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明かされた真実

「うつろ船事件の下手人、愚霊の正体が、とうとう分かりました」

 才円はそう言って、正座をしたまま、ゆっくりと頭を下げた。すると、才円の前にいる奉行は、白い着物の襟を正しながら、神妙な表情で言った。

「才円とやら、こうして神聖なるお白州を開いたのだから、よほど自信があるようだな」

「はい、お奉行さま」

 才円はヒゲの同心のとりはからいにより、申し立てを奉行所に申請する事が出来た。そして、今日は奉行に、直々に才円の捜査報告を聞いて貰うのである。

 広い白州には白い砂が敷き詰められ、辺りには神聖な静けさがただよっている。日は今にも沈もうとしていて雪のような白州を赤く染めていた。そこに、才円とヒゲの同心が正座して座り、その前の一段高い所に、立派な服を着た奉行が、気むずかしい顔をして正座していた。この白州とは、奉行が裁判を行う神聖な場所である。

 再び才円が口を開いた。

「昨日、また愚霊による盗みがあったのはご存じですね。そして、僕は犯行現場の指紋を調べてきました。指紋というのは西洋の捜査方法で、人の指先の模様は、すべての人がそれぞれ違っているという事を元に、犯行現場に残された指紋から、下手人を判断する方法なのです」

 才円は、粉をまいたものを、墨を塗った黒い紙にのりで貼り付けている物を見せた。その紙には、なにやら渦巻き状の指の跡が付いている。それを見た奉行は、眉間にシワを寄せると、子供をあやすように才円に言った。

「才円よ。西洋では知らぬが、日本ではまだ、指紋は証拠として認められてはおらぬ。万人の指紋がそれぞれ違うとは、日本ではまだ、立証されておらぬからだ」

「しかし!」ヒゲの同心が、奉行に向かってそう叫ぶ。

「いえ、大丈夫です。もう結論を話しますので」才円はそう言って同心を止める。

 そして、才円は立ち上がってクルリと向きを変えると、スッと腕を上げて同心を力強く指差さし、静かにこう言った。

「あなたが……愚霊ですね」

「バ、バカな! わたしは同心だぞ!」

 同心は思わず、食ってかかる、だが、才円は落ち着き払ったまま、淡々と言う。

「あなたが書いた捕物帳を読んでいて気付いたんです。あなたの字は、愚霊が現場に残していた『みすてりい文字』とソックリだって」

 同心の表情が一瞬、固まる。

「フフ……だが、それだけでは弱いな。他に何か証拠があるとでも?」

 同心は、急に以前のようなイジワルな表情に戻ると、口元を歪めてニヤリと笑う。だが、才円は残念そうに、ただ、首を左右に振る。

「それがないんです、証拠はなにも……」

 それを聞いた同心は、腹を抱えて高らかにあざ笑った。

「ハハハハハ! だろうな」

「本当にもう、全くないんです……まるで、わざわざ消し去ったかのように」

「なに?」同心の表情が一変し、急に青ざめ始めた。二人のやりとりをまるで他人事のように聞いていた奉行の眉がピクリと動く。才円は続ける。

「逆に、これはおかしいとは思いませんか? 僕はあなたの証言から、昨夜、あなたが倒れていた小屋を調べました。しかし、あの小屋の木戸には、誰の指紋もなかった。あなたは一体(、、)どうやって(、、、、、)小屋の中へ(、、、、、)入ったのでしょう?(、、、、、、、、、)

 同心の額に汗がにじみ始めた。

「つまり、あなたは最初、指紋が付かない服装をしていたのです。だが、中に入るとそれを脱いだ。なぜ、そのような面倒な事をする必要があったのか? そう考えると、色々な考えが浮かんできます」

 奉行は慌てて立ち上がると、手を挙げて部下を呼んだ。ドタドタと騒がしい複数の人の足音が奥から聞こえて来る。才円はさらに続けた。

「あなたは愚霊だった。だが、盗みを働いている所をお銀に見つかり、小屋に逃げ込むと、同心の姿に戻って素知らぬフリをした。そう考えるのが、一番、自然ではないでしょうか」

 同心の周りを、複数の役人が慌ただしく囲み始める。才円は同心に近付くと、指紋を付いた紙を地面にハラリと投げ捨てた。

「確かに指紋は証拠として認められていません。万人の指紋がそれぞれ違うとは、まだ立証されていませんからね。だけど、その指紋がなかったとなると……十分に証拠になりませんか?」

 才円はそう言うとニッコリと笑った。そして、最後にこう付け加えた。

「人の部屋を勝手に監視したりするから、こういう事になるんです」

 同心は才円の言葉を聞きながら、ずっとワナワナと震えていたかと思うと、急に取り憑かれたように立ち上がった。

「うわああああ!」

 同心はそう叫ぶと、手足を振り回して暴れ出し、みんなはワッと散らばった。そのスキに、同心は向きを変えると、いちもくさんに逃げ出した。

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