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それから、俺と  作者: 坂上 葱久
オオカミくんと立候補
11/22

ジリ貧と逆転のヒント

 バッドエンド一直線。選挙活動が認められてから2日が経った。

 今は、学園近くの公園で作戦会議中だ。

 校門前で演説、ビラ配り。主に発信するのは変わらない学園ということ。今の学園に変化は必要ない。それならば、安穏と暮らせる磐石な土台を作るというのが一応の目標。トキトもチエが作った原稿を読んでくれているだけだが、それなりになんとか形にはなっていると思う。


 それほど語ってはいないのだが、この祭州学園は進学校である。それゆえ、治安というか乱れた行為ということは滅多に起きない。あるとしたら、不純異性交遊くらいなもの。

 そんな平和な学園なのだ。表向きには。

 だからこそ、見えてない部分には誰も気づかない。というか気づこうとしない。気づいても放置するのだ。

 そこを夙川は突いてきた。実はイジメがとある一部分で発覚したこと。それに対する処置、その後の予防策、現状に対する不満。どれも正論だった。そして、悪は排除されなければならないという一般常識的な正義感を振りかざす。


 また、現在の学園だけでなく、将来的な学園のあるべき姿も示唆した。

 この学園では一部の生徒以外の車での登校が認められていない。その一部とは特権を持つ生徒たちだ。

生徒会の役員、一定の遠隔地から通う生徒、その他病気やケガをした生徒。どれもそうするだけの理由がある。それを全生徒が自由にできるようにするというのが一つ。

 もう一つは下校時間の延長。19時までには学園から完全下校しなくてはならないという規則を少し緩めるというものだ。これは、試験前に図書館に篭もる生徒が多いこと、それから特に強豪である部活動の時間が伸ばすことができるという利点を生む。

 そう、アメとムチというヤツだ。一見、たいしたことのないような公約だが、そこを彼女が持つカリスマ性で補っているという具合だ。

 

 内容だけで言えば五分五分の反応だった。しかし――。

「マズイわね……これを見て。これが事前調査の結果。こっちが今日までの調査の結果」

 下馬評では99対1。今日までの調査のほうは92対8。その差は歴然だが、少なくとも始まる前よりは良くなっている。変化を望まない人が多いのか、それとも……?

「いいじゃない、下馬評以上にはなってる」

「はぁ……いい? 今日で2日が過ぎた。本番まで残り2週間弱。きっとこの差はどんどん埋まらなくなってくるわ」

「どうして?」

「こっちの勝負手は最初だったのよ。インパクト。それ以外になかったのよ。あの(・ ・)夙川に挑むヤツってのはどんなヤツなんだ? っていうね」

 なるほど、それなら興味本位でこちらの話を聞いてくれる人もいたかもしれない。でも、それは時間が経つにつれて少なくなっていくのは目に見える。なにか、一発逆転でもないかぎり。

「ちょっと、寝てないでアンタもなんか考えなさいよ!」

 寝ているトキトに喝を入れるチエ。いつの間にか、この二人もそれなりに会話できるようになっているみたいだ。

「俺は二人のやることに異論はないけど、そこに俺の意見を入れようとまでは思わないよ。好きなようにやってくれていいから」

 そう言って、またゴロンと芝生の上に横になる。なるほど、難しそうな本を持ってきたのは日差し避けのためなのか、顔の上にかぶせている。

 そんなやる気のないトキトにチエは「役立たず!」と一言だけ言って、飲み物を買ってくると自販機のある場所へ行ってしまった。


「ねぇ、少しくらいやる気出したらどうなのよ? このままじゃ私との約束もパーになっちゃうけど……」

 少し発破をかけてみようと約束のことをちらつかせてみる。

「うん? あぁ、まぁわかってるんだけど、これは俺の意思じゃないからね。なるようにしかならないんじゃないかな?」

 それでも一向にやる気をみせないトキトに、だんだんいら立ってきた。

「それより、明日のことだけどさー。何時くらいに迎えに行けばいい? 俺としてはできれば夜にしてほしいんだけど……」

「そんなもんないわよ! せめてやる気くらい出してから発言しなさいよ」

 たまり溜まったものをついに出した。トキトが悪いわけじゃないけど、そもそもの発端というか道をたどれば、トキトに行き着く。少しくらいは責任感があってもいいと思う。

「むぅ……それじゃやる気は出ないけど、一つだけ。きっとこの先、状況は変わるよ。そうだなヒントをあげよう。この学園の生徒会ってのはすべからく人気投票で決められてきたってことかな。以上、ヒント終了。後は、それこそなるようにしかならないさ」

 そう言って、今度こそ寝に入ってしまった。安らかに寝息なんて立てて。


 その後、戻ってきたチエとあーでもないこーでもないと無い知恵を絞ってみたけど、そんな逆転の糸口なんて簡単に落ちているわけもなく、諦め半分で解散と相成ったのである。

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