ている。

「……新城様は」

「ハ、ハイ!」

 初めて話しかけられてちょっと緊張してしまう。声が裏返ってしまった。

「新城様はトキト様が好きですか?」

「……え?」

 唐突な質問に言葉が出てこない。イヤ、答えは既に決まっているのだが。執事さんの目がそういう(・ ・ ・ ・)意味の質問ではないと言っているような気がした。

「……嫌いじゃないですよ。クラスメイトとして、友達として」

 それでも誤解は避けようと、そうではないことを示唆しながら返答する。

「そうですか……それはよかった」

 盛り上がらない。盛り上がってしまっても困るのだが、無言であることが痛い。会話がRPGのようなターン制でもあるまいし、好きなときに好きなだけしゃべり始めればいいのだが、こちらから話し始めるのもいかがなものかと。とかく、この手の空気は読みづらい。

「坊ちゃまは……今まで友達を招待したことなどありません。それは同じ種族の者であっても。特に坊ちゃまが暗いということも他の者を避けているというわけでもないのに、です。なぜなのでしょうか?」

 そんなことを問われても、まだ初めて話してから一ヶ月も経っていない私には答えようがない。

「きっと、誰かを待っていたんです。いつその者が現れてもいいように。それが……新城様なのではないかと、私は思うのです」

「そ、そんなわけないです! だって、出会ったのだって偶然だし、それに……そういう感情とは少し違う気がするんです。……なんとなく、ですけれど……」

 最後だけ小声になったのは、自分でも自信が持てない証拠かもしれない。

 と、車が止まる。

「到着いたしました。出来れば、坊ちゃまを起こしてあげてください。それから……坊ちゃまが新城様に惹かれるのは、なにか大きな理由があると思うのです。差し出がましいようですが、ご容赦ください」

 そう言って、執事さんは車から出て行った。私が起こさなければならないように仕向けているのだろうか?

 兎にも角にも、こいつを起こさなければいけないのは変わりないようだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ